第22話 二人の記憶に
不意に、他のものとは異なる記憶が流れてくる。それは言語にはならない、ただの概念だけのような。虚無的な空間が広がっている。
人という存在もない。愛もない。夢もない。
それを記憶と呼んでいいのかもわからない。
ただそれは、優仁のものだと俺にはわかった。
彼は自分を高次元な存在であると言っていた。だが人間になり、初めて暖かいふれあいや愛を知ったと。
この冷たく広がる無のような記憶が彼のものなら、彼はどれだけ独りでいたのだろうか。
俺は、黙ってその記憶を抱き締める。
優仁が振り向いた。
「奏多、そろそろ僕は、もたない…すべての記憶は元の持ち主に還ったかい?」
「いや、コイツだけはまだだよ」
「それは僕の記憶だね」
「ああ、そうだ。だがコイツはお前にゃ還さないよ」
「どういう意味?」
ゆっくりと俺は優仁に近付き。そして彼の唇に唇を重ねた。彼を抱き締め、記憶を二人で共有する。
「お前の過去は俺が一緒に背負ってやるからだよ。さあ、セフィロトの樹に引導を渡してやれ」
「うん、わかったよ…ありがとう、奏多」
もう、彼がそう呼ぶことを俺は拒まない。優仁がすべての力を使い記憶を吸い出すと、セフィロトの樹はみるみるうちに枯れていき、とても小さな一本の枝となってしまった。
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