105.
――天上の改革は順調に進んでいた。
ツェザールという王は今まで地上にあった不要な政策や人間を減らしたため、自身の思う『国』というものが構築されていった。
浮遊した大陸にも色々な国があったものの、首脳陣はツェザールの私設部隊によって殺害か全面降伏を余儀なくされた。
説明もなく浮上した部分もあるためクーデターや暴動は予想通りで、そのための策も当然立案していた。
そのことに尽力しているのはガイラルであり、モルゲンだった。
特に大陸を浮かせたモルゲンの功績は大きい。魔法と機械という難しい両極端な要素を実現した天才が居なければ戦いはもっと泥沼化していたに違いない。
ガイラルは人心掌握や組織の運営、適正な食料供給、鎮圧部隊の作戦などを成功させていた。もちろん彼一人で行えることには限りがあるものの、その計画には誰もが考えも及ばず、舌を巻くほどの成果をあげていた。
そんな三人が久しぶりに会食をすることになり、ガイラルとモルゲンはツェザールの居城となったセントラルタワーへやってきていた。
剣と魔法を使っていた時代が終わりを告げた……そんな主張をしている高く聳え立つ塔のような建物。周りとは一線を画した似つかわしくないなと、ガイラルは中へ入っていく。
「やあ」
「ガイラルか、久しぶりだねえ」
タワーに入り、ロビーで二人を待っていたガイラルは久しぶりに顔を見たモルゲンに安堵し、声をかけた。
にこりともしない友人に相変わらずだと苦笑していると、モルゲンが手を差し出す。
その手を握り返しながらガイラルは近況を尋ねた。
「君とは一年ぶりくらいだものな。重力制御装置は?」
「安定してるよ。僕が開発したんだぞ当然だろう」
「ははは、確かに。モルゲンの作ったものは信頼しているよ」
相変わらず不遜な態度で鼻を鳴らす友人はそう言われて口をへの字にして肩を竦めた。こういう顔をする時は機嫌がいいと知っているガイラルは特になにも言わずに微笑んでいた。
とりあえず無事を確認しあったところでガイラルが真顔になって話を続ける。
「……もう国と呼ぶことはないと思うけど、他の国はどうだった?」
「まあボチボチだね。君の政策のおかげで暴動にはならずに済んだってのは褒めておくよ」
「ありがとう。地上で戦争、こっちでも戦争なんて御免だからね」
モルゲンの物言いにくっくと笑いながら肩を竦めるガイラル。それを見たモルゲンが顔を顰めて口をへの字にしていた。
「クレーチェはどうしている?」
「いつも通り、僕が守っているよ?」
「チッ、忌々しい。お前らしい答えだな。……ツェザールは?」
「そういえば最近声をかけられないって言ってたね。諦めたのかな?」
「本当か? 気に入らないがお前と一緒の方がクレーチェは楽しそうだからな。そっちの方がいい」
「素直じゃないなあ。いいじゃないか義兄さん」
「死ね……!」
「ははは、そう怒るなって。……お、来たみたいだ」
笑いながらモルゲンの肩に手を置くと、眉を吊り上げてからガイラルの首を絞めた。もちろん本気でやっているわけではないのでガイラルは笑いながら手を叩いていた。
二人がそんな話をしていると、ロビーの奥からツェザールが歩いてくるのが見えた。
「よう、モルゲン久しぶりだな。現地調査、ご苦労だった」
「ふん、こき使ってくれたよ。とはいえ、僕自身が見ないと安心できないから仕方ないけど」
「地上に落ちるわけにはいかないからな。ガイラル、店は?」
「個室がある酒場を予約しているよ、早速行こう。そういえば四人と言っていたけどクレーチェは来れないぞ?」
ガイラルが時計を見て頷くと、ツェザールは首を後ろに回して片手を上げた。
すると少し離れたところに居たらしい女性がもじもじしながら、スッと三人の前に現れた。
「その人は?」
「最近知り合った人でな。今は彼女と付き合っている」
「は、初めまして。ミエリーナと言います」
「「なに!?」」
ミエリーナと名乗った女性と付き合っていると聞き、ガイラルとモルゲンは同時に驚きの声を上げた。
人が殆どいないロビーに二人の声はよく響く。
そこでモルゲンが訝しんだ顔でツェザールを指差した。
「……なるほど、ようやくクレーチェを諦めてくれたってわけだ?」
「クレーチェ?」
「うるさいぞモルゲン。彼女が勘違いしたら困る。さ、ガイラル、案内しろ」
「オッケー、そこで詳しい話を聞かせてもらおうかな」
ガイラルとモルゲンの反応に満足気な顔で、ツェザールが鼻を鳴らす。
命令口調にも関わらず、ガイラルは時に気にした風も無く親指を入り口に向けて歩き出した。
「なるほど、親友なんですね」
「ああ。モルゲンはまだ恋人が居ないんだ、誰か紹介してやってくれよ」
「ふふ、どんな方か知ってからかしら」
ツェザールとミエリーナが楽しく話しているのを前で聞きながら目的地へ進んでいく一行。
「……君はどう思うね?」
「いい人を見つけたんじゃないか? クレーチェと違って大人しい感じの人だ」
「ガイラルがクレーチェをがさつだと言っていたと告げておくよ。まあ、恋人ができれば少しは大人しくなるか」
「やめてくれよ……それにしても、美人さんだね」
ガイラルが後ろをチラリと見た。
滅多にそんなことを言わない彼がそう口にするほど、長い黒髪に優しそうな瞳は目を引いた。
それと同時に、彼女はツェザールを変えてくれるかもしれないともガイラルは微笑むのだった。
そして程なくしてレストランへ到着する。
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