第4話 告解
祐輔が教会へ行くと、いつもあの少女が白いワンピースを着て現れた。そのたびに、胸が激しく鼓動した。しかし祐輔はたった一言の会話さえ、その少女と交わしたことがない。それでも、祐輔の心象風景に少女の幻影が焼きついて、何をしていてもあの少女のことばかりが頭に浮かんでくる。だんだん練習にも集中出来なくなり、このままでいることが苦しくなって事態の改善が急務となった。
(いっそ、告解でもしてみようか)
†
古い告解室に入ると小窓が開かれ、神父の呼びかけがあった。
「回心を呼びかけておられる神の声に心を開いてください。何があなたの心を掻き立てているのですか」
「ある女性への恋です。……その人は白い服を着て、毎日僕の前に現れます。そして彼女が舞い踊るたびに、僕の心も揺さぶられるのです」
「人を好きになるのは素晴らしいことです。でも、恋心を神に返して誓願を立てることもまた、素晴らしいことなのです」
「どういうことでしょうか?」
神父は少し間を置いて答えた。
「ある女性のことをお話ししましょう。彼女は中学生の時、修学旅行から帰って来ると両親が居なくなっていました。身寄りのない彼女は教会の運営する施設に引き取られたのですが、すっかり生きることに失望してしまいました。でもある時、神に出会ってから彼女は明るさを取り戻しました。そして神に誓願を立てる決意をしたのです。だから彼女は高校を卒業すると修道院に入ります」
「……それはつまり一生独身ということですか?」
「はい」
祐輔は頭をガツンと打たれた。その女性が誰かは明らかだった。彼女のことは諦めなければならない。しかしわかっていても恋の炎はますます燃え上がってしまう。祐輔は悩みに悩んだ。オルガンを弾く気にもなれず、教会を飛び出した。
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