第30話・伝書鳥と陰謀
クシフォスが”鳥”と呼んでいた物の説明を始めた。
それはあらゆる状況の連絡手段として使われている物らしい。
特殊な訓練を受けた鳥に小さな書簡を持たせて近距離、遠距離問わずに運ばせるのだ。
興味津々でプリームスは問う。
「訓練とやらはどうやってするのだ? 鳥とはそんなに賢いものなのか?」
クシフォスは顎に手を置いて思い出すように話し出した。
「鳥使いと言うのが居てな、彼らが我が国では重要な連絡担当となっている。勿論、鳥使いがその伝書鳥を訓練しているのだが方法が特殊でな。伝書鳥候補の雛を1つの魔法石と共に飼育するのだ」
不思議そうに訊き返すプリームス。
「魔法石とな? 何だそれは? 魔晶石ではなさそうだが・・・」
クシフォスも首を傾げて話を続けた。
「う~む、恐らく違うと思うのだが・・・。それでな雛が成長するにつれて、その魔法石との繋がりが強くなっていくらしい。魔力を持った石ゆえ、雛も影響を受けるのだろうな。そして飛べるほどに成長した時に・・・」
説明を続けようとしたクシフォスをプリームスが遮った。
「分かったぞ! その魔法石とやらを二つに分けるのだろう?」
傍で黙って見ていたスキエンティアが苦笑した。
『350年も生きておいでですのに、知らない事が有れば子供のようにはしゃいで・・・まるで見た目通りに幼くなってしまわれたようですね』
そう思いスキエンティアは嬉しくなってしまう。
クシフォスが感心したように言った。
「ほほう、よく分かったな。では、その先どうするのだと思う?」
プリームスは思案しつつ話し始める。
「恐らくだが、分けた魔法石を2人の鳥使いが1つずつ持つのだろう。そして伝書鳥はその魔法石を認識できるくらいに繋がりが強くなる。どれだけ距離があってもな。後は、鳥が認識している魔法石の距離を調整して、行き来する訓練を続けるのでは?」
小さく手を叩くクシフォス。
「おおぉ~、流石プリームス殿だ。と言うか・・・ひょっとして知っていたのか?」
首を横に振るプリームス。
「いや、私の居た地ではそのような方法の連絡手段は使われていない。実に興味深いな・・・」
そして少し困ったような表情をする。
「しかし、そうなると増々先程の件が現実味を帯びてくるぞ」
眉をひそめるクシフォスは訊き返す。
「どう言う事だ?」
「死熱病原虫の伝染源となる蚊は5mm程と非常に小さい。生きたまま保管できる小さな筒でもあれば、伝書鳥でも運べよう」
とプリームスは言い放つ。
クシフォスは頭を抱えて唸った。
「不味いな・・・伝書鳥なら100km程度の距離は、3時間もかからずに着いてしまう」
訝し気にプリームスは首を傾げた。
「100km? 何故100kmなのだ?」
大きく溜息をついてクシフォスは話し出した。
「この町から首都である王都は100km程の距離だ。何か陰謀を企んでいる者が居るならば、死熱病原虫が王都に到達している可能性が高い。既に誰かが王都で死熱病に感染しているやも・・・」
プリームスは『杞憂では?』と思う。
この国の政治状況がどうなのかは分からないが、クシフォスと同列であるもう一人の大公が宰相なのだ。
しかもかなりの切れ者とクシフォスは言っていたような・・・。
ならば宮廷内での争いは上手く鎮め纏め上げて、王都も平和であるように思えた。
『いや、待てよ・・・強すぎる勢力、つまりこの場合は宰相だが・・・。政治的に対抗出来ないなら、強硬手段を取る可能性も考えられる。しかも軍部の頂点であるクシフォス殿が混沌の森に出払って失踪となれば・・・』
プリームスは他人事だが、癖の所為か深く洞察をし始めてしまった。
クシフォスに鋭い視線を送るプリームス。
「王都にある軍は、クシフォス殿の管理下に本来はあるのだな? 今は誰が軍司令を代行しているのだ?」
急に話を振られて慌てるクシフォス。
「え? うむ・・・今は副軍司令の俺の息子と娘が二人で代行している。どちらも優秀ではあるが、まだ経験不足ゆえ2人で代行させているがな」
「ならば早々に王都へ戻った方が良いかもしれん。もし死熱病を意図的に感染させられた者が、政治中枢や軍部頂点の人間なら大変な事になるぞ」
とプリームスは警告した。
そしてプリームスは更に重大な危機も視野に入れた。
この国の国王が死熱病の標的にされると言う事だ。
この場合は、他国の侵略、又は宮廷内の跡目争いな訳だが・・・どちらにしろプリームスからすれば関わりたくない状況だった。
クシフォスは突然、テーブルに額を押し付けるように頭を下げた。
ゴンッ、と大きな音がした。
「プリームス殿! 無理は承知でお願いしたい! 俺と一緒に王都に来て欲しい! そして死熱病に感染した人間を治療してやって欲しい」
暫し無言でクシフォスを見つめるプリームス。
傍で見ていたスキエンティアは気が気でない様子だ。
するとプリームスは呟くように言った。
「それはレクスデクシア大公ではなく、私の友人であるクシフォス殿のお願いかな?」
テーブルに額を着けたまま下を向きクシフォスは答えた。
「そうだ! だからこの国の法的な強制力も何も無い・・・俺個人の願いだ」
続けてプリームスは問うた。
「私やスキエンティアの身に危険が及べば、それを全力で排除するが構わないか? それが貴族だろうが王族だろうが、私は一切折れぬし手は抜かんぞ」
「分かっている!」と叫びに近いクシフォスの声が食堂に響いた。
「了解した。”友人”であるクシフォス殿に力を貸そう」
そうプリームスの声がした。
顔を上げたクシフォスの表情は感激にも似た満面の笑顔だ。
しかし、その額は真っ赤に晴れ上がり、プリームスとスキエンティアは笑いを堪えるのに必死になってしまうのだった。
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