100.
やり直したい。
そう告げたエリザにカイルは真っ直ぐに目を見て口を開く。
「俺は……。それでもいいと思っている。多分、このままイリスは引き取って一緒に暮らすだろうからな」
「それじゃ……」
「だが、皇帝に話は通す。もちろん俺がな」
「お父様が許可をしてくれるとは思えないんだけど……」
エリザがイリスを抱っこしながら不安そうな表情を見せるが、カイルは首を振ってから二人の頭に手を乗せて返す。
「皇帝は物分かりが悪いってことはない。あの男が何かする時は必ず意味を持つ。この数か月で俺はなんとなく理解できた……そんな気がする」
『おじいちゃんは優しいですよ?』
「そう……そうね。お母様が無くなってから口数が少なくなったし、結婚を無しにされたけどそれ以外ではあまり変わりが無かった。あれにも意味があったということね?」
「そうだ。イカれた博士との戦いであいつは自ら戦い、俺達を守ってくれた。なにかある。俺は本当の真実を皇帝……ガイラルに聞きたい。それまで少し待ってくれるか? イリス、エリザがお母さんでいいか?」
『うん! お母さん!』
そう言ってエリザに抱き着くイリスを見て、いつの間にかこんな顔が出来るようになったのかとカイルは驚きつつも苦笑する。
「ふふ、可愛いわねイリスは。ありがとう」
「あの時、居なくなった俺達の子供は残念だったが今度は守り抜くぞ」
「……ええ! お父様、目を覚ましてくれるといいけど……」
エリザがそう呟いたその時、扉をノックする音が聞こえた。
「あの、カイルさんはこちらですか?」
「ん、その声はフルーレちゃんか? どうした?」
『おねえさんです!』
声の主はフルーレで、カイルが尋ねると少し沈黙の後、扉を開けずに質問に答えた。
「えっと……カーミル隊長が目を覚ましました。カイルさんと話がしたいということです」
「マジか……! すぐに行く。というか話して大丈夫なのか?」
「ええ、本人がそう言っていたので……。そ、それじゃわたしは先に行っていますね!」
「一緒に……。行っちまった。そんなに慌てなくても良さそうなのに」
『慌てんぼさんですね。あ、シューにも会いたいです!』
足をぷらぷらさせながらカイルに頼み込むイリス。カイルとエリザが苦笑しながら肩を竦めて後でと頭を撫でてから病室を後にする。
カーミルが運び込まれていた病室は分かっているのでイリスを抱えてすぐに向かう二人。
先ほどまでの話は一旦置いておき、帝国の一角が火の海になったことを知る人物に話を聞く方が先だと気を引き締めて歩を進めていた。
「カーミル!」
「う……カイル、か。無事に……戻ってきていてなによりだよ。ふふ。つっ……」
「起き上がるな。そのままでいい。一体何があった?」
起き上がろうとするカーミルを制して寝かせると、彼女は一度目を瞑った後に息を吐いてからゆっくり目を開けてから話し出す。
「あの日の夜、私は残業で仕事をしていたんだ。夜中になって飲みに行くかと思ったんだ。途中で研究棟に灯りがついているのを見て誰か巻き込んでやろうと考えて足を運んだ」
「お前らしいな。それで?」
「私はエリザのように真面目じゃないからな。……それで研究棟についたんだが、そこで研究員が出てくるところに出くわした――」
その後、セボックが残っていると聞いて呼び出そうとしたところで爆発が起こったことを告げるカーミル。
救助を研究員に任せて自分はセボックの様子を確かめるために上層へ行ったところで一度話を止めた。
「……? どうした? そういやセボックはどうしているんだ? まさか死――」
「いや、違う。奴は燃え盛る研究棟の中で一人の男と一緒に居ることを目撃した。そいつは天上人のウォールと名乗ったよ」
「ウ……!? 馬鹿な、それは本当か!?」
「どうした……? 心当たりがあるのか? それでセボックはその男と共にいずこかへ消えた。……帝国を裏切ってな」
「……なんてこった」
カイルの呟きは二つの意味があった。
一つはセボックが裏切ったこと。そしてもう一つは連れ去った相手がウォールだということだ。あの時、間違いなく始末した。
しかし、それ以前にロンダル共和国から帝国まではかなりの距離がある。死体は確認したが間違いなく死んでいた。もし仮に生きていたとしても、飛空船でもない限り先に帝国へ到着するのは不可能だと考える。
「……モルゲン博士ならなにかする可能性はあるが。確かにあの時ウォールは死んでいた。分からん……」
「カイル。そこは恐らくもう問題じゃない。セボックが裏切った。ということは帝国の情報が知れ渡ってしまうことが予想される」
「そう、だな……。それと技術もか。あいつは俺の後釜に唯一なれる能力を持っていたから推したんだが、それがまさかこんなことになるとは」
仕事モードになったエリザに言われて頬を叩くカイル。あの時、必死になって倒したことが無駄にされたようで衝撃を受けていたがすぐに切り替える。
「すまないケガをしているのに話してもらって」
「構わない。それより陛下も大変な事態らしいじゃないか」
「ああ。これから忙しくなる。だからさっさとケガを治して復帰しろよ?」
「まったく人使いが荒い男だ。……大丈夫、すぐに復帰する」
そう言って目を閉じるとカーミルは寝息を立て始めた。それを見てイリスが口を開く。
『おばちゃんは寝ましたですか?』
「馬鹿、ちゃんとおねえさんと呼んでやれ。拳骨が飛んでくるぞ」
『ひっ』
イリスは慌ててカイルの背中に隠れ、それを見て二人が苦笑する。しかしすぐに真顔に戻りカイルはイリスを抱えてエリザに言う。
「俺は技術開発局へ行ってくる。お前は王子のところへ行って今後のことを話し合ってもらえるか? 差し当って防衛の配置換えと穴が無いかのチェックだ」
「分かっている。天上人……空からくるなら同じだと思うが念のためな」
「頼む」
エリザへ頷き、カイルはカーミルの病室を後にした。何が残され、消えたのか。それを確認するために。
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