89.

 「さぁて、今度の『遺跡』はどうだろうな?」

 「油断せずに行くぞ。危険と判断した時点で引き返すのは変わらないが、モルゲンが出てきた場合は私を置いて撤退しても構わない」

 『はーい! お父さん、お父さん! これ似合ってますか?』

 「はいはい、似合ってるって。何度目だっての」



 飛空船が『遺跡』付近に到着し、戦闘準備を兼ねたブリーフィングを行っていた。ブロウエルは珍しくハンドガンとマチェットを装備し、いつも腰にあたダガーは両足のブーツに装着された。

 カイルはサイクロプスアーマーに赤い刃と銃、ガイラルはマントを外して前回の戦いでは装備していなかったガントレットとレッグをつけた。


 モルゲン博士の戦闘力……それに加えて開発した兵器の脅威がハッキリしたため鉢合わせになった場合のことを考えての対応だった。


 ただ一人、イリスだけは目を輝かせてゼルトナの用意したリュックをカイルに見せては感想を聞く。そろそろ出発するからとはしゃぐイリスを抱っこしたところで、白衣を着た男がカイル達の下へ慌てて駆けてきた。

 

 「陛下! 『遺跡』で回収した男が目を覚ましました!」

 「そのようだな」

 「は? ……ハッ!? 君、部屋から出るなと――」

 「構わん。No.6だったか、中へ入っていいぞ。聞きたいことがあるのだろう?」

 『……ああ』


 No.6は目だけで周囲を確認しながら慎重に部屋へ入ると壁を背にして腕組みをする。背後からの攻撃を警戒しているのかとカイルが考えていると彼が口を開く。


 『お前は本当にカイルなのか……?』

 「あんたは俺を知っているのか」

 『俺達と一緒に‟終末の子”として地上に降ろされたからな。No.2と俺が中でも歳が上だったから実質リーダーとして眠りについたのだから』

 「No.2……ニックってやつか……」

 『あの嫌な人ですね。同じ仲間なのに襲ってきました!』

 

 カイルが顎に手を当てて考えているとイリスが腰に手を当てて口を尖らせる。

 そこでNo.6が訝し気な目をイリスに向けて言う。


 『この子は……? 面影はあるが……ナンバーは――』

 「ん? いまなんか――」

 「No.6」

 『……!? いや、なんでも、無い。とりあえず現状を教えていただけるだろうか――』


 カイルがNo.6の言葉を聞き逃し尋ね返そうとしたが、カイルの背後でガイラルが酷く冷たい目でNo.6に声をかけた。その迫力に『なにかある』と感じたNo.6は話題を変える。


 カイルはチラリと背後を首だけ振り返るがとりあえずガイラルからなにか聞けそうにないかと現状の目的である終末の子を確保するため各地を渡り歩いていることを説明。

 地上侵攻作戦の計画が進み、モルゲン博士が同じく『遺跡』を狙っていることを話す。

 するとNo.6は腕組みをして背を壁に預けて目を瞑る。


 『……なるほど。そうなると俺達がここに来た目的を考えると博士についていくのが理にかなっている、か』

 「お前……!」

 『慌てるなカイル。本来はという意味ではそうだが、ガイラル殿の言い分も間違ってはいない。天上人とはいえ元は地上にいたんだから同じ存在のはず……』

 「そうだ。だから私はその元凶であるツェザールを倒すために地上で国を創り迎撃に備えた。終末の子さえ押さえれば天上の民だけでは帝国に太刀打ちできないと考えたのだ」

 『天上人だからこそこの暴挙を止める……理解しました。しかし……』

 「なんだ?」

 『……いや、今はいい』


 カイルとイリスを見て首を振ったNo.6は手を差し出しながら微笑む。


 『俺の名はヤアナ。小さいころのお前を知っている身としては複雑だがよろしく頼むカイル』

 「名前、あるんだな」

 『見ての通り一番年上で十八才。封印された時の記憶は残りやすいから』

 「まだ信用したわけじゃねえけどな。それより俺とはどういう関係だったんだ?」

 『お父さんがイリスみたいな時だった話ですか?』

 『ああ、あの時は四歳くらいだったか――』

 

 ヤアナがイリスと目線を合わせて口にしようとしたところでブロウエルが窓の外を見ながらカイル達へ告げる。


 「その話は後になりそうだ。降りるぞ」

 「オッケー大佐。あのイカれた博士とケリをつけたいところだな」

 「……おそらく奴はここには居ないだろう」

 「え?」

 『だな。近場がここだとわかっているなら顔を合わせるのを嫌って別の『遺跡』へ行くはずだ』

 「私たちが動いていることを知られた今、確実に残りの終末の子を回収を行うだろう」

 「マジか」

 「あいつは狂っているようでその実、博士と呼ばれる程の知能がある。合理的な方法を選ぶなら間違いなくそうするだろう」


 ブロウエルが装備の確認をしながらそんなことを口にし、カイルは肩を竦めながらシュナイダーの背にイリスを乗せて笑う。


 「上等だ。ならこの『遺跡』をさっさと片付けて次に行こうぜ。向こうに手ごまを渡すわけにはいかねえだろ」

 「その通りだ」


 「まもなくホウフラット国の遺跡付近へ下ります。陛下達は準備をお願いします」


 直後、館内放送が流れてカイル達は顔を見合わせて頷くと部屋を後にする。


 『お父さん、抱っこがいいです』

 「今から戦いだ、シュナイダーの背中で我慢しろ」


 前を早足で進むカイルとイリス。

 少しずつ距離を取ったガイラルとそれに気づいたヤアナがカイル達から離れると、ガイラルは小声で言う。

 

 「……すまんな」

 『いえ、俺は別に。……あの娘はいったい? 終末の子であることは間違いなさそうですが、記憶ではあんな子はいなかったはず』

 「すべての『遺跡』の開放を行った時点で帝国に戻る。最終決戦の前にカイルには話すつもりだ」

 『訳アリですか。承知しました、今は博士を止めましょう』


 そして一行は五つめの『遺跡』へ――

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