第2話 縁石

縁石の上を歩く。

ふらふらしながら歩く。


体が歪んでくるとバランスを取ろうとしてより体が歪んで振るえてくる。

歪んで振るえる体をなんとか立て直し縁石の上で踏ん張る。


路面よりわずかに高い縁石。


路面の上を一直線に歩くならなんでもないのに、わずかに盛り上がった縁石の上を歩くと体が振るえる。


両手を左右に伸ばしてバランスを取ってみる。

左右の手が天秤棒のように上下に振れる。


自分の足元ばかり見ているから余計に歩きにくいのだ。


落ちる怖さを乗り越えて少し遠くに視線をやればうんと歩きやすく成ると頭では分かっていても、落ちるという失敗を恐れるあまりつい足元を見てしまう。


落ちてもわずか10センチの高さ。

何が怖いのか。


怖いのなら縁石の上を歩かなければいいのに。


この辺では稀有な20mばかりの直線の縁石の上を、路面から10センチばかり高くなった縁石の上を歩くチャレンジをしている。


通るたびにチャレンジしている。


行き交う人が、この人って変な人っぽく思うのか、目を合わさないように通り過ぎてゆく。小さな子供がすることをこの人は何、って顔をして過ぎていくものもいる。

子供でさえ、縁石の上でふらつく老人をちらっと見て、不思議そうな顔をして通り過ぎて行く。


初老の男はそれでも縁石の上を歩く。


縁石以外は深い、深い、谷だと思って歩く。


いつか、その深い谷に落ちていく自分を思って、縁石の上を歩く。

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