宝物の形

仲仁へび(旧:離久)

01



 学校の中。

 とある教室の黒板には白いチョークで文字が書かれている。


「君達の宝物を発表してください」


 なんて風に。

 道徳の授業だ。

 誰でも好印象を受けるような穏やかな笑みを浮かべたその教師は、教卓の前から、一人一人机を並べてお行儀よく座っている生徒達を指名していった。


「みんな色々な物を発表していってね」


 アクセサリとか、文房具とか、ペットとか。


「そう。

 宝物の形って、人それぞれだよね。

 知ってるよね」


 人によってそれは、物だったり、行動だったり、絆だったり、思い出だったり、人間だったりする。


「誰かが「そんなものが?」と思うような物でも、当人にとってはれっきしとした大切な宝物なんだから、馬鹿にしちゃいけない」


 人の宝物を指さして、笑ったり、貶したりする事は最低な事だった。

 人として、それはやってはいけない事。


「だから。安心して。

 君も自慢の宝物を見せてごらん」


 教師はある生徒を指名する。

 生徒はおどおどとした様子で、周囲を見回しながら大切なそれを見せた。


「これが、宝物です」

「残念ながら、それは宝物じゃありません」


 教師は言った。

 宝物の形は人それぞれ。

 物でも、行動でも、絆でも、思い出でも、人間でも良いと。


 けれど、少年が発表したのはそれ以外のものだった。

 それは、名前。


「どうしてですか、名前がないと僕達は誰が誰だかわからなくなっちゃう」

「名前なんてなくたっていいんですよ。問題ありません。だってここは学校です」


 学校は、均一な品質で、とがりのない製品をつくるための場所。


 君達が大切にする宝物は、子供らしい物で良い。

 君達が大切に思う宝物は、子供らしさを求める皆の理想を反映したものでいい。


「さあ、やり直して」

「じゃあ、僕の宝物はおじいちゃんからもらった物で」


 教師に怒られた少年は、今度は違う宝物を発表をした。


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宝物の形 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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