第112話・打開策

プリームスは率直にバリエンテ達に告げた。

「下級学部で、それも君達3人で学部外活動の団体を作ればよい」



それを聞いたバリエンテは落胆する・・・既に考えていた事だからだ。

それに団体を作る事さえ可能なのかも不明なのだ。



よしんば可能だったとしても、自分達に何の得も無いのは明らかであった。

「それは考えた、しかし今のままでは中級学部へは進学出来ない。中級学部の生徒でなければ、学部外活動も団体も意味が無い」

バリエンテは訴える様にプリームスへ告げた。



確かにその通りなのだ。

学部外活動に参加する為には、生徒が自らで管理する団体に所属しなければならない。

そして学部外活動は中級学部以上の生徒の成績に影響する。

詰まる所、下級学部で学部外活動を行っても意味が無いのであった。



プリームスもそれは分かった上で言ったのだ。

更に追い打ちをかける。

「うん? 先程と言っている事が違うようだが? 退学になっても構わない、下級学部に何か残したいと言っていなかったか?」



バリエンテは黙り込んでしまう。



見かねたイディオトロピアが申し訳無さそうに告げた。

「確かにそう言ったし、私も同意した。でも出来うるなら私達の境遇も何とかしたい・・・そう思うのは我儘なのかな?」



イディオトロピアの澄んだ声が響き渡り、直ぐに沈黙が部屋の中を支配する。

『気持ちは分からんでもない、八方ふさがりし万策も尽きて精神的にも疲弊しているのだろうな』

プリームスがほんの少し同情した時、突如ノイーギアが口を開いた。


「退学になっても下級学部に何か残したい、そう言った建前や意気込みを持っていないと、やっていられない状況なんです。でも、もうそんな強がりも無意味な程、私達は追い込まれていて・・・」



「ほほう?」と興味を持った様子でプリームスはノイーギアを見やった。



「待て! ノイーギア。プリームスさんに話した所でどうにもならん!」

バリエンテは慌てた様子でノイーギアが”その先”を喋るのを止めようとする。

しかしノイーギアは続けた。


「私達は後1週間で既定の修学期間を消費してしまい退学になってしまうんです。それに退学になれば免除されていた入学金を払わなければなりません。こんな不当な扱いを受けた上に、お金まで搾り取るなんて納得がいきません!」

そう怒りを露にしてノイーギアは言い放つ。



「ふむ、成程」と呟きプリームスは考え込んでしまった。

推薦と保護による入学者は入学金と生活費を免除される。

だが卒業出来ずに中途で退学した場合は、入学金のみ支払いを求められる。

当たり前と言えば当たり前だ。



恐らく1年間食扶持として利用されるのを防ぐ為だとも考えられる。

だが問題無い修学状況にあるにも拘わらず、不当な方法で進学を足止めし退学に仕向けるのは辻褄が合わない。

更に金まで返せとは中々に酷い話である。



『ならば逆転の機会があっても良いではないか』

切っ掛けは何であれ不当な扱いをされているのだ、学園の理事長を代行する身としては捨て置けない。

露骨に手助けするのはプリームスの信条では無いが、状況を打開する策を授けるくらいはしてやるべきだ。



「聞いておきたい事がある」

そう3人を見渡してプリームスは呟く。



「な、何だい?」と3人を代表するようにバリエンテが不安そうに答えた。

絶世の美少女であり、脆くて壊れそうなくらい儚いプリームスが、今は息を呑むほどの威圧感を放っていたからだ。



「将来、自分がしたい事、こう在りたいと考えている事はあるかね?」



そのプリームスの問いに暫く考え込む3人。

そしてバリエンテが一番初めに返答した。

「俺はこの学園と対立し続けてしまうだろう。どうも学園の制度と仕組みが気に食わないからな。だから卒業出来たとしても首輪をつけられた魔術師としては働きたくない」



魔術学園を卒業すれば、学園や国家から斡旋される安定した職に就ける。

それは野良の魔術師より確実に安定した生活が約束されるだろう。

だが傭兵稼業をしていた時のように自由は無くなってしまう筈だ。

その殆どが国家に携わる仕事なのだから・・・。



「詰まり?」

とプリームスは素っ気なくバリエンテに問い直す。

バリエンテの本意を引き出す為だ。



”まだ語り切れていない事があるだろう?”と暗にプリームスに問われ、バリエンテは逡巡する。

何故なら語るには少し憚れる大それた事を考えていたからだ。


しかし赤の他人でしかも部外者にも拘わらず、プリームスは自分達に肩入れし親身になって話を聞いてくれているのだ。

本意を語らなければ信義にもとると言うものである。



イディオトロピアとノイーギアが二人の様子を見つめ息を呑む中、バリエンテはおずおずと話始めた。

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