99.

「これはどういうこった!?」

「お、おち、落ち着いてくださいカイルさん!?」

「フルーレ少尉の言う通りだ。私達も燃える棟からなんとかカーミルを救出しただけ。ただ――」


 ――帝国に戻ったカイル達を待っていたのは燃え盛る技術開発局の姿だった。


 セボックが離反した後、開発局は爆発を起こして崩壊。

 カイル達が戻ってきたのはその十数時間後だったが、開発局は燃え続けていた。カーミルと入り口で会話を交わした研究員が慌てて助けを呼んで彼女は事なきを得た。

 その時、エリザが近くにおり、第五大隊を招集してまず消火活動を行った。入口が入れるようになったところで第四大隊の重装兵がカーミルを救出という流れだった。


「――なにが起こったかはまださっぱりわからない。それを知るのはカーミル隊長だけだが、見ての通り目を覚まさない」

「……」

「煙を吸い過ぎただけだと思うので命に別状はないと思い、ます……」

『おねえさんは大丈夫ですか……?』

「ああ。死んだりしないよ。カイル、イリス、ちょっといいか? フルーレ少尉、ここは任せる。カーミルが目を覚ましたら教えてくれ」

「あ、はい」

「ん……」


 エリザに促されて病室から出るカイルとイリス。そのまま無言で歩き出した彼女の後を追うと、人の気配がしない別室へと案内された。


「どうした? フルーレちゃんには聞かせられない話か?」

「そうだな。……お父様のことなのでそうなる」

「……ああ」

『おじいちゃんですか?』

「うん。そうよイリス」


 足元に居るイリスを抱っこして椅子に座るエリザ。バツが悪い話だと視線を逸らすカイル。二人の顔を交互に見ながらイリスが口を開く。


『喧嘩をしているですか?』

「違うって。すまん、俺がいながら皇帝は……」

「違うわ、私はカイルを責めるつもりはないの。ただ、なにがあったのかを聞かせてもらえる?」

「そうだな……。今後の動向を考えると話すべきか。ディダイト王子にも聞いてもらった方がいいが……」

「お兄さまには私から伝えるからここでお願い」

「わかった」


 カイルはガイラルが重傷を負った経緯を話し出した。

 実行犯であるモルゲンのこと、天上人のこと、その天上人が地上へ侵攻を進める計画を立てていることなどを。

 

「そんなことが……」

「そして皇帝は元天上人でエリザの母親のクレーチェさんも。でだな――」


 カイルは迷ったがエリザにとっては伯父にあたるのでモルゲンのことも話した。その瞬間、大きく目を見開いて驚いて呟くように言う。


「お父様とお母様が天上人……? 襲ってきたのが……お母様の兄……」

「……ああ。戦いの中でハッキリ聞いた。皇帝がクレーチェさんを連れてきた、みたいなことを言っていた。それを逆恨みして皇帝に突っかかっていたな。目的は‟終末の子”を回収するためだったようだが、皇帝を殺す方がメインみたいな危ないやつだった」

「……」

『わ』


 話を聞いた後、エリザはイリスを抱きしめて涙を流す。種族が違うとか皇帝が、母が、伯父がというよりも――


「そんなことのためにこんな小さい子供を改造したというの……? 私達の子は生きられなかった。この子は戦うためだけに……」

「……そうらしいぜ。だけどイリスはここに居る。何人か向こうに行ってしまったが、数はこっちが多い」

「酷い……。大きな子も居るけど、イリスはまだ四歳くらいでしょ? 戦わせるのは止めた方がいいと思う」

「まあ……」


 自分達の子供が戦っているものだとエリザがイリスの頭をなでながら言う。カイルは頭を掻きながら確かにとバツが悪いといった顔をしていた。


「……ねえ、イリスはカイルのことをお父さんだと思っているのよね?」

「そうだな」

『お父さんはお父さんです!』

「なら……私をお母さんにしない?」

「なんだと……?」

『おかあさん?』


 カイルとイリスが首を傾げると、エリザは柔らかい笑みを見せながら二人に返す。


「ええ。私達の子として産まれるはずだった『イリス』は……死産だったみたいなの。それが分かっていたお父様は私が寝ている間に取り上げた」

「……」


 あの時かとカイルは片目を瞑る。逆上してガイラルへ襲い掛かった五年前から義父を恨んでいた。

 

「私達を別れさせたのは多分、私がカイルを正面から見れないと感じたお父様の優しさだったのかなと最近になって思うの」

「それは……」


 と、エリザの言葉にここ最近のことを振り返る。

 確かに当時は相当追い詰められた顔をしていたエリザ。彼女を自分から遠ざけるのは父親としては当然だと考えるカイル。

 そしてガイラルと行動を共にすることが多かったが彼はカイルのことを一度も貶したり馬鹿にするようなことは無く、むしろ期待しているというような態度だったと思った。


「皇帝……」

『おじいちゃん、起きないですか?』

「大丈夫だ。簡単に死ぬような男じゃない」


 結局、あの時カイルが暴走しなければ技術開発局を降ろされることも無かっただろうし、エリザと完全に離婚することもなかったのかもしれない。


「……俺が間違っていたのか」

「カイルのせいじゃないわ。それで今後のことなんだけど……私達、また結婚しなおさない? イリスを養子にするの」

「なに……!? それ、は……皇帝が黙っていないんじゃないか」

「そこは大丈夫。天上人との戦いはもしかすると最大の戦いになるわ。私はもう、後悔したくないの」


 エリザはカイルの目を見ながら本気だと口にする。

 

 そしてカイルは――

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