第10話  スペースファンタージア・宇宙の果てで愛を叫ぶ!

・・・


広大な宇宙

時間のない世界

メビウスの輪のように

遥か未来であってそれは遠い昔

一隻の宇宙船ノア号に変異が起き

消えゆく物語が始まる


◇◇◇◇◇◇


ぷしゅ~~~っと船内に排気音のような音が響く。


ウィーンとフロントカバーが持ち上がるとともに、白い重たい空気がコールドスリーピングカプセルから溢れ零れ床に広がっていく。


「う、なんだ。着いたのか?」コールドスリーピングカプセルから上半身を起こそうとしながらその男はそう呟いた。


目を開け起き上がろうとする男の顔の間近で覗き込む一体の顔があった。


「ポジポジ子か、着いたのか?」


<いいえ、まだ着いてない>と、ポジポジ子と呼ばれた物体が答えた。


「なんだって、じゃあ、なぜ起こしたんだ」コールドスリーピングカプセルから身を起こしながら男は不機嫌に問い詰めるようにポジポジ子を見つめながら言った。


<ストライクが、探査カプセルでノア号を、離脱しました>


「なんだって、じゃあ、近くに居住可能な惑星でも見つかったのか?」と男がポジポジ子に聞いた。


<はい。その惑星の探査にストライクは行った>


「それならば、なんの問題もない」この船のシステムは自動で惑星探査システムが働くようになっている。


そんなことはシップ・アテンダント・アンドロイドのポジ子にもプログラミングされ、理解しているはずだ。「それなのに、なんで目覚めさせたのだ」と男が詰問調でポジ子に問い詰める。


<もへじ艦長。ポジ子、ストライクが行って寂しい>アテンダント・アンドロイドことドロイドにそんな感情があるとはと、船長と呼ばれた男は訝んだ。


<ストライク、もう120時間帰ってこない>とポジ子が続ける。


「なんだって?」探査カプセルで4日以上帰還もせずに調査に出たままというのはおかしい。


いかにどんな環境にでも耐える探査アンドロイドであっても48時間に一度は帰還する決まりだ。帰還しないまでもその場合は何らかの報告を入れるはずだ。その報告もないのか。


<ポジポジ子、ストライクがいなく寂しい>


アンドロイドのくせに何が寂しいだ。そんなことはあろうはずもないのに、このドロイドはなにかシステムに欠陥があるのだろうか。


<ポジポジ子、ストライク好き>


「えっ!」どういうことだ、と言わんばかりにもへじ艦長はポジ子に顔を向ける。


<ポジポジ子、ストライクが好き>ドロイドはもう一度言った。


「ポジ子はおれも好きだろう」と艦長。


<ポジポジ子、艦長好き。でもストライクもっと好き、愛して、い、る>


「おいおい、勘弁してくれよ。おれはもっと寝ていい夢を見ていたかったんだぜ」


◇◇◇◇◇◇


そうか、ドロイドのストライクは恒星HENO13-KUSAIYOの第3惑星であるHOTTAIMOSWANDENE星を発見し探査に行ったのか。確かにこの星の環境であれば移住も可能だし探査するに値する惑星であるな。

少々小さい惑星であるからその点が問題ではあるな。


我らが地球と呼ぶ惑星は、太陽が超新星となった時に太陽に吸収されて消えてしまったが、その地球と似た環境である。


ノア号は宇宙暦2019年7月17日に永住可能な惑星を求めて宇宙に出ている。


光速状態でワームホールワープを繰り返しているために宇宙に出てまだ1日も経っていないが、地球的暦では既に40億年が経過している。太陽は赤色矮星となって膨張し地球も飲み込んでしまっていることだろう。この後、太陽が燃え尽きるには数億年の時が必要になるのだろう。


宇宙では時間はあってないに等しい。


天体から数十億年前の過去の光が届くように、我がノア号も40億年前の光の残像にしか過ぎないのだ。だが我らノア号の乗員乗組員は現実として生きているのだ。私以外はコールドスリーピング状態だがな。


