124.

「――その作戦に俺を連れていけ」

「それはできない。お前はエリザとイリスを守らねばならないからだ」

「なに言ってんだ、天上に行く戦力が少なすぎる。死ぬ気かって話なんだよ」


 作戦概要を聞かされたカイルは冷や汗を流していた。次に出た言葉は自分を連れていけというものだった。

 元々、そうするつもりで考えていたが、話を聞いてさらに決意を固めた形だ。


 ガイラルの話を要約すると、天上の戦力が各地へ降り立った後、天上へカウンターアタックを仕掛け、首魁を討つという単純なものだ。

 メンバーはガイラルとブロウエル、それと天上に関わっていた当時の人間が中心となっている。

 数はカイルに伝えなかったが、逆にそれが少数であることを連想させていた。


「百人も居ないんじゃないか? 俺はそう睨んでいるが」

「ふふ、まあ気にするな。もはやコールドスリープで歳を取るのを遅らせた老人の集団だ。それほど痛手ではない」

「馬鹿言うんじゃねえ! あんたが死んだらエリザはどうする! クレーチェおばさんももう亡くなって……そこであんたまで死んだら――」


 激昂するカイルにガイラルは一瞬、目を丸くするがすぐに穏やかな顔で口を開いた。


「いいんだ。エリザにはが居る。本当は心優しいカイルがね。天上から送られてきた時から、達の息子でもある君が居ればクレーチェは喜ぶと思うよ」

「それは……」


 カイルはクレーチェに可愛がられていて、エリザが産まれた時も近くにずっと居た。母親として見ていた部分もあるため、そう言われると言葉に詰まる。

 ガイラルは少し寂しそうな顔をしてイリスの頭を撫でてから言う。


『おじいちゃん?』

「私は私の過去を清算するために行く。ツェザールを……奴を討つまで死ぬわけにはいかない。この子が将来大きくなった時が平和であるように」

「お、やじ……」


 こうなるとガイラルは絶対に着いて来させようとはしないとカイルは呻く。昔から悪いことをした後は拳骨の後に優しく諭してきたことを知っているからだ。

 何故、こんな話をわざわざしに来たのか? それは黙っているとカイルは必ずこっそり着いてくるであろうと予測していたからだ。

 故に、ガイラルはわざと全てを話したうえで、止めたのである。


「話はこれだけだ。天上には私が行く。だが、生き残る確率を上げるため、装備は頼むぞカイル技術開発局長?」

「あ、ああ……」

『帰るですか?』

「ああ、また来るよイリス。お父さんとお母さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ」

『はーい!』

「あ、おい、エリザと会わないのか?」


 そう言ってガイラルはイリスを降ろして椅子から立ち上がると、玄関へと向かって歩いて行く。娘には会わないのかとカイルが気を利かせたが、彼はにっこりと微笑んでから外へ出て行った。


「……」

『ばいばーい!』

「うぉん!」


 イリスの手を繋いで歩いて行くガイラルの背中を見送りながら、カイルは不満気な表情を露わにしていた。

 

「……あんたが死ねばエリザやイリスが悲しむ。過去を清算して俺達の未来があってもあんたは……どうなる……」


 死ぬつもりはないだろうが、相討ちくらいは狙っているのかもしれない。カイルはガイラルの行動をそう予測していた。

 クレーチェも居ない、ディダイトやエリザも独り立ちした。残すはツェザール討伐のみとなれば無茶をしでかす可能性は十分にあると。


『痛いですお父さん……』

「お!? あ、ああ、すまないイリス」


 気づけば小さなイリスの手を強く握りしめていたことに気づき、慌てて抱っこしてやる。背中を撫でてあやしていると、出かけていたエリザが戻って来た。


「ただいま……ってどうしたの? イリスが顔を顰めているけど?」

『お父さんが手を握りつぶしてきました……』

「ええ!? ちょっと、なにやってるのよカイル!」

「い、いや、これには訳が――」


 カイルは耳を引っ張られながら弁明をし、一緒に別宅へと入っていく。

 そこでガイラルが来たこと、一年で装備を作成すること、俺達は連れて行かないということ、最後のアタックになるであろうことを告げた。


「そんな……お父様は死ににいくようなものじゃない……」

「これはわざとだと思うんだが、もしかしたら片道切符なんじゃないかって」

「……」


 天上から降りてくる戦力があるのだから、カイルの言葉は間違っているとエリザは思った。だが、すぐに戻ってくるつもりはないのかもと考え直す。


「やっぱりついて行った方がいいかもしれないわね」

「……だな。俺だけで――」

「ううん。みんなでよ。お母さんの代わりにツェザールをぶちのめす。それが今、やりたいことだもの」

『イリスも行くー!』

「うんうん、おじいちゃんを助けないとね」

「……ったく」


 カイルは一家のやる気に呆れてため息を吐く。


「……どちらにせよ一年。イリスの世話は任せるぞエリザ。明日から急ピッチで仕上げにかかる。新作もいくつか必要になりそうだ」

「ええ。お昼は研究所に持っていくわね」

「ああ」


 命を守る装備が必要かとカイルはこの時点でプランを練り始めるのだった。


◆ ◇ ◆


「どうでしたか?」

「ブロウエルか。一応、話はしてきたけど納得はいっていない顔だったよ」


 城に戻るとブロウエルが出迎えに来ていた。ガイラルは肩を竦めて笑うと、ブロウエルは隣に立って一緒に歩き出す。


「それはそうでしょう。真実を知った今、陛下を心配しないはずもありません」

「まあ、十中八九着いてくるだろう」

「よろしいのですか?」

「構わないさ。カイル達がこっそりついてくる間に終わらせればいいだけだろう? 早く降りてこないかと待ちわびているよ」

「……」


 そう言いながらガイラルは口元に笑みを浮かべていた。

 

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