84.

 モルゲン博士の声を聞いたカイル達はすぐに『遺跡』内部へ突入する。

 大人が三人並んで歩ける程度の通路には魔獣の死体と、トラップの残骸が散らばっており凄惨な状態となっていた。


 「ひでえなこりゃ」

 「邪魔者には容赦しないのがヤツだ。自分で作ったトラップを壊すあたり、頭の中は変わっていないらしい」

 「そういや、そいつの話をする時は随分冷たいが、知り合いか?」

 「まあな。伊達に天上人だったわけではない」


 カイルとガイラルが先頭を走りながらそんな会話をしていると、背後でイリスが口をへの字にしてカイルへ言う。


 『お父さん、なんか嫌な感じがします……』

 「わぉん?」

 「……奇遇だな、俺もだ」


 少し不安げなイリスを抱っこしてやるとカイルの首に抱きつくのを見て、ブロウエルがシュナイダーを抱えて眼鏡の位置を直しながら言う。

 

 「わふん♪」

 「陛下、急ぎましょう。もう一人がヤツの手に渡ると面倒になります」

 「そうだな。ゼルトナ」

 「へいへい、後から追いつくから先に行っててくれや。この兄ちゃんと行くことにする」

 「え!? い、いや、私も行きますよ!」


 コンブリールが心外だと言いたげに一歩前へ出るが、マントを掴まれてその場でこけた。


 「……やめとけ、自信を無くすぞ? 追いついた時にまだやりあってりゃ手を貸してくれ」

 「は、はあ……」

 「すまないがここは任せたぞ。行こう、カイル、ブロウエル」


 ガイラルが声をかけ、ゼルトナを置いてから三人は駆け出していく。

 その間にも破壊音と嫌な笑い声が耳に入る中、カイルは冷や汗をかき、イリスは呼吸が荒くなっていった。


 「……お前達を改造したのはモルゲン博士だからな。もしかしたら無意識でヤツを拒否しているのかもしれん」

 「俺はなんとかなる。が、イリスは置いてきた方が良かったかもしれねえな」

 「いや、それは――」


 カイルの言葉に返そうとしたガイラル達は地下三階のフロアに出た瞬間、正面に気配を感じて左右へと飛んだ。

 直後、三人が立っていた場所を紫髪の青年が大剣を振り下ろし、地面が深く切り裂かれていた。


 「速い……! 見えなかったぞ!?」

 『……』

 『あの人、私と同じです……!』

 「どうやら『終末の子』らしいな」

 「その通りだよ! ひゃっはっは! ……って、おや、君達は?」


 白衣を着た30代前半くらいの男が手を叩きながらはしゃぎ、ガイラルとブロウエルに目を向けてから指をさしてさらに笑う。


 「おほ! まさかガイラルとブロウエルかい? 久しぶりだねえ! いやいやその様子だと元気そうだねえ。老けたみたいだけどさ」

 「こいつが……?」

 「そうだカイル。こいつが終末の子を作り出した悪魔のような男、モルゲン=フィファール博士だ。……貴様こそ変わらんな、長いことコールドスリープしていたんだから少しはまともになったと思ったんだがな」

 「ひゃはっ! その物言い、間違いなくガイラルだ! それと今、カイルだと言ったね? もしやプロトタイプのカイルかい?」

 「なんだこいつ……それに皇帝も珍しい話し方をするな……」


 子どものようにはしゃぐモルゲンを見て引くカイルはガイラルの様子にも注目していた。だが、そこでガイラルの目は笑っていないことに気づく。


 「(おいおい、尋常じゃない殺気だぞ。こいつとどういう因縁があるんだ?)」


 カイルが胸中で呟いていると、モルゲンの背後から長身の男が埃を払いつつカイル達を見て口を開く。


 「博士、一体何階に置いたんですか? って、おやおや、カイルにブロウエルじゃないか、久しぶりだなあ」

 「あんときゃ世話になったな。今度はやられねえ」

 「やはりウォールも居たか」

 「俺も早いところ『上』に帰りたいからな」


 ウォールがやれやれと言った感じで首を振ると、モルゲンもそれに合わせて笑いながら――


 「ま、No.4も連れて来てくれているし歓迎するよ!」

 

 ――懐から取り出したサブマシンガンのような銃を乱射をする。だが、それが分かっていたとばかりに、大剣を盾にしながらガイラルが突撃していた。


 「いきなりかよ!?」

 「死ななければいくら損傷していてもいいと考えるような男だ。情は要らん、首を落とすか心臓を……潰せ!」

 「あひゃはは! いいねえ! 久しぶりに喧嘩しようか! 高振動ブレイドを試してみようか!」


 ガイラルの大剣を細身の長剣で受け止めるモルゲン。超高速で振るえる剣は打ち合うたびに火花を散らす。

 

 「な、なんだあいつ……皇帝の大剣を片手で受けながら‟レイディバグ”みたいな銃を乱射するのかよ」

 『器用です! お父さん、おじいちゃんを助けましょう!』

 「お、おう」

 「うぉふ!」


 イリスがびっくりした声を上げてカイルの抱っこから抜け、両腕を上げて憤慨していた。

 シュナイダーもブロウエルの腕から抜け出し、イリスの横に立って吠え、カイル、イリスと共に臨戦態勢に入るが、それを遮るようにブロウエルがウォールの前に出た。


 「……やっぱりあんたがやんのかい?」

 「そうだな。弟が間違った道を歩いているなら、正すのが兄の役目だろう?」

 「それを俺が望んでいなくても?」

 「邪道であれば」

 「いいぜ……! 止めて見ろ腰抜けが!!」

 「カイル、こちらは私がやる。お前は――」


 ブロウエルが言うが早いか、カイルは赤い刃でイリスに飛んできた大剣を防いでいた。


 「分かってる。頼むぜ大佐、こっちは子守りで精いっぱいだ。イリス、気をつけろよ」

 『大丈夫です! さっきから殺気を感じていたので、イリスは成長しています!』

 「フルーレちゃんみたいなことを……来るぞ……!」

 『……』


 無機質な目をした『終末の子』がカイル達へ攻撃を仕掛けてきた――

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