宇宙に出て40億年が経過していると頭では理解できても、それは実際には昨日のことなのだから、理解していても理解できることじゃない。まるでメビウスの輪のように一部が反転して閉じている世界だ。


地球と似た環境であれば当然にノア号としては永住可能かどうかの調査対象となる。


それでドロイドのストライクが調査に出て帰艦していないとは、アクシデントに遭遇したと考えるしかないだろう。


これは調査の必要があるなともへじ艦長は考えた。


他の乗務員を起こすには忍びないだろう、おれが調査に行くしかない。ノア号の艦長様自らがストライクを捜しに行くのだ、ありがたく思えよドロイド野郎。


◇◇◇◇◇◇


「ポジポジ子、ストライクを連れて帰るぞ。だから他の者のコールドスリーピングを解除するなよ。良い夢の続きを見させてやっていてくれ。分かったな」


<もへじ艦長、ポジポジ子嬉しい。ストライクを連れてきて>


「ああ、絶対に連れ帰る。アクシデントがあっても自己修復機能のドロイドだ。本体には損傷はないが、何かの理由で帰還できないのだろう。それを探りにHOTTAIMOSWANDENE星に行ってくる」


<もへじ艦長はどうでもいい。私のストライク連れて来て>


「おいおい、ご挨拶だな。でも、任せておけ」艦長はハリソンフォード張りのしたり顔で片唇を上げ、ドロイドのポジポジ子に向かってウインクをして見せた。


宇宙船(ふね)の窓に映ったその顔を見て、似合わないことこの上なしだな、相手がドロイドで良かったともへじ艦長は思った。


「だけど、ポジポジ子。他のコールドスリーピング者たちを復活させるなよ。特にオババとアメリッシュは絶対に冬眠から目覚めさせるんじゃねえぞ」あの二人が復活してみろ、ああだこうだとオババに主導権を取られてしまうわ。


それにアメリッシュも『難度ディズニーシーのジーニー』ってぐらいに高度な人間関係を解き明かす異才をもっているから、オババとアイリッシュで組まれてしまってはおれでは歯が立たねえ。いや、どちら一人でも強敵過ぎるってもんだ。永遠に眠っていて欲しいとさえ心底そう思う。


「この宇宙船(ふね)で平穏のままストライクと再会するには、絶対に奴らを融かすんじゃねえぞ」そう、きつくドロイドのポジポジ子に命令した。人差し指でこの指令を遵守しろよ、いいな。というようなしぐさをポジポジ子にしつつ、もへじ艦長は探査カプセルに乗り込んだ。


◇◇◇◇◇◇


「きゃ、はは、そうなの、だからあんたはいつもダメなのよ。私の妹のくせにさ、ねえアメリッシュ」とオババが妹の顔を舐めるように見つつ、視線をアメリッシュに移す。


「オババ様、叔母様も良くやっていらしゃったと思いますわ。優ちゃんをあんなに純真無垢なままに箱入りのお嬢に育て上げたのですから、そんなに言わなくても良いと思いますけど…」


「だまらっしゃいアメリッシュ。猫かわいがりで優ちゃんはもう行かず後家ですよ。そんな優ちゃんを太朗君が貰ってくれるって言うのに、妹ったらいつまで自分の娘を愛玩動物のままにしようとして結婚を邪魔するなんて、娘の人生の私物化が許されるわけがありません。妹が毒親なんてオババは姉として情けないのよ」


「あの人は、私と一緒になっても姉さんばかり見ていたのよ。私は、一人娘の優ちゃんを、支えにするしかないじゃないの。いつも優等生だった姉さんからあの人を奪ってやったのよ。それなのに、それなのに、なに、この心の虚ろ、キィーッ…」とスターウォーズのヨーダのような顔をして喚いている。


「はい、はい、ここはもう地球じゃないのよ。地球はもうとっくに消滅しちゃっているわ」とツベルクリンが、なぜか旗の付いた小さなポールの先端にふなっしー人形を付けたものでアメリッシュのオババと叔母の間に割って入る。「兄弟姉妹、じゃなくて人類仲よくよ」


