第113話・無謀な展望と不明瞭な妙案

バリエンテはプリームスに将来の在り様について問われ、逡巡してしまった。

それは自分が大それた事を考えていた為で、しかもそれをプリームスは暗に話せと言うのだから尚更だ。



しかし黙っている訳にもいかずバリエンテは3人が見守る中、おずおずと話し出す羽目になる。

「この魔術師学園以外に魔術師を束ねるような組織が必要だと思った。俺たちのような無頼漢が、今更学園などに通うのは無理があるからな。それで考えたんだ・・・俺がその足掛かりになれないかってな」



これにはイディオトロピアが驚いてしまった。

「あんたそんな事考えてたの?! 無謀にも程があるよ」


恥ずかしそうに「うるせぇ!」と言ってバリエンテは黙り込む。

反論する術が無かったからだ。


だがノイーギアは茶化す事無く頷いた。

「出来るか出来無いかではありません。そう考える事が重要なんですよ」



ノイーギアにそう諭されて、次はイディオトロピアが黙り込んでしまう。



何と言うか、これは・・・。

ノイーギアはバリエンテに惚れているのではないか?

そう感じてしまったが、今はそんな事を考えている場合では無く慌てて思考を切り替えるプリームス。



居住まいを正すとプリームスは2人にも確認した。

「イディオトロピアさんとノイーギアさんは、どうなのかね?」



すると迷うことなくノイーギアは答える。

「私もバリエンテと同じような事を考えていました。バリエンテがそうしたいと言うなら手伝うつもりです」



イディオトロピアは諦めた様子で、

「もうここまで一緒に行動してたなら一蓮托生と変わらないわ。今更、私は違う考えが・・・なって言えないわよ」

と苦笑しながら言った。



ならば話は早い。

最終的な段階と得られるであろう結果は話さずに、今すべき事をプリームスは提案した。

「君達3人で団体を結成し学部外活動をしなさい。それと先程の話から、下級学部の修学は既に完了しているのだろう? なら学園生活の殆どを学部外活動に費やすのだ」



いきなりそう提案されて3人は唖然としてしまう。

イディオトロピアが渋い顔をしながら言った。

「でも私達が団体を作れるかどうかも怪しいのだけど・・・その確証もないのに学部外活動に時間を費やせって言われてもねぇ」



プリームスはニヤリと笑む。

「それに関しては心配しなくても良い。私が何とかしよう」



首を傾げて訝しむ3人。

バリエンテ達からすれば、プリームスは学園視察に来た国外からの賓客なのである。

その部外者が学園の仕組みに口出しできる訳が無いと思われたからだ。

詰まりプリームスは信用出来ても、目的の状況になるのか信用されていないのだ。



こればかりは無理にでも納得してもらわなければ話が進まない。

しかし安心してもらう為に建前は繕う事にした。

「視察に来た私に魔術の権威である学園の欠陥を見られたのだ。私がもし口外したら、学園の立つ瀬が無くなると言うものだろう?」



そこまで聞いてノイーギアは察したのか話に続く。

「成程、黙っておく代わりに、私達の待遇を改善するように進言するんですね」



頷くプリームス。

「だが”改善”では無い。飽く迄、団体を結成する許可のみだ。それ以上は無理があるな」



思案する仕草をしつつバリエンテは感心した。

「確かにその程度なら簡単に許可が下りそうだ。俺達が団体を作って活動した所で、只の悪あがきにしか映らんだろうしな。流石プリームスさんだ」



「でも・・・団体を作って活動して、どうなるの? バリエンテが目指すような事にそれが繋がるの?」

と不安そうにイディオトロピアがプリームスへ告げた。



至極当然で当たり前な疑問であった。

「大丈夫だ、私を信用して欲しい」

そう言う他、プリームスに術は無い。

全てを話してしまえば、それを意識してしまいボロを出しかねないからだ。

敵を欺くには先ずは味方から・・・そう言う訳だ。



そしてこの妙案の根底にはバリエンテ達3人の実力が、他の学生達より上であると言う事が前提なのである。

実力とは魔術だけではなく、人としての総合的な強さの事だ。

結局それが魔術師としての実力に直結する。

故に確認しておかねばならない。



「最終確認をしておきたいのだが、良いかね?」

と少し勿体ぶったようにプリームスは3人へ言った。



まだ少し不安そうな表情を浮かべるイディオトロピア。

バリエンテとノイーギアはもう覚悟を決めたような表情で頷いた。

「何だい? 遠慮せずに言ってくれ」



プリームスは椅子から立ち上がると言い放つ。

「君達3人の魔術師としての実力を見ておきたい。実践方式でな」

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