8 仮名坂悠理
なんだったんだろう。さっきの男子生徒。
急いで走ってきて、そして、しょんぼりして帰っていった。
この椅子に何かあったんだろうか。
そういえば、私が座っている椅子。なんで、ここにあるんだろう。
たしか、下駄箱の前で突っ立ってたら、誰かが椅子を。
「そうだ」
椅子を置いてくれて。
お返しに。お弁当を。
鞄を開ける。夢と現実がごっちゃになってる。お弁当。ふたつある。
時計を見た。ホームルームと一時間目の間ぐらい。
そうだ。
夢を。
夢を見たんだ。
夢の中で、お弁当をあげて。
そのあと会えなくて。どこにもいなくて。
それでも椅子に座り続けて。
それで、目が覚めて。
そうだ。
いま、走ってきた人が。夢の。同じ夢を。
椅子から立ち上がった。
走って、追いかけないと。
会わないと。
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