第28話・混沌の森の謎とカース
プリームスとスキエンティア、そしてクシフォスの3人しか居ない診療所の食堂。
プリームスが話す内容には、他人に聞かせられないような物が多いからだ。
故にスキエンティアが気を利かせて人払いをした。
クシフォスが改まったようにプリームスを見つめ話し出す。
「やはり死熱病の事を詳しく聞いておきたくてな。絶対に他言はせんし、聞いた内容を何かに利用したりなどもしない。どうだろうか?」
プリームスは頷いた。
「私も話しておいた方が良いかと思い始めていた。だが前提として特効薬の製法は教えない。まぁ、知ったところで私以外に作る事は出来んだろうがね」
「ふむ・・・」と相槌を打つクシフォス。
「では訊こう。死熱病の本当の発生源はどこなんだ?」
「やはりそれが一番きになるか?」
とプリームスは言い、笑むと続けた。
「カースと言う魔物が私の以前居た地で存在した。人目に付く事は殆どない魔物なのだが、とても恐ろしい存在でな。カース専用に対策していないと、相対した者は必ず”いつか”死んでしまう」
「おおう? 何だそれは、聞いた事も無いな・・・」
とクシフォスは興味深々のようだ。
プリームスは真剣な面持ちで続ける。
「カースは俗にいうアンデットで見た目は人とそう変わらない。只、全身が腐敗していて物凄い悪臭を放っている。魔物としては、それ程強くないのだが・・・」
クシフォスはプリームスが言わんとする事に気付き呟いた。
「まさか・・・そいつが死熱病の根源なのか?」
頷くプリームスは嫌そうに語り出す。
「死熱病原虫だけでは無く、色々な病原体を体内に保有して歩き回っているのだ。過去の古い記録によれば、死人使い《ネクロマンサー》や邪神が地獄から召喚したと記されているが・・・真実は定かでは無い。幸いなのが個体数が非常に少なく、人が営むような地域では徘徊していない事だな」
唸るような様子でクシフォスは考え込んだ。
「そのカースが混沌の森に居ると言う事・・・なのか?」
スキエンティアがおずおずと話に割って入る。
「その事なのですが、私の索敵魔法ではそれらしい魔物は全く見当たりませんでした」
「これは私の推測なのだが・・・」
と、一旦訳有りのように間を置いてからプリームスは再び話し出す。
「死熱病はあらゆる生き物に寄生して発病させる。なのに魔物達には問題ないように私は感じた。これは詰まる所、混沌の森は死熱病も含めて生態系が完成しているのだ」
「むむむ?!」と唸るクシフォス。
「もっと分かり易いように言ってくれんか?」
プリームスとスキエンティアはお互いを見合わせた。
『脳筋だ・・・』
『相変わらず脳筋ですね・・・』
何となく2人が思っている事に気付いたのか、クシフォスは少し怒った様子で言い放つ。
「貴殿ら俺の事をバカだとおもっただろう! 俺はバカではなく、ややこしい言い回しが嫌いなだけだ!」
「分かった分かった・・・」
とプリームスはクシフォスに謝ると話を続けた。
「つまりだ、魔物達が死熱病にかかっても大丈夫なように、混沌の森は対策されているのだ。私が刈って収納していた葦があっただろう? あれが特効薬の原材料なんだよ」
少し理解し始めた様子のクシフォス。
まだ補足が必要なようだ・・・続けてプリームスは説明する。
「本来ならあの葦は、特殊な方法で精製して薬に変えるのだが、魔物達は体内に取り込むことによって、それを精製できるのだろうな。因みにその効果は、死熱病原虫を雌雄共に生殖能力を破壊する。更に他の生物からすれば取り込み過ぎれば、同じく生殖能力を失う毒となる」
ようやく理解できたようでクシフォスは驚いた顔をしていた。
スキエンティアが考え込むような仕草をする。
「ですが・・・カースは一体どこに行ってしまったんでしょうね? 広大な混沌の森を覆う程に死熱病を蔓延させるには、何百、何千と個体数が必要のような気がしますが」
クシフォスも同じ意見のようだった。
「俺もそのような魔物の話は一度も聞いた事が無い」
「混沌の森はこの地の人々が知り得て、どれくらいの年月が経つのだ?」
とぶっきら棒にプリームスは言った。
クシフォスは思い出すように宙を仰ぎ、呟くように答える。
「大転倒後には、既に存在したと言われている。ゆえに1000年以上は有るのだろうなぁ」
「フッ」と小さく笑うとプリームスは言った。
「だろうな・・・森の外周にある古代樹の森が良い証拠だな。あの木々は優に樹齢が1000年を超えているからな」
クシフォスが首を傾げた。
「それがカースとどう繋がるのだ?」
スキエンティアが気付いた様子で拳で掌を叩いた。
「なるほど! その長い年月をかけてカースを使い、死熱病を含めての森の生態系を完成させた訳ですね? そして不要になったカースは処分されたか、どこかに隔離されたか・・・」
プリームスは頷いた。
「恐らくそうだろう。取って付けたように死熱病原虫に効果がある”葦”といい、伝染源となる蚊・・・混沌の森は何者かによって作り出され、管理されていると思った方がいいだろうな」
驚きすぎて呆然としてしまったクシフォス。
国家の重職に就くクシフォスが、そのような事を毛ほども勘づいていなかったと言う訳だ。
つまり他の国も、このプリームスが推測した真実にはたどり着いていないだろう。
そして触れなければ危害を及ぼさない混沌の森。
ならば”今”は無理に触れるべきでは無いとプリームスは考える。
しかしだ、このボレアースの町は”触れてもいない”のに死熱病の患者が続出した。
この事について考えられる危険を、プリームスはクシフォスに伝えるべきだと確信する。
「クシフォス殿・・・もっと大変な事実を貴方に伝えなければならない・・・よいか?」
と念を押してプリームスはクシフォスへ言う。
嫌そうな顔をするが、背筋を正してクシフォスは聴く体勢に入った。
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