83.


 

 早々にイーブリス共和国を出発したカイル達。

 空中に停泊していた飛行船に戻ると、ヤーブルー国へと進路を取っていた。

 イーブリス共和国から南西に150キロに位置する場所である。


 一つ目の封印を解かれていたことで、カイルは剣を磨きながら険しい顔で口を開く。


 「この調子で大丈夫か? というかピンポイントで探し当てられたら後手に回る」

 「どちらにせよ『遺跡』に行くしかない。向こうはなんらかの手段で『遺跡』を見つけられるのかもしれない。先回りしたのか、荒らされた後かは運任せだ」

 「むう……」


 暗闇が広がる窓の外を見ながら振り返らずに答えるガイラルに、口を尖らせているとブロウエルがカイルの前に立ち、声をかける。


 「ヤーブルーにはまだ時間がかかる。お前は少し休んでおけ」

 「いや、俺は大丈夫だ」

 「イリスはそうでもないようだぞ」

 『ハンバーグ……』

 「ひゃん!?」


 ブロウエルが向けた視線の先には、シュナイダーの尻尾に噛みつくイリスの姿があり、カイルは口をへの字にして一人と一匹を回収する。


 「わかったよ。ゼルトナ爺さん、こいつが起きたらハンバーグを頼むぜ。食料はあるんだろ」

 「イリスのためじゃ、いいぞい。……カイルよ気持ちは分かるがイーブリスの惨状を見るに、戦いになったら激戦は必死じゃ。休むのも戦いの内だと思え」

 「……ああ」


 

 カイルはそのまま部屋へと足を運び、イリスをベッドに寝かせたあとシュナイダーを解放してやると、イリスの枕もとで尻尾を舐めていた。


 「お前、尻尾噛まれても一緒にいるのか? イリス大好きだな」

 「わふ!!」

 「イリスも俺も……そしてお前もはぐれ者だからか? 実験動物ってところは一緒だもんな」

 「くぅーん……」


 カイルが自虐気味にそんなことを口にしながら、水でも飲むかと立ち上がろうとしたところで――


 『お父……さん……すやぁ……』


 イリスがカイルの服の裾を掴んでいた。

 カイルはそれを見てフッと笑い、自分も寝るためベッドへ寝転がる。


 「……‟終末の子”の残り……どうなるか……」


 緊張のせいで疲れていたのか、目を瞑るとカイルは思いのほかすぐに眠りに落ちた。



 そしてそこから数時間後、彼らはヤーブルー国へと到着。

 ゼルトナが調査した『遺跡』のある場所である海岸へと飛行船を停泊させていた。


 「良く寝たようだな」

 「おかげさまで。状況は?」

 「芳しくない。念のため『遺跡』のある洞窟へ斥候を出したが、その前に大量の死体が転がっていて青い顔で帰って来た」

 「マジか……」


 カイルが装備をつけながら苦い顔をして聞いていると、別の兵が敬礼をしながら入り口に立ち報告が入る。


 「報告します! ヤーブルー国のアルファ騎士団のコンブリールと名乗る人物が責任者を出せと来訪されていますが如何いたしましょう?」

 「あー、俺が行く。皇帝は……危ないしいいか。大佐、来てくれるか?」

 「何を言うか、この部隊全員で行くぞ」

 「いや、四人しかいねえし……皇帝がホイホイ顔を出すなよ」


 だがガイラルは笑いながら、


 「お前が私を殺すんだろう? なら他の人間に殺されないように守ってくれ」

 「そりゃ俺が言ったらいいセリフだろうがよ……」


 カイルは呆れながら肩を竦めながら外に出た。

 するとそこには騎士一個師団が並び、飛行船の出入り口で待ち構えていた。

 先頭に居る緑の髪をした男が剣を地面に刺して睨むように目を向けているので、カイルは襟を正して一歩前へ出る。


 「すまない、遅くなった。初めてお目にかかる。俺はカイル=ディリンジャー、ゲラート帝国の少尉でこの部隊の隊長だ」

 「私はコンブリール。ヤーブルー国のアルファ騎士団の隊長だ。帝国の者がここへ何の用なのだ? 国境をこれで越えてきたのか……? なんのために? 答えによっては拘束させてもらう」

 「まあ、落ち着いてくれ。この近くで大量殺人があった、それは知っているよな?」

 

 カイルが口にすると、コンブリールの眉が上がる。


 「ああ……我々はその調査に来たからな。そしたらこの怪しいものがあったというわけだ」

 「なるほど。俺達は『遺跡』を狙う人間を探しに来た、その大量殺人犯は『遺跡』にいるはずだ」

 「ふむ……そちらの国の者か?」


 疑わしい、と目が訴えていた。

 死体がまだあるということは、まだ居るはず。急ぎたいとカイルがどう説き伏せるか考えていると、後からガイラルが現れて口を開いた。


 「私はゲラート帝国皇帝のガイラル。コンブリール君といったか、事態は一刻を争うのだ、済まないが通してくれないか? なんなら同行してもらってもいい。その方が真実がわかるだろう」

 「こ、皇帝陛下……!? ……た、確かに以前、セレモニーで顔を拝見したことがある……。失礼しました」

 

 コンブリールが胸に手を当てて頭を下げるのを見て、カイルは口を尖らせてからジト目でガイラルへ言う。


 「くそ、あっさり認めてくれたな……あんたが隊長でいいじゃないか」

 「あ、あんた? 皇帝陛下になんという口を……」

 「ああ、いい。この男は私の娘の夫になる予定。いわば息子だ」

 「は、はあ……コホン。しかし、この異常事態については道中、聞かせていただきますがよろしいですか?」

 「もちろん構わない。が、恐らく会ってみた方が早いと思う。どれほどあいつが危険な存在なのかを」


 ガイラルの言い草に、コンブリールは目を丸くするも海岸へ向かって歩き始めたため部隊と共に追う。

 

 

 「危険な存在とは人のことでしょうか?」

 「ああ。『遺跡』内に来るのは構わんが、死を覚悟した者だけ来るといい。そうでなければ、後悔することになる」

 「……」

 「この遺体がその証拠だ。この騒ぎを聞きつけたのは?」

 「三日前です。海沿いに住む村人がこれを発見し報せてくれたのですが……」



 コンブリールが首を振りながら馬から降りてそう口にする。砂浜に馬は連れて行けないと判断したからだ。


 「三日か……まだ中に居ると思うか? にしても傷口が綺麗だな……気持ち悪いくらいに」

 「さて、ここでケリをつけられれば助かるが……」

 「どちらにせよ確認は必要だろ? 行くぜ」

 『はぐれたらダメですよシュー』

 「わん!」


 カイルの言葉にイリスとシュナイダーが返事をすると、後ろに居たコンブリールが呻くように言った。


 「子供に……犬……? だ、大丈夫なんですか……?」

 「その辺の兵士より強い、行くぞ」


 ガイラルが『遺跡』の入り口に到着した瞬間――


 (ひゃっはっは! 魔物が巣くっているとは面白い! 実験材料にしてやろうか!)

 「……ビンゴだ」


 ――モルゲン博士の笑い声が響いて来た。

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