不言色の風、舞い降りる

松乃木ふくろう

捜索

第01話 プロローグ —— 薄明りの部屋にて ——


「お父様、私はこの子が相応ふさわしいと思うの」

 女性はそう笑うと一枚の写真入りの資料を取り出し、掲げて見せた。


“お父様”と呼ばれた男性は黙ってその資料を見据えている。


「似た顔が二つ並んでいるけど、当然、右側の女の子の方ね」

 興奮気味の女性のトーンに押されたのか、男性は口を開こうとしない。重要な打ち合わせをする為か、室内に閉ざされ窓には完全遮光のカーテンが引かれている。それでも空気の流れを感じるのは、建物そのものが木造だからなのだろう。


「もうっ! お父様は肝心な所となるといつも決断力が鈍るのね。‥‥‥ ねぇ、あなたはどう思う? お父様は悩みだしちゃったし、ここはあなたの意見も聞きたいわ」

 あなたと呼ばれた男も判断に迷うのか、膝の上に肘をついた姿勢を崩そうとはしなかった。

 

 外からは鳥の囀りに混じり、低く唸る機械の音。


「もうっ! ふたりしていつまでも考え込んでないで! 大事な娘、そして孫の事なのよっ‼ 」

 興奮気味の女性がそう机をたたくと、カーテンから薄く漏れる光が室内を舞う埃の姿を映し出す。


「ねぇ、どう思うのっ⁉ 」

 苛立ちを隠さない女性が再度机を叩き、嫌味混じりのため息をした瞬間、ただですら薄暗い部屋の灯りが落ち、辺りが漆黒となった。


 小さな非常灯だけが灯った室内は暗く、外では何やら人が話し合いながら機械を操作する音が響いている。


「また停電みたいね。エコや経費の節減も良いんだけど、集まりの規模が大きくなって来た事だし、そろそろちゃんとした電気を引かないといけないわね。でないと、停電の度にみんなを外に走らせることになるわ」

 女性は外から聞えて来る声に向かい申し訳なさそうな独り言を洩らす。


「お父様、そしてあなた。今回は多数決で決めましょう」

 暗闇の中で女性はそう声をあげ、尚も続ける。


「先程お見せした写真の女の子が、陽菜子のお友達にふさわしくないと思われる方は挙手をお願いします」

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