第5話 有彦の秘密

「若返るって言うから協力したのにぃ…許さないっ!」


中年女性を包む黒い霧はざわざわと触手のように伸び。そのまま、矢のような速さで此方に向かってくる。


俺は素早く懐から十字架を取り出し、構え、


「神よ、邪悪なる存在を消したまえーー…

聖なる銃弾ホーリーバレット!」


白く輝く銃弾が放たれ、女の額を貫通する。


「ギャアアア!」


女を取り巻く霧が、文字通り霧散した。その場にばたりと倒れる。


「うちの学園の先生です…殺したの?」


妹の問いに俺は首を横に振り、十字架をしまう。


「いや、とりついていた悪霊を祓っただけだ」


そう言うと彼女に近付き、抱き起こす。気絶しているようなので頬を軽く叩き。


「起きてくれ。あんたさっき、有彦を知ってるみたいだったな。話を聞かせろ」


「ちょっと静寂、相手は女性よ、もう少し優しくしなさいよ」


アンジェラの突っ込みはもっともだが、ゆっくりしている時間が勿体無い。すると彼女が意識を取り戻した。


「…私は…」


「内藤有彦について知ってることを話せ」


俺の質問に彼女は一瞬ぼんやりしたが、少しずつ話し出した。


「私は内藤先生に協力を求められたんです。生け贄となる女子生徒を選び、礼拝堂の掃除を言い付け連れてくるようにと。そうしたら、若返りの術をかけてくれるって」


「術?…へえ。その内藤先生ってのは、あそこにいる子供なのか?」


俺は有彦を指差した。


「いいえ。内藤先生は大人よ。…でもその子、似てるわ、先生に」


どうやら、悪霊にとりつかれた彼女は何かを知っていたようだが、今の彼女にはわからない様子だ。俺は聞き込みを諦めた。


「まあ、有彦が無関係とは言い切れねえな、こりゃ。静香、話を聞かせろ。全部聞いた上で俺は…」


女を立ち上がらせたら離れる。俺はアンジェラにひっついている有彦の元へ向かい。しゃがんだ姿勢で、彼の頭を撫でた。


「有彦、お前を守る。お前の過去に何があろうとな」


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