第8話 決着
ギャオゥー
首の後ろに緑色の矢を受けたボブゴブリンが叫び声をあげた。
人間なら致命傷だ。
振り上げた大刀の刃先は方向を失い、ふらふらと地に堕ち、魔物はうめきながらかがみこんだ。
タケルは時を失わない。
救いの矢の射手も確かめずにすぐさま太刀を拾い上げ反撃に転じる。
その闘気を感じて反射的に顔をあげたボブゴブリンだったが、まず低い位置にあった左肩から縦の太刀が浴びせられる。
深く剣先が食い込んで青い血が噴き出した。
グギャー
そう叫んで立ち上がったそれの胴体にタケルは満腔の力を込めて高めの位置で横の斬撃を入れる。
その刹那太刀が
「ブシュッ」
という音とともに真っ二つに斬り抜く。
グギャー
ひときわ大きい叫びをあげて、ボブゴブリンは、地に斃れる。
上半身と下半身がずれたままで。
「タケルさん!」
先ほどまで聞いていた銀の鈴のような澄んだ声。
「にいちゃん、お見事!」
野太い声。
振り向くと二頭の馬。
近い一方にはサーベルを抜いた狼顔の獣人、そしてもう一方にはゴブリンの群れに弓矢を構えたエルフの女性が跨っていた。
エルフの後ろには、エルゼの姿が。
タケルは頭を下げて
「ありがとうございました」
「礼はあいつらを蹴散らしてからや」
そう言うと獣人は、棟梁が討たれて動揺しているゴブリンの群れに近づき、サーベルを構える。
「ここから去らんと斬りはらうで」
大声で吠えると、ゴブリンたちはたくさんの
余りにもあっけない。
リーダーを失った魔物は弱い。
「もう大丈夫なようね」
弓の構えを解いたエルフが馬から降りた。
エルゼも同じように下馬する。
タケルは体力の消耗を覚え、太刀を地に刺し片膝をついて、まず弓矢を持ったポニーテールのエルフ、エリナに向かって頭を下げ、
「助けてくださって、ありがとうございました。
矢がなければ死んでいました。おかげで生き延びることができました」
「あなたは妹を救ってくれた恩人です。私の方こそ、お礼を言わなければ。ありがとう」
タケルは彼女に一礼し、エルゼに向かって
「ありがとう、助けを呼んでくれて」
エルゼは泣いていた。
それは緊張が解かれたためなのか、
タケルが助かった喜びのためなのか、
おそらくどちらにも当てはまるのだろう。
「あ、当たり前です。私の方こそ、助けてもらったのに1人だけ先に逃げて。弱くてごめんなさい…」
「そんなことはない! 助けを呼んでくれなかったら、死んでいた。僕を信じてくれてありがとう」
「えっ? 」
「僕との約束を信じてくれてありがとう。再び会う約束、守ったよ」
タケルは微笑んだ。
エルゼは涙の川が激しさを増した。そして、よろよろのタケルに不意に抱きついた。
「また、会えてよかった」
タケルはよろけそうだったが堪えた。
エルゼは今日会ったばかりのタケルの胸に顔を埋めて泣きぎゃくる。
これには姉のエリナも驚いたようだ。
タケルは戸惑いながらも、いつの間にか心地よく意識を失っていく。
「ありゃりゃ、エルゼ嬢、にいちゃんにまず
エルゼはガルフの言葉に我に返って、そして赤面。
「まあ、無理ににいちゃんを起こさなくてええ」
ガルフは、ボブゴブリンとその周りの夥しいゴブリンたちの死骸を見て、
「このにいちゃん、一人でこんなに倒したんか~。すごいで…」
「屍肉喰らいの魔獣たちがやって来たら面倒だわ。来ないうちに戻りましょう」
エリナが帰還を促すと
「ボブゴブリンの魔緑石だけ取っておくわ」
と言って、ガルフは、意識を失ったタケルを抱き上げて馬に載せるとボブゴブリンの骸に向かった。
タケルは馬上で、戦いの後の安らかなまどろみに落ちているのであった。
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