第15話 別れ

「勝てると思ってるんだね、静寂」


ベッドから声がする。有彦だった。


「やらなきゃなんねえことを、最初から出来ねえなんて思ったら、絶対出来ないだろ」


「君はずっとそうだね。それは護るべきものがあるからの強さなのか。彼は、そんな君にとても憧れていたよ」


「彼?」


問い返すと、有彦は眼を閉じる。そんな彼の口から出た声はか細いものだった。


「お兄ちゃん…静寂お兄ちゃん」


「有彦…?」


見た目は大人のままだ。しかし中身が入れ替わったことはすぐにわかる。俺はベッドサイドに駆け寄り、彼の手を握った。


「お兄ちゃんなら必ず出来るよ。アンジェラお姉ちゃんや、みんなを護ってね」


「ああ、心配するな。お前のことだって必ず助けてやるからな」


しかし有彦は表情を曇らせる。


「お兄ちゃん、ごめん。僕は…死んでたんだ。自分で自分の大切な命を棄ててしまった。だからもう…」


「何いってんだ、1ヶ月の間ぴんぴんしてただろ。また元気になって、俺とアンジェラとニューヨークに戻ろう。な?」


一生懸命俺は彼の手を握った。しかし、彼は握り還してはこない。


「もし、死ぬ前にお兄ちゃんたちに出逢っていたら。ううん、それはないんだよね。僕は死んだから、こうしてお兄ちゃんにあえた。ありがとう、静寂お兄ちゃん。短い間だけど、楽しかった。僕は行くべきところへ行くね…」


「有彦…待てよ、行くな、…有彦、有彦ッ!」


俺が揺さぶると彼は眼を開いた。もうその眼差しは、違う人格のものである。


「すまない。胸を貫通された時に夢喰花も消滅してしまったんだ。それで彼の精神は維持出来なくなった、存在を」


「うるせえッ知らねえそんなことっ!有彦を還せ、還せったら!」


俺はなりふり構わず叫んだ。が、それが無理であることは、わかっている。


俺が1ヶ月一緒に過ごしていた有彦は、元々死んでいて、いないはずの存在だった。たまたま重なったイレギュラーにより維持されていただけだった。理屈はわかる。が、納得はできない。


「有彦…!」


俺はただ、咽び泣くしかなかった。


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