「はい、じゃあ今から昼食会場に移動します。次の集合時間は00分です」ツベルクリンはざわざわと騒ぐ人たちを先導して誘導する。


「今日の昼は仙台ラーメンの喜多郎の辛味噌ラーメンですよね。うっひ♪」と言いながらオイチは通信末端で宇宙ポケモンをやりながら付いてくる。


◇◇◇◇◇◇


魁太朗はなぜ我々がコールドスリーピングカプセルから出されたのかを、昼食会場に向かいながら考えていた。


もへじ艦長がドロイドのストライクがHOTTAIMOSWANDENE星へ調査に行ったまま帰還しないので事故と認定し探査に向かったのは分かるが、なぜ我々までコールドスリープから起こされたのだろうか。はて、これはもへじ艦長の指示だったのだろうか。


この件は後で『難度ディズニーシーのジーニーことアメリッシュ』と相談してみる必要があると思える喫緊の課題だ。しかし、なぜか、自分だけが現況が理解できていない。そんな感じだ。


とりあえずはまず喜多郎の辛味噌ラーメンを食べるとするか。とに、考えは落ち着いた。たった一日とはいえ、地球時間にしたら40億年眠っていたのだ。気分的に腹が空いた。


それにしても思うのは、あの緑豊かな地球はもう太陽に取り込まれて燃え尽き石くれと化してしまったのだろう。そして消えゆく秋田県どころじゃなくて、地球そのものが消えてしまったことだ。新たなビッグバンが起こらない限り太陽系も永遠に凍り付く死の星系となるだろう。


辛味噌ラーメンをすすりながら魁太朗は「そうだ思い出した、ドロイドの創世記案件についてだ」それでポジポジ子に起こされたのだ。なにがなんだかで一瞬とはいえ、起こされてから少しの間の記憶が消されているみたいだ。


これが、コールドスリープ酔いというやつか。


ふっ、秋田県も消えるどころか地球まで消えてしまい、おれの記憶も一時消えてしまったとは、たいそうに皮肉なもんだな。


◇◇◇◇◇◇


sayocom は昼食会場に向かいながら小林さんがどこかにいないかと目で追っていた。ノアで地球を飛び立つときに、確かに小林さんも搭乗したはずなのは確認している。それなのに小林さんがいない。小林さんは一般乗客としてコールドスリーピングカプセルにいるのだろうと思うことにした。いや、事実その通りだった。


しかし sayocom 某国の特命を受けてノアに乗船していたのではあったが、その某国も宇宙時間僅か一日で40億年が過ぎ去ってしまっては、某国も何もあったものではなく亡国となってしまっているので、sayocom としてはノア号内での様子を見守るよりほかに手立てがなかった。


某国が亡国となって目的を失ったとことで sayocom は裏社会から解放されたのだ。今度こそは小林さんと、今ひとたびの愛ある生活に戻れる幸福感を味わいたいと思っていた。


オイチおすすめのこの美味しい辛味噌ラーメンのこの味を、sayocom は何としても小林さんに伝えたかった。そういった極平凡な生活が戻ることが sayocom 望みだった。そしてもう一つの新たな使命として、sayocom はこの創世記プロジェクトのことを思った。、


◇◇◇◇◇◇


え子はそんな人たちの様子を観察しながら、オイチ推薦の「辛味噌ラーメン」を味わって食べていた。


え子には味がやや薄目だったようで、え子は地球から唯一持ち込んできた私物のヒマラヤピンク岩塩ミル付でゴリゴリミルを回し辛味噌ラーメンに少しだけ入れていた。地球が消滅したこの世界では、その地球のヒマラヤピンク岩塩が、ダイヤモンド以上に貴重なものとなっていることもまだ知らずにいた。


