90.
「――今頃、五番目の『遺跡』に行っているんですかね」
「ま、そうだろうね。少なくともNo.5は回収されるのは間違いない」
「自爆スイッチでも仕込んでいるかと思いましたけど」
「……僕はこれでも科学者という立場を弁えているからねえ。くっく……きちんと完成したものを自分から壊すなんて馬鹿なことはできないさ」
「子供を実験材料にするあたり博士が壊れていると思いますがね」
モルゲン博士とウォールは六番目の『遺跡』へと足を踏み入れていた。
罠を解除しながら慎重に進む中で後ろをついてくるウォールがそんなことを口にする。それを聞いたモルゲンはぴたりと立ち止まると首だけを後ろに向けて言う。
「実験に犠牲はつきものだ。そうだろうウォール。そうでなければこの『戦争を終わらせる』ことなどできはしない。大人、子供、女……なんでも使わないとさ!」
「やれやれ、仲間で良かったと思いますよ……」
「無駄口を叩いている暇はない。まったく、ガイラルのやつめ厄介な罠を仕掛けているものだよ」
「向こうは終末の子を何人連れているのでしょうかね?」
「さあね。少なくともNo.8と5は手のウチと考えて良い。ただ気になるのは……あの小娘かな? あれは僕が作った”レーヴァテイン”を扱っていた。だけどあの娘はNo.4と容姿がまるで違う」
声色を変えず気にした風もなさそうな言い方をし、しばらく無言で歩き続けていた二人。その空気に耐えられなくなったウォールがそっぽを向いて頭を掻きながら口を開く。
「……じゃあアレは何者なんですかね」
「さあ。ただ、カ……プロトタイプが一緒に居たし、元のNo.4は消されてあの娘に力を与えたとも考えられるんじゃあないかな」
「No.0……カイル。あいつが普通に生活しているのが驚いたんですが『これも計画の内』ってことですか」
「いいや、ガイラルの裏切りでカイルが向こう側にいるのは面白くない。正直なところ‟終末の子”を8人揃えるよりプロトタイプを持っていた方が僕はいいんだけど。そんなつまらないことより、君は仕事をしてきたのかね?」
「ええ、もちろん。帝国に入った時、楔は打っておきましたよ」
「結構。では解放してあげようじゃないか!」
大仰に手を広げながら『遺跡』の最深部へ到着したモルゲンが最後の扉を開き、イリスが居たようなガラスの棺と、巨大な三つ首をした犬のような魔物が姿を現した。
「ここも、か。博士、油断しないように」
「君がメインで戦うから問題ないよ」
「疲れるからそういうのは勘弁してくださいって」
そんな話をしながら散歩にでも行くような足取りで二人は三つ首の犬……ドラゴンと同じく伝説の魔物、ケルベロスに近づいていく――
◆ ◇ ◆
――そしてカイル達も『遺跡』に足を踏み入れ、すでに地下も深いところへ降りていた。
『シュー、大丈夫ですか?』
「わふ」
「2時間くらいならお前が乗っていても余裕だって。というかここは随分と入り組んでいるな」
「『遺跡』は作成者によってかなり意匠が違うからな。イリスの居た場所はどうだった?」
「罠が多かったな。それと最深部に伝説の魔物、ドラゴンが居てかなり苦労したぞ。なあブロウエル大佐」
「うむ」
「そういやオートス達は元気かねえ」
『フルーレおねえさんやエリザおねえさんにも会いたいです』
イリスがシュナイダーの背中からカイルへ振り返りそんなことを口にする。そんな彼女の頭に手を乗せながらガイラルが言う。
「そうだな、こんな戦いは早く終わらせてゆっくり過ごしたいものだ。『遺跡』を作った際に工夫を凝らしたと言っていたから伝説の魔物を置いたのがそれなんだろう」
『あなたは関わっていないのか?』
一応の事情を聞いていたヤアナが後ろからガイラルへ話しかけると、彼の方に顔を向けながらその言葉に反応した。
「私は地上の拠点を作ることを任されていたから『遺跡』はノータッチというやつなんだ。だから――」
「っと」
『おー』
「わんわん!」
カイルとガイラルは天井から強襲してきた巨大コウモリを二匹、真っ二つにして続ける。
「こういうのも知らないというわけさ」
『なるほど……。俺達はコールドスリープされていたから気づかなかったが、あなたが裏切る前に色々あったんだな』
「そういうことだ」
「……陛下、お話はここまでのようです。ありました」
周囲を警戒しながら進んでいると一番前を歩いていたブロウエルが立ち止まり、ランタンを掲げたところに豪華な装飾をした豪華な扉があった。
「イリスの居た場所の扉に似ているな。ってことはここが目的地らしいな」
「そのようだ。準備が出来たら開けます。……いや、待つまでもなさそうだなカイルは」
「まあな」
にやりと笑うカイルを見て帽子の位置をブロウエルが手を扉にかけると重々しい音を立てながら内側へ開いていく。
そして――
『あ、大きい犬さんです』
「……フェンリルか、ドラゴンもそうだが子供一人を護衛するには過ぎた戦力だな」
「ヤツらは終末の子にそれくらいの期待をしていたからだろう」
「あのデカブツを生み出せるなら投入すれば良さそうなもんだがなあ」
『それが出来ないからか、それよりも俺達の方が強いのか……そういうことだろうよ。出ろ、ニルヴァース』
ヤアナが大剣をどこからともなく取り出すと、その声に気づいたフェンリルが頭をゆっくり上げてカイル達を視認。一瞬、目を細めたと思った瞬間――
「わぉぉぉぉぉん……!!」
「なに……!? チッ!」
『わっ』
フェンリルの姿がフッと消え、瞬きをした間にカイル達の目の前に迫っていた。危険を察したシュナイダーがイリスをカイルの方へ振り落としフェンリルの胴体へ体当たりを仕掛ける。
「グルルルル……!!」
「オオオオオオン!」
「無理するなよシュナイダー! 食らえ!」
吠え合う二頭の魔獣。
カイルは隙を見せたフェンリルへ赤い銃を向けて発砲。だが、スッと姿をかき消す。
「速い……!」
「眼だけで追うな、気配を追え」
「気配か……ってそうは言ってもよ! うらあ!」
「わおぉぉん!!」
『シューが頑張ってます! イリスも戦う!』
「イリスは俺んとこに来い!」
『ここは任せて援護を頼む。……行くぞ』
「グルルルル……」
散開したカイル達は消えるフェンリル相手に戦闘を開始する――
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