第124話・学園の抱える問題
突然プリームスの腹時計が鳴った。
時刻は夕方の6時を少し回っており、昼食から特に間食もしていないので普通に腹が減る時間である。
「職員用の食堂がありますので、そちらで食べられますか? まぁ王宮の料理のようにはいきませんが」
とアグノスがプリームスへ提案した。
プリームスはお腹を摩りながら答える。
「一般的な食事で十分だ。宮廷の料理と言うのは、どうも堅苦しくていかん」
そう言う訳で4人は、この本館にある職員用の食堂へ向かう事にした。
理事長室がある塔を降りきり本館一階に来ると、ふとプリームスは気になっていた事を思い出す。
本館一階の広いフロアーで、生徒らしい4人の女子が受付を担当していた事である。
今は受付カウンターには人影が無い。
恐らく面会や来訪の可能時間は午後の6時くらいまでなのだろう。
「受付には生徒と同じ制服を着た女子がいたが、やはり学生なのか?」
とプリームスはアグノスへ尋ねた。
塔から一階フロアーに出て、右の通路を先導しながらアグノスは答える。
「はい、一応生徒扱いではあります。只、上級学部の修学を終え、就職せずに学園に残った者達で担当しています」
「ほほう?」
少し興味が湧いたプリームスは、更に尋ねる。
「学園を卒業せずにと言う訳か。どう言った立場と待遇になるのだ?」
職員用の食堂に到着し、アグノスが皆をカウンターへと案内した。
「こちらで食べたい料理を、自身でトレイと皿を持って取って下さいね」
カウンターの傍には大きな長テーブルが設置されており、そこに所狭しと料理が並べてられていた。
アグノスは手に持ったトレイと皿に、取った料理を盛りながら、
「え〜と、先程の話ですが、立場は魔術研究院の院生になります。待遇は学生と職員の中間と言ったところでしょうか」
とプリームスへ告げた。
プリームスはカウンター横に展示されている献立の絵を見ながら、思考するように顎に手を添える。
「成る程・・・取分け衣食住は保証するが、学園業務の従事と魔術研究の成果を出せと言ったところなのだろうな」
頷くアグノス。
「そう言う事です。惰性で研究されては只の穀潰しですから」
スキエンティアとフィエルテも2人に続き、習うよう料理を物色し始める。
料理は焼いた物から煮た物まで多種に渡り、20品目はありそうだ。
しかもそれ以外にサラダやデザートも有り、かなり充実している。
更に温かいスープが欲しいなら、カウンターに居る調理師に頼むと直ぐに提供してくれるようだ。
衣食住が保証される学園生活とは、何とも素晴らしい。
こう言った物を目の当たりにしてしまうと、魔術士学園に入学したい理由が、割と目先の事のように思えてしまう。
卒業による箔付や、安定した職に就けるのは勿論だろうが・・・。
丁度4人がけのテーブルが、カウンターの近くに有ったので皆でそこへ席に着く。
そしてプリームスが周囲を見渡すが、他の職員はまだ1人も来ていなかった。
大教室程の広さがある食堂なので、活気が無いと些か寂しい雰囲気だ。
「職員用の食堂なのに、誰も来ていないのだな。もう授業は無い時間だろう?」
と不思議に思いプリームスはアグノスへ尋ねる。
アグノスは銀のスプーンでスープを一口含んだ後、ゆっくりと嚥下する。
所作の1つ1つが優雅で洗練されており、改めて王族なのだなとプリームスは認識させられてしまう。
そうしてアグノスはプリームスに笑顔を向けて答えた。
「午後の授業の後は、学部外活動の顧問としての役割もあったりしますから・・・。それに翌日の授業内容の確認や準備など、講師は中々に忙しいのですよ。ですからいつも通りなら、7時位に食堂に来ると思います」
感心した様子のプリームス。
「学生も大変そうだが、教える側も中々に大変だな。それだけ忙しいなら、講師などの教職員の人数が足りていないのでは?」
少し気落ちした様子でアグノスは頷く。
「はい・・・ですがそう簡単に講師を増やす訳にもいかなくて、手詰まりな状況でもあります」
「うん?」と首を傾げるプリームス。
魔術師学園は国から委託され、魔術師の確保とその才能の保護を旨としていた筈。
講師となる魔術師が不足しているのは合点がいかなかった。
「どう言う事かな?」
アグノスはスプーンを置くと、隣に座るプリームスに向き居住まいを正した。
「魔術の知識だけなら魔術師でなくても教える事は可能です。しかし昨今、知識ばかり先行して実践力の弱さが指摘され始めまして・・・」
「むむむ?」
とプリームスは更に首を傾げる。
余計に要領を得なくなってしまった。
「詰まり、役に立たん
プリームスの毒舌に苦笑いしてしまうアグノス。
「その通りです。それに一番の問題は、そういった本物の魔術師が在野に身を潜めている事です。彼らは個々で魔術の研究に没頭する傾向があり、他人にその知識と技を教えたがらない・・・」
そう言った後、アグノスは溜息をついた。
「学園と言う組織に飼われるなど、彼らからすれば以ての外でしょうね」
「成程」
とプリームスは呟き、考え込む様に腕を組んでしまう。
すっかり食事の手が止まってしまったプリームスとアグノスである。
魔術師に限らず人とは、いつの世も権威に
そしてこの魔術師学園が抱える問題は、岐路に差し掛かっている事を物語っている。
それはバリエンテ達が関係するプリームスの計画に好都合とも言えた。
『柱が1本と言うのは何かと不安定で心配なものだ。だが2本あれば負担は半分になり、互いを支え合う事も出来る』
そうプリームスは内心で呟きアグノスを見やった。
「少し荒れるかもしれんが、最終的にこの学園の益となろう。出来れば下手に手を出さず、静観して欲しい」
その様にプリームスに言われては、アグノスも頷くしか方法が無かった。
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