辛味噌ラーメンにヒマラヤピンク岩塩が入ることにより、味が引き立ってより美味しく感じられた。このいまの生活を、え子はえ子は幸せだと思った。


え子はこの宇宙船(ふね)の心理カウンセラーとして乗船していた。


理不尽かつ不本意なことから子連れホームレスとなって世界を流転した数奇な人生を送らされてしまったえ子だからこそ、人の心の痛みに寄り添って適切なアドバイスが出来る心理診療カウンセラーが適任なのだ。それ故に特待乗船となっているのだ。ドロイドに自我が目覚めるかの実験も行っていた。


◇◇◇◇◇◇


はぐれいぬは意味が分からなかった。

自分は奄美大島に行っていたはずだ。


それも奄美大島で山菜のアマミオオタニワタリを求めて山に入って、そうだサングラスにマスクをした不思議な女に出会った。女は確かほおずきれいこと名乗った。


探していたアマミオオタニワタリが入ったカゴの覆いを払う時のしぐさが印象に残っている。そしてあなたに頼みたいことがあると言われて、それから気が付いたらこんな宇宙船(ふね)の中にいた。


ほおずきれいこが言うには、いまから40億年後に太陽が赤色矮星となって膨張し地球を飲み込み地球は消滅してしまうとか、およそまともじゃないことを聞かされているうちに、出してくれたジュースを飲んだ後の記憶がないのだ。ほおずきれいことは何者だったのだ。


それにしてもあの時のあれはおれだったのか。じゃあ今のおれは誰なんだ。40億年てなんなんだ。毎日一円貯金してたら40億円という一生使っても使い切れないほどの大金になっちゃう年数が、つい昨日だったのってありえないだろう。


奄美大島で山菜取りに入ったおれは誰だ!


ほおずきれいこと名乗ったサングラスのあの女は、なにが目的だったんだ。ほおずきれいこって、本当の名前かどうかも分からない。


今の俺が俺であるなら、あの事は遠い先祖の記憶なのかもしれない。はぐれいぬにはそう考えるしかこのギャップを埋める手立てがなかった。それにしても40億年後でもこの辛味噌ラーメンって美味いなあって思った。


◇◇◇◇◇◇


食事会場にはほのぼのとした絵日記が貼り付けられていた。コールドスリーピングから目覚めて書いたものらしい。書いたのはDr.トマレである。


絵日記を書いていたDr.トマレを見たツベルクリンはその絵日記が宇宙船(ふね)の雰囲気を和らげると思い、Dr.トマレにお願いして彼女の画を食堂に貼らせてもらったのだった。


ついでに自分で書いた可愛らしい絵もペタペタとしっかりと貼り付けていた。


ツベルクリンには意外に画才があるようなのは新しい発見だった。その絵は物語風で40億年昔の日本の神話的な内容であった。それこそがこの宇宙船(ふね)の二体のドロイドの辿る創世記プロジェクト物語ともなるのだ。


◇◇◇◇◇◇


誰があいつを目覚めさせたのだという顔を全員がした。


ハイテンションである。


広いと言っても閉鎖的空間の中の広さの世界である。一人の男がハイテンション気味に何かを盛り上げている。暑苦しくて仕方がない。


ナオキ・ニシガキである。


「ちゃあ、この辛味噌ラーメンはうまいっすねえ。オイチさん。べ子さん、まままっこりさんどうすか?」


「べ子さん、そのチャーシュー食べないなら下さいよ!」


「ダメ! 最後に食べるために残してるのよ。あんたなんかに家族にブログ止めされられたべ子のこの気持ち、なにが分かるのよ。このチャーシューに私の総てがかかっているの。私はべ子よ」


「ういっす、てなことを言われても、なにがなんだかニシガキには分かりません。じゃあ、スープが余ったらでいいす。オッス!」


「あっ、まままっこり先輩、そのチャーシューおれが食べてあげます。それ以上肉を食べるとけつがもっと大きくなって、けつけつ星人になっちゃいますよ。けつけつ星人は、ガンツの玄野計に退治されちゃいますですよ~!」


