異世界への扉
静吉@居直るど・ダ・ヴィンボー
第1話 千勢
2020-06-29
異世界への扉・・・1
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水たまりに飛び込んだのは、そこが異世界への入口だったから
道路の縁石を歩いたのは、それ以外がマグマだったから
ガラクタを拾ったのは、それが未知の世界からの秘密の宝物だったから
ブラジル在住のパパガイオさんのツイートより
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千勢(ちせ)は思う。
雨上がりの朝の通学路、小学校に通ういつもの道。
まだ、多くの生活道路が舗装されていない時代だった。
そんな時代だった。
道の所々に青空と白い雲が落ちていた。
黄河の源流に、大小無数の池が太陽の光を反射し輝き、まるで星宿る海のごとくに見えることから星宿海という場所があることを父が教えてくれたことがある。
千瀬は雨上がりの晴れた朝、落ちている青空を眺めるのが好きだった。
落ちている青空を眺めていると、ふと白い雲に乗れそうな気がした。
「えっ、なに?」
千勢は落ちている空がなにか囁いたかと思った。
「千勢、おいで」
落ちている空から千勢を呼ぶ声がした。
「千勢、おいで」
落ちている空からはっきりと「千勢、おいで」と呼ぶ声がした。
千瀬は一瞬、落ちている空から顔を上げ、あたりをキョロキョロと見回した。
みんな、落ちている空を見ていた。
誰かが落ちている空に足を踏み入れた。
足を踏み入れた子はそのまま、落ちている青い空に吸い込まれていった。
一人ひとり、また一人と落ちている空に吸い込まれるように消えていった。
目の前の落ちている空に視線を戻した千勢に、落ちている空がはっきりと「千勢、おいで」と呼びかけた。
千瀬はみんな呼ばれて行ったんだねって思った。
懐かしいような呼び声に誘われて行ったんだと思った。
何処かで聞いたような声で「千勢、おいで」と呼ぶ声。
私の名前が千勢だと知っている声。
落ちている空から千勢と呼ぶ声。
周りを見回すと残っている子は二人か三人ぐらいだった。
懐かしいような声に呼ばれてみんな行ってしまったんだ。
千勢は前に千勢はなぜ千勢という名前なのと、父に聞いたことがある。
父は千勢という名は人を思いやり助ける。
そんな人になるようにと付けたんだよと言っていた。
千勢は父親を早くに亡くしていた。
落ちている空で星宿海から父が呼んでいるような気がした。
亡くした父を忘れることはない。
それでも千勢は亡くなった父との決別は出来ていた。
落ちている空からの声は懐かしいその父の声ではなかった。
千勢は落ちている空に顔を近づけて覗き込んだ。
クリンとした目がより丸く見開かれ水面に映る。
落ちてきいる空の底に泥溜まりが見えた。
落ちている空を見るために曲げた体を千勢は起こす。
千勢は落ちている空を突っつくように右足を差し出した。
波紋が広がった…
何事も起こらなかった。
千勢はブラジルで母になっていた。
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