123.

「一年だ」

「なんだって? 急に別宅に来て座ったと思ったらわけがわからないことを……」

「娘一家のところに来るのに理由は必要あるまい」


 全体会議があった日からさらに七日ほど経過したころ、ガイラルがカイル達の住む別宅へ赴いていた。

 カイルと対面で座った瞬間、いきなり話を切り出されカイルは仏頂面で返した。

 ガイラルは笑いながらもっともらしいことを口にしていた。


『おじいちゃんです!』

「おお、イリス。こんにちは」


 そこでシュナイダーと屋敷で遊んでいたイリスがリビングへやって来た。

 ガイラルは近づいてきたイリスの頭を微笑みながら撫でた。

 イリスもにこーっと笑顔を見せながらガイラルの膝の上に座る。


『おじいちゃんこんにちはです!』

「うぉふ♪」

「父ちゃんはこっちだぞ……」


 カイルが渋い顔をするがケガで倒れていて会えていなかったので、イリスはガイラルのところへ行ったのだ。

 仕方が無いとカイルは頭を掻きながら口を開く。


「で、後一年ってのはどういうことだ? 俺が開発を進めている装備の期限か?」

「それもあるが、作戦開始の期限でもある」

「作戦?」


 作戦と聞いて眉を顰めるカイル。

 そもそも、敵が攻めてくるからという理由で武器開発を進めているため、期限は早ければ早い方がいいはずだと考える。


「一年後に上の連中が仕掛けてくるってか? それが分かれば苦労はしないだろ」

「確かに。もしかすると早まる可能性も考えねばならないが……」

「分かるように説明してくれ」

「そうだな。順を追って説明しよう」


 そしてガイラルが語ったのは作戦概要だった。

 一年という期間でカイルの装備の完成とそれを扱う人員の訓練を行うとのこと。

 その間に天上世界が征服に来るかもしれないが、それを迎撃に入るという。


「……そして戦闘が始まったら我々は精鋭を率いて天上世界へ乗り込む」

「……!? マジか!」

「ああ。奴等は自分たちが優位に立っていると思っている。モルゲンがついているのだから当然だが、勝てると考えているはず」

「随分と野郎を買っているな。あんたを裏切った男だろ。なんか俺を助けてくれたみたいだけどよ」

「ふふ、まあ聞け。先日、モルゲンと対峙した際に終末の子を二人持っていかれた。本来はもっと手に入れてそのまま地上制圧をする予定だったが我々の作戦でそれが潰えた」

「ふむ」


 続いてモルゲンは、ツェザールが次に考えるのはその二人を軸に地上へ攻めようとすると告げた。

 カイルはいくらなんでも性急ではないかと疑問を口にするが、首を振って否定する。


「モルゲンがこちらの状況を告げているなら確実に来る。私が負傷しているからとどめを刺しに戦力を下ろしてくるはずだ」

「なるほどな。大昔に地上を焼き払うってことはないか?」

「地上一掃用制圧兵器・レイストームか……使われるかは五分だが、ツェザールの性格を考えると焼き払うのではなく、私の首を獲ってこいと言うだろう」

「性格悪そうだもんな。でも戦況が危なくなったらまずいんじゃねえか?」


 ツェザールの性格は聞いているため、最初はそれでいいかもしれないが、いよいよとなれば撃つことを躊躇わないのではないかとカイルが言う。

 するとガイラルはニヤリと口元に笑みを浮かべて口を開く。


「その前にヤツを叩く。天上の勢力が降りてきたら、カウンターを仕掛けるのだ」

「……! おいおい……」


 カイルは呆れた声を出しながら冷や汗をかく。敵の懐に飛び込むのは効果的だが、と考えたところで質問を投げかけた。


「地上と天上ではすぐに撤退が出来るとは思えないが、補給はどうするつもりなんだ?」

「補給はない。精鋭のみで上に行き、ツェザールを討つ。単純でいいだろう?」

「皇帝も行くんだろ? 流石に後ろがないのはまずいんじゃ……」

「問題ない。私は、明日ディダイトに皇位を継承する。ただの男として決着をつけにいくのさ」

「……」


 そう言うような気がしたのでそこは驚かなかった。


「そうか……エリザには?」

「言っていない。口止めをしておきたいと思っている……が、私は死ぬつもりはないからそう気負うな」

「はあ……おかしな人だと思っていたけど、最後に来てとうとう振り切れちまったな」

「なんだ、心配してくれるのか?」

「まあ……」


 真相を知ったのでガイラルを糾弾する必要が無くなったので、どう接していいかわからないといった感じで視線を逸らし頬をかく。

 ガイラルはイリスの頭を撫でると、カイルへ言う。


「まあ、そういうことで一年だ。その間に武装を作ってくれると助かる。各国には通達を出している。協力しろとは言わないが、自国は自国で守るようにとな。彼等にも少し武器を流しておきたいからその分もある」

「そういうことか。分かった。明日から急ピッチで作業にかかるよ。イリスと遊んでいる場合じゃないな」

「悪いな。ああ、お前達はここで待っているんだぞ」

「あ? 俺は行くぞ。こんなことをしやがった野郎のツラは拝んでおかないとな」


 カイルがテーブルを叩きながら怒りを露わにすると、イリスが口を尖らせた。


『お父さん、怒ったらだめです』

「お、おお……そうだな……いや、イリスはエリザに任せて俺は連れて行けよ?」

「ダメだ。お前はここで装備を作り続けてくれ。なに、死ぬつもりは無い。ディダイトの結婚相手も探さないといけないしな」

「ったく……」


 カイルは行かせないと聞いていたが一応、確認してみた。しかし返答は変わらずで、舌打ちをする。


「まあいい。どうやって天上に行くんだ? 転送装置兼コールドスリープは片道だったんだろ?」


 カイルの言葉にガイラルは小さく頷いた後にイリスを膝から降ろして椅子から立ち上がった。


「教えられないな。それを使うつもりだろう? さて、私はそろそろ戻るとしよう。……すまないができるだけ急いでくれると助かる。一年と言ったが明日にでも降りてくる可能性もある」


 納得がいかないといった調子のカイルへガイラルは作戦の概要を伝える――

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