88.
「ったく、あの頭のおかしい博士のおかげで苦労するぜ……だいたい自分が回収することを考えてねえのがやばい」
「あの男はそういうヤツだ。ただ、知恵は回るから最終的になんとかするのが腹立たしいな」
「……マジで王妃様の?」
「……ああ。兄だ。そこ、ゆっくり運んでくれ。カイルが診るまで誰も触るなよ?」
「……」
――『遺跡』を目指すカイル達は次の国へ到着していた。
ヤーブルー国から西にあるユーロバー王国に飛空船を全速力で飛ばし、ゼルトナが調べた『遺跡』を調べたところ封印は破られておらずトラップの山を突破し『No.6』と書かれたガラスの棺の回収が終わったところである。
十分な警戒をしたもののモルゲン博士は姿を見せなかったので迅速に行動ができたのだが、一行は素直に喜べずにいた。
「モルゲンだっけか? ヤツは別の『遺跡』に行ったと考えるべきだな?」
「……うむ、我々の戦力を見て正面から勝てんと判断したのだろう。そういうところは冷静なだけに腹が立つな」
「実際、カイルとイリスが居なければ陛下と私だけでは‟終末の子”とウォール、そして博士を相手にしていたら確保は出来ていなかったでしょう」
「マジか、ウォールってそんなに強いのか?」
カイルが真面目な顔でコーヒーに口をつけるブロウエルに眉を顰めて尋ねると、一瞬だけ目瞑ってから喉を鳴らす。
「私とほぼ互角だと言えば納得するか?」
「ええー……大佐と同じって俺じゃ勝てねえ」
「若いころならウォールは足もとにも及ばないと言ってやらないのか?」
「……そこまで己惚れるつもりもありません。陛下も似たようなものでしょう」
珍しく憮然とした顔でブロウエルがガイラルへ告げるとカイルが視線を動かす。するとガイラルは肩を竦めてフッと笑う。
「おっとやぶへびだったか」
「皇帝も若いころはもっと強かったのか?」
「昔の話だ。それよりイリスはどうした?」
「はぐらかすなよ……。あいつはゼルトナ爺さんと厨房だ。ハンバーグだから浮かれてんだよ」
「はっはっは、なるほどな。だからお前は留守番か」
「うぉふ」
厨房に動物、まして魔物は無理だとカイルの足元に座るシュナイダーを見て笑うガイラル。それにに対して話題を変えるため口を開く。
「とりあえず急いでいるみたいだが進路はどうしているんだ? 『遺跡』は残り三つ。早く追いかけた方がいいんじゃないか?」
「それなんだが、ひとつはモルゲンにくれてやるつもりだ。その間に残り二つを私達が解放し‟終末の子”を二名回収。そうすればこちらにはイリスを含めて六人確保できる。そうすれば地上制圧の要を大幅に削ることができるだろう」
「それは……!」
カイルがあえて敵に渡すという旨の発言を聞いて顔を険しくするが、それをブロウエルが制して先に告げる。
「言いたいことはわかるがこれは戦争だカイル。仲間を見捨てるようで心苦しいかもしれないが、さっきも言った通り二人は手練れだ。それに先を越され続けて全て向こうに行くよりは遥かにいい」
「だ、だけどよ、あいつは改造できるんだろ? 敵になったら面倒じゃないか」
「臆するなカイル。お前には力がある。あまりいい気分はしないだろうが、洗脳された終末の子を元に戻すことができるはずだ。その一人はお前が助けてやればいい。そのために戦力を集めておくというのもある」
「むう……」
そう言われては強く言い返すこともできず浮かせた腰を再び椅子に戻す。
実際、小を諦めて大を取るというのは大局的に見た場合理にかなっている。それをカイルは即座に理解し、頬杖をつきながらコーヒーを飲む。
「それにしてもクレーチェさんが記憶改ざんされていたとは思わなかったぜ」
「お前と会った時はすでに消えていたから気にならなかったろう。エリザやディダイトだってそうだ。クレーチェの過去を知る者はもう私しかいない」
「それを教えたのか?」
「少しだけな。記憶は戻らなかったが……親身に接していた私とはもう一度、恋に落ちたというわけさ」
「ぶふっ!? 皇帝が恋なんていうとはなあ……」
「当然だろう、私だって人間だ。そうでなければエリザは生まれていない」
淡々と、だが少し嬉しそうに自分のことを話すガイラルに頭を掻きながら困惑するカイル。
「(こんな笑い方をする人だったか? ……いや、あの事件の前はそうだったかもしれない。最近ずっと一緒に居るが本来はこうだった、気がする。イリスを可愛がっている姿を見る限り、子供が嫌いというわけでもない……そうなるとなんで皇帝はエリザと俺から子供を取り上げて煽るような真似をした? ……‟終末の子”との子だから危険だと判断したというなら……それは確かに俺のせいだが――)」
プロトタイプというのは分かっていたはず。
そうであればエリザと合わせなければ良かったのではとカイルはブロウエルと話すガイラルを見る。真意は答えないだろう。
「(この戦いが終わったら聞いてみるか……)」
そう決めるのだった。
『お父さーん! シュー! おじいちゃん! ハンバーグが出来ました!!』
「おお、イリスか。お手伝いとは偉いな」
『えっへん。これはお父さんの分です。イリスが作りました!』
「お、おう……」
そこには表面が黒くなった物体が皿に乗っていた。一応、ゼルトナが見ていたはずなので中は大丈夫なはずだとカイルはナイフを入れる。
『どうです……!』
「あ、ああ、美味いぞ。ほ、ほら、シュナイダーにも分けて――」
「くぅん……」
「……すまん」
すでにシュナイダーの餌箱には黒い塊が入っていたのだった。そして昼食を終えてから程なくして館内放送が流れだす。
<陛下、間もなくポリヤット上空です。もらった座標から計算すると15分ほどで『遺跡』に到着します>
「……着いたか」
「操縦室へ伝達。こちらは了解した、すぐに出られるようにしておく。総員戦闘配備」
<承知しました! 総員、戦闘用意>
その放送から時間ぴったりに『遺跡』付近へ着陸。カイル達は入り口を開けて灯りをつけ踏み込んでいく。
「さて、今度はどんなところかねえ……No.6の時は罠が半端無かったが」
「やることは変わらんから考えても仕方あるまい。行くぞ」
「だな。イリス、俺とシュナイダーから離れるなよ」
『はーい! 背中に乗っていい?』
「わん!」
騎士達からお気をつけてと声を掛けられながら一行は『遺跡』内部へと入っていく――
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