116.

「どうだ、そっちは?」」

「ダメだ、白骨しか……。もう魔獣しかいないんじゃないか? っと!」

「ひでえもんだ……だけど、俺達もあそこに居た……罪滅ぼしってわけじゃねぇが――」


 ――ガイラル達が地上へ降りてから数か月が経った。

元々、制圧と天上人達が戻れるような復興をするために降りてきたので現地の人間は全部殺す手筈だ。

……だが、ガイラルの下した命令は『生き残った人間を見つけたら保護をする』というものだった。

自分達が何者であるかを語るのは人物によって判断していたが。


降下してきた殆どの人間は地上を焼き払ったことを目にしていていない。しかし、山は崩れ、森は焼かれ、さらに海も濁っていることに多くの者は目を覆っていた。

 ガイラル達はまず、自分達の住居を確保し、そこから近隣に調査団を出すことを決定。

 成果は少しずつだが得ることができていた。


「……ご報告します。本日は32名の要救助者を保護。南西に7キロほどの場所にあった町だった場所でした」


 そんな中、騎士団のトップであるブロウエルが国王となったガイラルへ報告をしていた。

 冒険者だった者で『任務に人生を使ってもいい』と言ってくれた人材を騎士に据えた。その中の一人がブロウエルだったのだ。


「ありがとうブロウエルさん。こっちは家屋の増設も捗っているようだ。家族……特に子供が居る者達を優先して住まわせている」

「陛下、俺に敬語は不要ですと何度も言っているではありませんか」

「あ、いやあ、まだ慣れなくてね。僕……私はそんな器じゃないと思っているしさ」

「そうは思いませんがね。そうでなければこれだけの人数がついてくることはありませんよ」

「ありがとうブロウエル」


 こうやって素直に感謝ができるというのもそうなのだがな、と、ブロウエルは表情一つ変えずに胸中で呟く。上に行った人間で、官僚と呼ばれるエリート連中は傲慢な者が多く、一般人を見下す傾向にあった。

 そんな中でガイラルなどの穏健派を気にいる人間が多かったのだ。


「お子様は?」

「ディクラインは健康だそうだ。私達と一緒に冷凍睡眠で歳を取るの遅らせているけどね」

「……カイルは?」

「彼も元気だ。親友にでもなってくれると嬉しいけど、ね」

「……」


 ガイラルは努めて明るく話していたが、ブロウエルは無言で目を見つめる。するとガイラルはため息を吐いてから言う。


「……モルゲンが彼に施した技術の文書をクレーチェの装置に入れていた。いつか自分が倒れるのを見越して知識を詰め込んでいるらしい」

「そんなことが――」

「やるだろうね。モルゲンならできる」


 ブロウエルの言葉を遮ってハッキリと告げた。彼が天才であることは自分がよく知っていると。


「やはりツェザールの子だから、赤子を改造するのに抵抗は無かったのでしょうか」

「どうかな。むしろカイルを守るために施したと考える方が自然だ。ミエリーナを本気で愛しているのだから、彼女が悲しむことはしないだろう。……もし――」

「……?」


ガイラルが言葉を切って目を瞑る。あまり口にしたくないことかと首を傾げていると、深呼吸をしてから続けた。


「――もし、モルゲンが差し違えてでもツェザールを殺すつもりなら、残された二人を守るために有り得るよ……あいつはそういう奴だ」

「なるほど」

「だけど、なにもなければカイルはあのまま成長させてあげたい。僕達の子として――」

「モルゲンはどうでるでしょうか。クレーチェ様のこともあります。こちらに牙を向けるのでは?」

「……」


 予測は立つ。それも最悪の予測が。


「……もし、僕の前に立ちはだかれば倒す。それだけだ」


 故に、ガイラルは迷いなくそう答えた。


◆ ◇ ◆


「ツェザールに会わせろ」

「お忙しい身であらせられる故、お目通りは――」

「ひっ!? も、モルゲン様!?」


 ――転送装置で彼等を送り出した後、モルゲンはミエリーナを自宅へ連れて行きツェザールの下へ訪れた。


 制止する男達に、モルゲンはダガーを抜いて口を開く。


「会わせろ、そうすれば危害を加えない」

「くっ……」

「超硬金属で作ったダガーだ。触れただけでケガをするぞ」


 その迫力に男達がたじろぐ。研究をするだけの男だと思っていたが、ややもすれば戦士とも言える圧力を感じると。彼等は知らないが、ミエリーナやガイラル達と訓練を重ねているので当然といえば当然なのだが。


「……通してやれ。というか、お前達はこの場から消えろ」

「ツェザール」

「し、しかし――」

「彼はだ、心配しなくていい。それとも俺言うことが聞けないのか?」

「いえ――」


 部下たちは焦りながらその場を後にする。残されたツェザールが無言でついてこいとモルゲンを視線で誘導する。

 特に言葉を発することなく、モルゲンは着き従い、後を追う。

 そして到着したところは組織の建物の屋上だった。


「……何故、カイルを下へ送った」


 開口一番、モルゲンはダガーを手にしたまま、そう口にする。するとツェザールは後ろを向いたまま答えた。

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