1 仮名坂悠理

雨。

「雨か」

傘。

下駄箱。

少し濡れたスカート。


始業を告げるベル。はやく教室に行かないと、遅刻してしまう。

それでも、歩く気がなくなっている自分がいる。


思春期というのは便利なもので、なんとなく休みたくなったら休んだり、意味のないことで悲しんだり切なくなったりしても理由をつけられる。思春期だから、というだけで。


先生が言っていた。思春期じゃなくても休みたくなるし、どうしようもなく生きるのがいやになることもある。

大人になると、思春期という便利な言い訳が使えなくなるだけ。だから、みんな仕方なく生きている。


教室以外に、特に行き場があるわけではなかった。自販機の周りは不良が吹き溜まっているし、屋上はこの雨で使えない。


図書室か、保健室か。

両方とも好きじゃなかった。


下駄箱の前で、ぼうっと立ち続ける私。

「座りたいな」


廊下の奥から、人が何人か来た。

委員会の人だろうか。椅子と机を運んでいる。体育館で使うのだろうか。


「よければ、どうぞ」


後ろ。


男子生徒。


私に、椅子を差し出す。

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