108.
『ガイラルとミエリーナが抱き合っていた』と不敵な笑みを見せながらクレーチェへ言う。
すると――
「あははは! だからなによ? どうせミエリーナがフラついて抱きかかえたとかじゃないの?」
「どうかな? ガイラルとて男だ、ミエリーナほどの女が――」
ツェザールが続けようとしたところでクレーチェが手を前に突き出して首を振る。
「いいって、そういうのは。あんたとガイラル、そして私。いったい何年の付き合いだと思ってんのよ? ガイラルがそういうことをする人間じゃないってわかるでしょうが」
「しかし、俺達も子供じゃない。男女の関係は……変わっていくものだろう。ガイラルだって……」
「はあ……私がガイラルと付き合うようになってから目の敵にしているのは知っていたけど、そこまで拗らせているとは思わなかったわ」
クレーチェはため息を吐いた後、顔を上げてツェザールを睨みつけてから口を開く。
「……もういい。ガイラルと兄さんがなにを言ったとしても、私はもうあんたとの付き合いはナシにする。流石にいいかげんウザいわ。昔からの友人を罠に嵌めようとしてまで私を手に入れようとする姿勢……おかしいんじゃない?」
「……! お前! 誰のおかげでこの天上に来られたと思っている!」
「痛っ!? 放して! ガイラルが居なきゃなにも出来ないくせに。彼が必要だったから嫌いでも傍に置いていたんでしょう? そういうのもイラっとするわ!」
「こいつ……!」
「きゃ――」
クレーチェが激昂してツェザールへ糾弾をする。
実際、ガイラルとモルゲンの二人が居てこそのクーデター成功というのは知っている者は知っている。それを言われたツェザールが彼女に掴みかかる。
だが、抵抗したクレーチェがバランスを崩して地面に倒れこんだ。
「う……」
「あ……!?」
クレーチェの額から血が流れ、意識を失う。ツェザールはその状況を見てサッと青ざめた。
そこへ――
「クレーチェ! ツェザール貴様……!!」
「あがっ!?」
――待ち合わせをしていたガイラルが現れ、ツェザールの顔面を力いっぱい殴った。そしてすぐに倒れたクレーチェへと駆け寄る。
「クレーチェ! ……意識が無い、病院へ行かないと」
「ぐぐ……ガイラル、貴様……!」
「……ツェザール。さすがの僕も我慢の限界だ。クレーチェが好きなのは知っていたけど、まさかここまでするとは……」
地面に突っ伏したツェザールがガイラルを睨むが体に力が入らずなかなか起き上がることができなかった。
それもそのはずで、体を鍛える訓練をしていたガイラルと、仕事だとなかなか参加しないツェザールでは雲泥の差があった。
「クレーチェ!?」
「モルゲン、彼女を病院に連れて行く。一緒に来てくれ」
さらにモルゲンとミエリーナが合流した。
「あ、ああ……ツェザールお前かい?」
「……」
淡々と話すガイラルに困惑しながらも原因であろうツェザールに視線を向ける。何も言わずにモルゲンから目を逸らすと彼に駆け寄る姿があった。
「ツェザールさん……!」
「……! ミエリーナ……お前も居たのか……」
「ええ、モルゲンさんとガイラルさんとの訓練が終わって一緒に食事でも、と……大丈夫ですか……?」
「うるさい……! 俺に触るな!」
「きゃ……!?」
「おい、ツェザール! 彼女になにをやっているんだ!」
苛立ちを隠さず、殴られた頬を見て介抱しようとするミエリーナを、ツェザールが突き飛ばして立ち上がる。それを見たモルゲンが胸倉を掴んで激昂した。
「うるさいぞモルゲン! クレーチェの兄だと思って接していたが、天上の王である俺の胸倉を掴むとは恐れ多いな? 黙って言われた仕事だけしていろ!」
「なにを……! うおっと……!?」
開き直ったツェザールがモルゲンを突き飛ばした。それをミエリーナが支え、彼女が口を開く。
「ど、どうしちゃったんですかツェザールさん! お友達にこんなことをして……」
「……ふん、お前ももういいか。ミエリーナ、お前はクレーチェを手に入れるための仮の彼女にすぎん。まったく……ガイラルと一緒に居させれば隙をつけるかと思ったんだがな」
「なに? なにを言っているの……?」
「お前は用無しだと言っている! なにが彼女だ……両親に色々言われたくらいで酒を飲み、ホイホイ男についていく女が俺と付き合えると本当に思っていたのか?」
ツェザールは襟を直しながらそんなことを口にする。瞬間、ミエリーナの顔が青ざめたのが分かった。
「ツェザール!」
「うぐあ!? モルゲン、貴様なにを――」
「うるさい……!」
「ぐぬ……!」
「や、やめて……二人とも!」
突っかかったモルゲンがツェザールに殴られ、ミエリーナがへたりこんだままか細く声を出す。
状況的にツェザールが悪いばかりだが、そんな喧嘩をしている中ガイラルが叫んだ。
「モルゲン! ミエリーナさん! ……そいつのことはいい。病院へ急ぐぞ!」
「……! あ、ああ……そうだな……ツェザール、お前には後で話がある。逃げるなよ。ミエリーナさん、行こう」
「……ふん」
「……」
ガイラルが珍しく怒声を上げ、クレーチェを抱えて歩き出す。モルゲンは糾弾したそうで困惑していたが、妹の容態の方が心配だと気づき後を追う。
「ミエリーナ、行こう」
「……」
その途中、モルゲンがミエリーナを立ち上がらせてから肩を支えてその場を後にした。
ミエリーナは「用無しだ」と言われた後、泣きもせずただ青い顔をして流されるままついていくばかりだった。
程なくして病院に到着したガイラル達を待っていたのは――
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