ふたり

「ま、待って」


廊下を走る音。


「おねがい。待って」


「椅子は大丈夫ですから、そのまま」


「違うの。お弁当。お弁当を」


「え?」


「お昼に、待ってます。思い出したんです。同じ夢を。ごめんなさい。もうわすれない」


「あはは」


「なんで、泣いて、え?」


「いやごめんなさい。俺、生まれた頃から影が薄くってね」


「ごめんなさい。私がばかだから、夢のことを忘れてたから」


「いやいや。同じ夢を見ていた。それだけで充分ですよ俺には」


「だめです」


「えっ」


「もっと一緒にいたい。お昼だけじゃない。いつでも。だから、お昼に待ってます。お弁当持って」


「俺たち、会ってからまだ3分そこらしか経ってないですよ」


「それでも」


「同じ夢を見てた仲ですね。分かりました。お昼に、行きますよ。下駄箱前」


「あと、名前を。忘れないように、名前を教えてください」


くぬぎです。椚角柄くぬぎかどつか


「椚さん。待ってます」


「ありがとう。じゃあ、お昼に」

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