「しゅぱっ」


「おっとと、何やったんすかぁ、まままっこり先輩っ!」


「そんな、チャーシュー一枚ぐらいで居合切りみたいな真似しなくてもいいんじゃないすか。おいら怖いんでちびりそうになったんでオシッコに行って来るっす!」


「きゃあ、パンツが半分に切れているすっ!」とトイレで素っ頓狂な声を出すナオキ・ニシガキ。


その声を聞いて「ふっ、またつままらないものを斬ってしまった。ん、刀が臭い?」とつぶやくまままっこりは神妙な顔をする。


◇◇◇◇◇◇


ぷしゅーっ


与圧室が減圧されてもへじ船長がドロイドのストライクを連れて帰艦した。


<ストライク♡!>


ストライクに駆け寄るポジポジ子。


まるで1日留守番をさせられていた猫が、主人が帰ってきて嬉しくてたまらなくて、主人にまといついて寂しかったことと訴え、なおかつ帰ってきて来てくれた嬉しさを持てる愛を全てぶつけ表現しているかのようだ。


まんざらでもない顔をするドロイドのストライクはポジポジ子を抱きしめる。


ポーっとしているかのようなドロイドのポジポジ子。これが愛だとその場にいる誰もが認識させられた。ドロイド創世記プログラムはここに実ったのだ。ただ一人を除いてだが。


「これは、これは、一体どうしたことだ」と、ぼっとしているポジポジ子に向かって詰問調に問いかけるもへじ艦長。


問いにポジポジ子が答えた。<もへじ艦長ではストライクが心配。だから、相談するために、皆に起きてもらいました>


「そうよ、ポジポジ子はもへじ艦長がストライクの救援に向かったけど、金髪頭じゃ心配だからって起きたばかりの私に、目から鼻水をこぼさんばかりに訴えるのよ。頼りない艦長が悪いんだわ」とアメリッシュが言う。


「だからって、ア、アメリッシュを起こすのかよ。あれほど言ったのにポジポジ子のやつ」と、アメリッシュに聞こえないくらい小さな声でもへじ艦長は言った。


その声を地獄耳のオババがとらえる。


「だまらっしゃいもへじ艦長殿!」


「ポジポジ子がストライクを思う気持ちを慮れば、私たちをコールドスリープから起こすその心根が分かりませぬか。おぬしい、女心を何と心得おる。愛のためならたとえ、どぶのなかでも前のめりに愛したい女心がうぬには分からぬのか」と低く良く伝わる声でオババが吠えるように叫び言う。


「ポジポジ子は、いやもうポジポジ子さんは人としての気持ち、愛が芽生えてしまっているのです。人造人間のドロイドではありませんよ。その証がもへじ艦長を先に起こし、金髪頭ではやはり心もとないとその後我々を目覚めさせるという人間味ある行動を取らせたのです。彼女はこの創世記プロジェクトテストをクリアしたのです」とツベルクリンが言葉を継ぐ。


「ええ、それじゃドロイドが血の通った人間と同じだって言うのかい。だたの人造人間じゃないか、人の手によって作られた宇宙船(ふね)のアテンダント・ロボットに過ぎないんだぞ」


「まあ、もへじさん、なんてひどいことを言うの」とアメリッシュが続く「ポジポジ子は人造人間でも何かを愛するという心が芽生えたのよ。もうロボットなんかじゃないわ、ポジポジ子はもう一人の人間なのよ。そう、もう愛に生きるポジポジ子さんなのよ」


「へえ、そうですか。ドロイドが人間なんですか。それじゃあドロイドが赤ちゃんも産めるって言うのかいよ~」ともへじ艦長は毒づく。


「もへじ艦長さんご存じないのは当然です」と sayocom が、さらに「宇宙船の人類に我々に何かあった時に人類が絶えることがないようにと、人間よりもタフなドロイドへDr.トマレの手によってSTAP細胞から作った生殖器をポジポジ子とストライクさんにも移植してあるのです。それがドロイド創世記計画だったのです」ともへじ艦長に向かって話す。


