第7話 ボブゴブリン
ズバッ、ズバッ、ズバッ
あれからどれくらい経っただろうか?
タケルは太刀を振り抜き続ける。
グギャッ
というゴブリンの叫びとともに血しぶきが舞い、首、腕、肩、手首、いろいろな部位が飛び散る。
ゴブリンの死骸がタケルの周りに積み重なっていた。
それでもゴブリンは、歯をむき出しにして諦めもせず掛かってくる。
石槍で受けた太腿の傷から流れる血はタケルの意識をゆっくり刈り取っていく。本来ならもう出血多量で死んでいてもおかしくない。
だが、ここまで意識を保てているのは、きっと御神体でもあるこの太刀のお陰だろう。
こう思ったとき、
グガー
という大きく太い叫び声があたりを領した。
ゴブリンたちの動きが止まり、静まり返る。そして、道を作るように真ん中を空け始めたのである。
なにかがゆっくりと先ほど来た道の方から歩んでくる。
今戦っていたゴブリンたちの3〜4倍くらいの
暗緑色の肌。
大型のゴブリンらしい。
おそらくボブゴブリンと呼ばれる類のものだろう。
分厚い胸板と太い腕、いかにも力が漲って見える。
素手でも恐ろしい。まして、大きな刀剣を持っているのはなおさらだ。
ボブゴブリンはゆっくりタケルに近寄ってくる。
タケルは身構えた。
この大型の種はここに群れなすゴブリンたちの棟梁みたいなものに違いない。
普通のゴブリンをタケルにけしかけないということは、一騎打ちでタケルを仕留めたいということだろう。
この怪物を討ち取れば、群れごと敗走するのではないか。
一騎打ちで勝つ!
タケルは恐怖は追いやって、腹を決める。
ボブゴブリンは、タケルの数メートル先に来ると体の大きさがいっそう実感された。3メートルはあるだろう。
それはタケルを見下ろすと四角い中華包丁のような
グアー
地が震え、耳をつんざくような声量だった。
「いくぞ!」
タケルが気後れせず、すぐに縦の剣戟を浴びせる。
先手必勝だ。
が、タケルの渾身の一の太刀を、ボブゴブリンは大刀でたやすく横に薙ぎ払う。
太刀ごと、タケルは飛んでしまいそうだったが、それを転換の力に変えて右足を軸に体を回転させ、横の斬撃を敵の脚に入れようとした。
敵は大刀で己の足元を即座に守る。大きいうえに俊敏な動きもできて、パワーだけの怪物ではないようだ。
タケルはいったん下がり、この敵との最適な間合いを確かめめるかのように、剣を構えて様子を
ゴブリンの群れは、この戦いを囲むように少し離れた場所で成り行きを見ていた。
沈黙したままである。
しばしのあと、ボブゴブリンが大刀を突き出す。
太刀でなんとか受けいなして再び間合いを取る。
四角い刃物ゆえ先で突いても平べったいから切れはしない。
が、その身でまともに受けたら打撃の破壊力で今のタケルは立ち上がれないだろう。
それは死を意味する。
ボブゴブリンは縦に切りつけてきた。
その剣戟をタケルは十文字に横の太刀で受け続ける。
一見細身の日本刀だが、大型の刃物による激しい衝撃を受けても刃こぼれ一つせず、タケルの命脈を守っている。
御神刀の力を信じてこの刀で受けて見せるタケルがいた。
「そりゃー!」
タケルが大きな敵の腹部に強い刺突を試みた。
だが、あともう少しというところで、大刀の腹で防御された。
ボブゴブリンは動体視力もしっかりしている。
「ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ」
今度は、ボブゴブリンの斬撃がしばらく続く。
タケルはなんとか受け流していた。
タケルの剣術をもってすれば、御神刀の力も相まって、攻撃は当面防げるかもしれない。
しかし、傷一つ敵につけてはいない。
受けるだけでは体力が剥ぎ取られ、やがて敗北を迎えるだろう。
活路はないのか?
そう考えたとき、ボブゴブリンの縦方向の剣筋が不意に変わり、横から激しい力で掬い上げたのである。
タケルは太刀を垂直に立てて対処したけれども、刀同士が当たった衝撃で横に飛ばされて、地に転がった。
初めて太刀を手放してしまったタケル。
数メートル離れたところにタケルの命を守っていた頼みの武器が転がっていた。
タケルは身体の痛みを顧みず、太刀に向かう。
それを見逃すボブゴブリンではない。
怪物が無刀のタケルに突進して追いつき、大刀を振り上げたとき、タケルは振り向いて目を見据えた。
(あきらめない!)
ボブゴブリンが大刀を振り下ろす刹那、剣戟を
勢い余った、大刀の先は地に刺さり、ボブゴブリンは少し屈みこむ形になった。
そのすきにタケルは己の太刀に向かおうとしたがまだ手が届かない。
怪物はすぐに大きな刃物を構えなおしに再び振り下ろそうとした。
まさにその時であった。
「グサッ!」
鈍い音とともにボブゴブリンの太い首に矢が刺さったのである。
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