第125話・理事代行1日目の終わりに(1)
時間も午後7時前となり、そろそろ職員達が食堂にやって来る頃合いである。
プリームスが食堂に居ては、皆見とれてしまい食事どころでは無くなってしまう。
と言う訳でプリームスは、そうスキエンティアに諭されて理事長室に戻る事にした。
一方アグノスは、フィエルテを連れて自分専用の執務室の戻ると言う。
お互い国は違えど王族であり王女である。
何か通ずる物があったのか、今夜は2人で過ごすようだ。
しかし少し拗ねた様子で、
「今夜はスキエンティア様とご一緒されるのでしょう? 邪魔者2人はさっさと退散する事にします」
アグノスはそう言うと、フィエルテの手を引いて食堂を出て行ってしまった。
スキエンティアは苦笑いすると自嘲するように呟く。
「これは嫌われてしまいましたかね。まぁこれも結局は節操の無いプリームス様が悪いのですけど・・・」
あからさまに嫌そうな顔をするプリームス。
そんな事を言われても、アグノスを身内に迎い入れてしまったのは不可抗力であり、状況が成せる技であったのだ。
正直、強く拒否しなかったのは、アグノスが自分好みの美少女であったと言うのもあるが。
『これはスキエンティアには言わないでおこう』
ソッとスキエンティアがプリームスの背中に手を添えた。
「どうなさいますか? まだ床につくには早う御座いますが」
「う~ん、風呂に入りたい。外は暑かったからな、いっぱい汗をかいたし何だか気持ちが悪い」
そう言ってプリームスは、自分の首筋を手で触れる。
すると突然、プリームスを抱きかかえるスキエンティア。
「わっ!? 何だ急に?」
特に悪意のある行動では無かったので、反応しなかったプリームス。
そもそもスキエンティアがプリームスへ悪意を働く訳がないので、いつも好きにさせていた。
その為、2人きりになると好き放題されてしまうのである。
そのままプリームスをお姫様抱っこすると、その首筋に顔を埋めてスキエンティアは匂いを嗅ぎ始める。
「汗をかかれてもプリームス様は良い匂いがしますよ。それに今は天使のような佇まいで、本当は汗なんてかかないのではと思ってしまいます」
「何を馬鹿な事を・・・って、ちょっと、止めなさいスキエンティア!」
首筋を弄られて
しかし口ではそう言うが抵抗はしない。
「私がお預かりしている以前のお身体の時は、威厳に満ちてそれはもう美しゅうございました。ですが今は弱々しいというか、儚いというか・・・。妖精や天使のように触れようとすれば、消えてしまいそうで心配です」
まるで今は威厳が無いとでもスキエンティアが言っているようだ。
更に匂いを嗅いでいたかと思えば、首筋に唇を這わせだす。
プリームスは悶えてしまい声が出てしまった。
「ぁぁあぁ・・・やめ・・・」
静かな食堂に、プリームスのか細い声が響き渡る。
不意にカウンターや厨房に調理師が居る事を思い出したスキエンティア。
今更焦っても仕方ないのだが、一応カウンターの方を確認してみる。
そうすると両手で口を押えて硬直している、白い前掛けを着けた人が居た。
暖かいスープを提供してくれた調理師の女性だ。
勿論こちらを見て驚いているのである。
一方、プリームスはスキエンティアに威厳が無いと遠回しに言われ、しかも悪戯までされて不機嫌極まりない様子だ。
『これは少し調子に乗り過ぎましたか・・・』
流石のスキエンティアも居た堪れない気持ちになってしまった。
スキエンティアは調理師の女性に苦笑いを向けて軽くお辞儀をする。
そしてプリームスを抱えたまま、そそくさと食堂を後にするのであった。
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結局プリームスは、スキエンティアにお姫様抱っこされたまま理事長室に帰って来た。
着いて早々ケープを脱がされるプリームス。
更に服までスキエンティアに脱がされて、何事かと驚いてしまう。
「気が早い! 先ずは風呂だろう!」
とスキエンティアを
キョトンとした表情のスキエンティアは、
「いえ、ですからお風呂なら着ている物を脱ぎませんと」
と少し小馬鹿にしたように告げた。
プリームスは"気が早い"のは自分であったようで、恥ずかしくなってしまう。
「くぅ〜! 余裕ぶりおって!」
そして以前も似たような展開があった既視感を感じる。
『どうもこの身体になってから、スキエンティアに遊ばれている気がする・・・』
などと考えている間に、衣服どころか下着まで脱がされていたプリームス。
すっかり全裸だ。
「うぉっ?! いつの間に?!」
長い付き合いでありながら、今更驚いてしまう。
そんなプリームスを横目で一瞥するスキエンティアも、既に衣服を脱ぎきり下着を外している最中だ。
少し呆れてプリームスは溜息をつく。
それからスキエンティアへ苦笑いを向けると、
「お前は私と2人きりの時が一番活き活きしているな」
そう諦めたように呟いた。
「なにを今更仰いますか。私の人生は出会った時から、貴女様を中心に回っていると言うのに」
と然も当たり前かの様にスキエンティアは真顔で言い放つ。
「本当に私の事が好きな奴だなぁ・・・自分で言うのも何だが、こんな年増のどこがいいのやら」
と自嘲するプリームスを見て、楽しそうに笑顔を浮かべて物言わぬスキエンティアであった。
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