第13話 救出

地下へと続く仄暗い階段を降りていくと、ふと思い出されることがあった。


そうだ。有彦を助けたあの時もこうして。

まだ1ヶ月程しか昔の出来事ではないのだが、短い間に沢山のことがあったので、懐かしく感じる。


地下に降りると、そこは大きな空洞が広がっていて。空気が冷たい。壁は水晶のように透き通り、キラキラと輝いている。足元はじめじめした土で、視界の先には大きな水溜まりがある。

水は澄んでおり、光を反射している。


その水に足を浸すように幾重もの根を伸ばす大きな樹木の存在があった。


「こいつが…夢喰花の本体、なのか?」


アンジェラを攻撃していた弦がいつ延びてくるか、警戒する。だが、この樹木からは邪気も感じないし、攻撃的なオーラも感じない。


何故だ…?


「今は眠っているからさ。お腹がいっぱいになれば、人間だって寝るだろう?」


聞き覚えのある声。有彦だ。みると、彼は胸にぽっかりと穴を開けたままの状態で、壁にもたれ掛かる姿勢にて座り込んでいる。


俺は駆け寄り、彼の肩に手を添えて。


「大丈夫か?!」


「記憶をごっそり喰われたけど、大丈夫だよ。あと、この身体は元々死体だからね…」


と言いながら、彼の笑みは弱々しい。


「全然大丈夫じゃねえだろそれ。アイツを倒せば元に戻るのか?お前」


「簡単に言うけど…セフィロトの樹を倒すには、僕がフルパワーまで回復しないと無理だよ」


「セフィロト?」


「僕がつけたあの本体の名前だよ…しかし君は何故僕を助けにきたんだい?」


有彦は不思議そうな顔をしている。


「…お前だって、アンジェラと俺を助けようとしただろ…」


すると彼は、なんだか穏やかな微笑みを浮かべた。


「記憶を喰われながら、僕はね。一番大切な記憶だけは奪われまいとしていたんだ。それは、ニューヨークの汚くて狭いアパートで、過ごした日々の記憶だよ。


子供の頃から愛情に飢えていた有彦にとって、あれは掛け替えのないものだったんだよ。


同じ身体の中にいた…僕にとっても、ね」


そのアパートが俺の住みかを指していることは、俺にもわかる。


「静寂。僕はあのセフィロトの樹と決着をつけたい。以前の僕は人の心がなかったからね、悪戯にアレに女生徒を餌として与え、あんなに育ててしまった。でも今は、とても後悔してるんだ。僕は、僕自身の手で過ちを終わらせたいんだよ。力を貸してくれないか」


彼の眼差しは真っ直ぐだった。だか、俺は首を縦には振らない。


「力を貸す?冗談じゃねえな」


そして、有彦に肩を貸して起き上がらせる。一緒にここから脱出するために。


俺は彼にニヤリと笑い、ハッキリと言った。


「アイツを倒すのは俺だ。お前が力を貸せ。さ、脱出するぞ。お寝坊さんが起きるまでに反撃の準備をしなきゃいけねえからな?」




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