第6話 エルゼの悔しさ
エルゼは泣きながら走っていた。
必死に走っていた。
救援を呼ぶために。
自分を守るために戦いを選んだ恩人を助けるために。
なぜ残って戦わなかったの?
それは自分が弱いから…。
弱い自分が悔しい。
悔しい…。
強ければ、一緒にあの場所に残って戦う選択肢だってあったのに。
でも、戦闘スキルのない自分は、あの時、足手まといでしかなかった。
いや、言い訳だ! 言い訳だ!
結果を考えず残って戦ってもよかった。
簡単な魔法しかできない自分、
体術もままならない自分。
エリナ姉さんだったら、弓術であるいは攻撃魔法でゴブリンぐらいは、簡単に仕留められる。
他のみんなもそう。エルフなら誰でもできること。
自分はゴブリン一体さえ倒せない。
「うっ、うっ、う〜」
悔恨の涙が頬に筋を作って垂れ続ける。
エルゼの胸は情けなさににじんでいた。
しかし、思い返す。
なんとか、タケルを救うのだ、と。
いま非力な自分ができるのは、助けを呼んで、タケルさんの元に戻ることだけ。
せめてそれだけはやりとげる。
警備役がいる詰所まで行けば、誰かいるはず。
だから、全力で走る。
そんな時ふいに
「エルゼ、聞こえる?」
胸に下げたヒスイ色のペンダントが発光している。
暗闇に包まれつつあったエルゼの心中に光が灯った。
「姉さん、聞こえるよ!」
ペンダントにエルゼが答える。
通信魔法の魔道具だ。
「今までどうしてたの? 心配したわよ。結界の外に行って帰ってこないんだから」
エルゼは立ち止まり、ペンダントを胸に掲げて、叫ぶ。
「姉さん、助けて。お願い、助けて!」
はなはだしい涙声。
妹のただならぬ声に姉のエリナの心は張り詰めた。
「私を助けてくれた人が殺されそうなの! ゴブリンたちに。お願い、姉さん、助けて」
事態は
「あなたは無事なの?」
「私は大丈夫、もう結界の中にいるから。タケルさんを助けに行って。結界の外で戦っている。ゴブリンの群れと戦っているの」
(タケル? 聞いたことのない名。エルゼを助けてくれたのだ)
エリナは妹の必死の願いにすぐに応える決断をした。
詳しい話は後だ。
「分かった、エルゼ。助けに行く。動かず、その場にいて。いま、どこにいるの?」
「第4石柱と詰所の間。小池のそば」
「すぐ向かうわ。動かず待っていて」
「うん、待ってる」
馬に乗っていたエリナは、エルゼが付けていたペンダントと同種のものを手に握りつつ、近場で見回りに出ている筈の部下を交信魔法で呼ぶ。
「ガルフ、聞こえる?」
間をおいて、
「聞こえてまっせ。どないしたエリナ殿?」
太い男の声がペンダントに響いた。
「エルゼがゴブリンの群れに襲われたみたい。彼女は無事だけれど、助けてくれた誰かが危ないらしいわ。急いで来てくれる?」
「イエッサー! 場所はどこかいな」
騎乗のガルフは、エリナと落ち合う場所を聞くと、馬の進路を変える。
(ここいらのゴブリンが襲ってくるなんて、驚きや。こりゃ大変なことにならなぁいいが…)
警戒モードに入る儀式のようなものだ。
そして、鋭い耳を立てて、エリナと落ち合うべく、馬に鞭打った。
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