1 椚角柄
不思議な人だった。
ずっと、下駄箱の前に立っている。
先に体育館の鍵を開ける予定だったので、他のメンバーよりも先にホームルームを抜けて、階段を下った。その先に、女子生徒。
もうベルも鳴ってるのに、ずっと下駄箱の前に立っている。
最初はいじめられているのかと思ったが、どうやら違うらしい。ちゃんと上履きに履き替えている。何か汚れている部分もない。
そして、顔がちゃんとしている。いじめられている人間特有の卑屈な雰囲気が、ない。
「どうぞ」
椅子を、差し出した。
困惑したような表情。
「いや、ちょうどサボりたかったので」
奥から、声がする。たぶん、委員会の同僚。
「おい
「すまんすまん」
鍵を投げた。
「おれはここに座ってるから、やっといてくれ。席順はそっちで決めていいから」
どうでもいい保護者会だった。椅子と机さえ並べておけば、勝手に先生と保護者が会議して躍るだけ。議題なんてありはしない。
「さて」
自分も、椅子に座った。直視しないように、少し斜めの位置取り。これなら、観察しても相手からは認識されにくい。
相手が喋り出すまで、ゆっくりと観察した。
服は少し濡れている。鞄は背負うタイプ。こちらは濡れていない。眼鏡に水滴もついていない。
制服の線は二年のものなので、同学年。ただし、兄弟姉妹のものを使い回している可能性がある。
「あの」
「なんでしょ」
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