第8話 変化

「有彦?!どうした、大丈夫か!」


突然の異変に俺は狼狽する。どんな化け物が現れようが怖くもなんともないが、身内に何かがあるのは恐ろしい。


そう、俺はもう彼を己の大切な存在だと感じている。


「お、母さんは…僕のことが、邪魔で…。産まなければ良かったって、何度も言って…僕さえいなければ、お父さんは出ていかなったって…」


彼の小さな口から紡がれた内容は、静香が語る『内藤先生』の過去と一致している。しかし『内藤先生』は成人男性であり、しかも赴任前に事故で亡くなっているのだ。


二人は同一人物なのか?それとも。


「僕は…お母さんに認めてほしくて頑張って勉強して、バイトもして…だけどお母さんは、死ぬ寸前まで僕を呪っていた…お前さえ、いなければ。お前さえ、いなければ…


事故、じゃない。僕は車に飛び込んで自殺したんだ。どんなに頑張っても、母さんは僕を愛してくれなかったから。僕は…いらない存在だから。


そして、僕は楽になるはずだったんだよ。なのに、気が付いたら僕はニューヨークにいて。訳のわからない邪教の信者たちに捕まっていたんだよ。…こんな身体になって、ね。


死んだはずの僕が…」


ポロポロと大粒の涙が、有彦の瞳から溢れた。俺は彼の細身をギュッと抱き締める。


「泣くな、馬鹿…お前は死んでなんかないだろ?だって、此処にいるじゃないか」


有彦の嗚咽がピタリと止まった。そのかわり、今までの幼い響きとは違う、大人びた声が聴こえて。


「優しいなあ、君は。このままだと惚れてしまいそうだよ?ーー静寂」


何かが違う。有彦の纏うオーラが変わった。俺は咄嗟に身体を離す。すると、有彦の肢体に信じられないようなことが起きた。


腕が、脚が、髪が、伸びる。まるで樹木が急速な成長を遂げるように。子供の服は破れ、肉体を包むことが出来なくなった。そうして有彦の身体は、みるみるうちに大人にーー…30歳ぐらいの男性となる。あり得ない成長。まるで時を一気に駆け抜けたような。


有彦は長く伸びたストレートの髪をかきあげ、ニヤリと笑って。


「久しぶりだね、九条静香。いい加減話がまどろっこしいから、出てきたよ。静寂は、まあ初めましてで良いかな。僕が……内藤有彦だ」


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