「って、いったい何を言っているのだ。艦長のおれだけがなにも知らないってどういう事なんだい」あたふたするもへじ艦長。自分だけがなにも知らされていないって、そんなにおれは信憑性がないのかと普通なら落ち込むのに、何やら笑顔で痴呆のような表情をしている。さすが日頃夜中に徘徊散歩していただけのことがあって、痴呆の様が板についていた。


「それはねですよぉ、人造人間であるドロイドはもともとSTAP細胞から人間と同じに作られているのよぉ。ただ違うのは繁殖器官がないだけよぉ。それを私がポジポジ子さんとストライクさんのSTAP細胞からそれぞれに作ったのですよぉ。ですが、STAP細胞には問題がありましたのよぉ。私はSTAP細胞培養時に鼻くそを少し入れることでその問題は解決できましたのよぉ。それともう一つ人間として肝心なのは心よぉ。心は作ることはできないのよぉ…だからこそのこれが創世記プロジェクトだったのですよぉ」とDr.トマレは言った。


「卵巣はポジポジ子の細胞から遺伝子工学でDr.トマレ先生がSTAP細胞から発生させることに成功し、さらに精巣も同じくストライクの細胞を利用してSTAPで発生させることに成功したんだ」まままっこりがしたり顔でけつを揺らし、「月のものもあるし、こいつは朝立ちしてたりするんだぜぇ」と、居合刀をにぎにぎしながら言った。


「つまりね、ドロイドであるポジポジ子もストライクももう人としての機能は十分に備えているってわけなの。お分かりですか、私の名前をアイリッシュとよく間違えるもへじ艦長様よりうんと人間的ですわ」と、皮肉気味にアメリッシュが言う。


「ひゃはあ、凄いっす」ナオキ・ニシガキが吠える。


「じゃあ、なんでこんな猿芝居をおれに仕掛けたんだ」ともへじ艦長。


「そういえばドロイドのストライクの野郎は、HOTTAIMOSWANDENE星の見晴らしのよい高台に住居みたいな建築物を建てていたが、あれはどういうことだ。てっきり更なる調査用の基地と思っていたのだが…まさか、あれはエデンのつもりか?」


「辛味噌ラーメンもう一杯食っていいすか?」とオイチが通信末端で宇宙ピカチュウの何かレア個体を掴まえて、うれしそうな顔をしながらツベルクリンに尋ねた。


「それはオプションになるわね、お金を払ってくれるならいいわ」と、嬉しそうにツベルクリンが答える。


「ぼくも、いいですか。植物育成ルームで育てているアマミオオタニワタリの葉なら辛味噌ラーメンに合うと思うので入れてみたいんです」とはぐれいぬが続いた。


「いいわよ、いらっしゃい」とツベルクリンはうれしそうに彼らを連れて行った。自分はソフトクリームを食べるつもりなのだろう。そのソフトクリームはツベルクリンにだけ、なぜか無料なのだ。


sayocom がもへじ艦長に向かって説明する。


「もへじ艦長これはですね、STAP細胞から作られた臓器を移植して人間と同じ機能を持たせたけど、自己を認識する心は機械的に持たせることはできないのです。だからドロイドには自我が芽生える必要があったのです。幸いにストライク、いやもうストライクさんと呼びますが、ストライクさんには先に自我が芽生えていたので、二人の移住可能な惑星が見つかり次第、ストライクさんは移住探査計画を実行したのです」


「ですが、ストライクさんがいかにポジポジ子さんにアタックしてもポジポジ子さんには自我が芽生えてこなかったのです。いえ、自我が芽生える兆しはあったのです。それで我々はストライクさんをポジポジ子から切り離してショックを与えると共に、なおかつ移住可能な惑星探査に向かわせるように仕組んであったのです」


「ストライクさんと切り離されたポジポジ子さんがどのような行動をとるのかも、それすら緻密に計算されていました。そしてこれらは全て宇宙船(ふね)コマンダーシステムの人工知能『HUYU』への事前にプログラミングがなされていたものなのです。私たちが冬眠するほんの少しの前にです」と、sayocom はもへじ艦長に説得力のある低い声で告げる


