第23話 そして

ポケットのスマホが鳴ったので、俺は優仁との抱擁を中断する。


「お兄様、アンジェラさんの意識が回復しました。もう大丈夫そうです」


「そうか、世話を診てくれてありがとうな、静香」


「それから、鈴音の記憶が戻りました。彼女はそれでも変わることなく、私を選び、私の傍にいたいと言ってくれて…お兄様が、学園の諸悪を退治してくださったお陰です」


「いや、それはお前がきちんと彼女に愛情を注いだからだと思うぜ。…これからアンジェラを迎えに行く。じゃあな」


俺は電話を切った。すると優仁が問うてくる。


「これからどうするの?」


「ニューヨークに帰る。まだまだエクソシストとしての仕事が待ってるからな」


「そう…僕は…」


「馬鹿、お前も一緒に決まってんだろ?」


「……」


黙って此方を真っ直ぐ見つめてくる彼。俺は目を反らし、わざと大きな声で。


「あーでもパスポート偽造しねえとな、また。子供の有彦の奴ならあるが。仕方ねえな、また金と手間がかかるわ…


ああ、そうだ、パスポートが出来るまで、日本で観光してのんびりするのもありか?


そういやアンジェラは、京都に行きたがってたっけ」


ニッと笑って見せる。彼も俺に向けて柔らかな笑みを浮かべている。


「僕は京都でニシン蕎麦が食べてみたいんだよね」


「良いなそれ、んじゃ、いっちょ骨休めの計画たてるか?」


俺は家族のような小さな存在を失ったが、新しくもう一人のパートナーを得た。


エクソシストとしての俺の冒険は、まだまだ終わらないようだ。


end


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セフィロトの樹 九条静寂の冒険3 @hotarappy

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