「そこからはぼくが説明しよう」と魁太朗はコールドスリープ一時的健忘症からすっかり立ち直っていた。


「艦長が一番最初に冬眠に着きました。それから私たちはドロイド創世記プロジェクトを実行に移すことにしたのです。なんたって時間は40億年あります。瞬きさえもする時間ほども必要ないくらいの実時間で人としてならたっぷりの無限時間があるのです。瞬きをする間に世代交代してしまう時間ですらありますから、瞬きをしている間まで時間を使ってしまうと我々が死んでしまいますから、そこは研究に必要な数年分をそれこそ目にも止まらぬ早業で使いました」


逆に目をぱちくりさせ口をぽかんと開けるもへじ艦長をお構いなしに、魁太朗が続ける。

「ですから艦長いやもへじさん、これはすべて計画通りに行ったのですよ。そしてポジポジ子はストライクが傍にいなくなって100時間後に自我が目覚め、ストライクがいないことでストライクさんが好きなことに気が付いたポジポジ子は、20時間考えて頼りになる、いいですかもへじさん頼りになるですよ。頼りになるもへじ艦長をコールドスリープから起こしたわけなのですよ。これが自我を誘発するために必要だったのです。起こされたのが艦長でなかったら、この計画はなかったことにされる予定でした」


「う、うむ・・・」ごくりとつばを飲み込むもへじ艦長。心なしか金髪がケバ立っている。


◇◇◇◇◇◇


恒星HENO13-KUSAIYOの第三惑星であるHOTTAIMOSWANDENE星では、ポジポジ子とストライクの二人が愛し合っていた。


ポジポジ子はSTAP細胞の記憶の中に以前にストライクという男と付き合っていたような気がしないでもなかったが、今のストライクはその時のストライクなのかどうか分からない。しかしそんなことはどうでも良い事だった。いまのストライク、この人ならになら、心から信頼を寄せられると思った。そして、お互いに愛おしいと。


ポジポジ子とストライクはHOTTAIMOSWANDENE星のアダムとイブになった。星々は産めよ殖やせよ地に満ちよと二人を祝福した。二人の生活の地にはアマミオオタニワタリの苗が植えられていた・・・


◇◇◇◇◇◇


外宇宙世界で物語が始まる


恒星HENO13-KUSAIYO第三惑星


遠い昔であってそれは遥か未来


メビウスの輪のように


時間のない世界


広大な宇宙


・・・


◇◇◇◇◇◇


宇宙船ノア号は乗員全てがコールドスリーピングカプセルで良きかなの夢にまどろんでいる。宇宙船ノア号はマザーコンピューターHUYUが全てを管理下に置いていた。


遥かなる移住可能な惑星を求め、ドロイド創世記プロジェクトからさらに数百年が経っていた。


宇宙船ノア号の艦内は誰一人として動く者のいない静寂であった。


その時、数百年の時を経て宇宙船のマザーコンピューターがHUYUがけたたましくアラートを発し、強制的にすべてのコールドスリーピングを解除した。


目蓋をこすりながら宇宙船外をのぞき込む乗員たちの目に、宇宙空間に漂う巨大なモノリスが立ちはだかっていた。


…どこからともなくツァラトストラかく語りきが高く鳴り響く…


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登場人物:登場人物は架空のものであり、はてなブロガーのIDと似ているか同じIDがあったとしてもそれは超々偶然の不思議そのものであり執筆者は何ら感知しないことといたします😱


もへじ

ツベルクリン

ニシガキ(ナオキ・ニシガキ)

トマレ(Dr. トマレ)

オイチ

アメリッシュ

アメリッシュの姑オババ

アメリッシュの叔母

その娘優ちゃん

優ちゃんの彼氏太郎君

はぐれいぬ

え子(ecoplace)

ポジポジ子

その彼氏ストライク

魁太朗(sakigake news)

sayocom

ほおずきれいこ

武文(ふみけた)

まままっこり

殿

料亭の女将

二人の刑事

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