82.
――カイル達特殊部隊が結成されてから三日。彼らは飛行船で目的地へと向かっていた。
「こんな目立つので行って大丈夫か?」
「問題ない。むしろ、あの博士に当てつけてやればいぶり出せる可能性が高いからな」
自分こそが最高の頭脳と考えている馬鹿は扱いやすいとガイラルが笑い、カイルは目を大きく開けてから肩を竦める。
その横では資料をとっかえひっかえしながら目を通すゼルトナと、静かに座るブロウエルが居た。
「ふん、話を聞く限り胸糞悪くなる男みたいじゃしな。ブロウエル」
「ええ、ウォールもそうですが人を小馬鹿にしたところがあります。ウォールは少し頭が回りますが、モルゲン博士は隙があると考えます」
「博士なのに馬鹿なのかよ……」
カイルが呆れた声を出すと、ガイラルはそれに答えるように口を開く。
「開発、研究、人体実験。あらゆる分野で最高の能力を発揮するが、どれも『自分のため』にしか原動力を発揮しない。故に付け入る隙があるということだ。戦闘力は侮るなよ、おかしな研究品で手痛い目に合う」
「銃とかなら皇帝、あんた剣で大丈夫か?」
「私の心配か? 殺す相手に随分優しいじゃあないか」
話しながら剣を磨くガイラルにカイルが言うと、不敵に笑いながら返すと、カイルはぎくりとしてそっぽを向く。
「そうじゃねぇけどよ! あんたが死んだらエリザになんて言っていいかわかんねえだろうが。俺が手にかけるならまだしもな」
「フッ、楽しみにしているからな? ゼルトナ、最初の目的はイーブリス共和国でいいのか?」
「ああ、まずは一番遠いところから当たる。終末の子は残り五体、遠いところからなら帝国に戻りやすいだろう」
そう言うとゼルトナは資料をカイルに投げつけ、慌ててそれを掴む。
内容を見たカイルは呆れた声をあげた。
「おいおい、『遺跡』は全部把握済みか。って俺が頼んだのちょっと前だったろ!?」
「あたりまえじゃ、ワシを誰だと思っている。諜報部最高顧問だったゼルトナ=イーブルじゃぞ」
「ただの情報屋だと思っていたのに……」
「ゼルトナ翁は的確に戦術情報を得ることに長けていたからな。ある意味不敗で手を出しにくいのは翁の功績でもある」
「国王の不倫から野良猫の捜索まで幅広いぞ」
カイルは首を振りながら凄いのか凄くないのかよく分からないなと思いながらガイラルへ顔を向ける。
「共和国には話をしているのか?」
「しているわけが無いだろう? 急に出てきたのだから書状も無い。だから、国境付近で降下し、そのまま『遺跡』へ行く」
「マジかよ……」
ブロウエルもゼルトナも特に動じることなく涼しい顔で聞いているのを見てカイルはヤバイ部隊に来たものだと頭を抱える。
しかし、それでもモルゲン博士を警戒している素振りがある三人に気を引き締めねばとカイルも赤い銃と剣を磨く。
特に‟終末の子”を奪還されるのは、イリスやサラ、ニック、そして自分をかえり見れば早めに対処しなければならないのがよく分かる。単体で戦えば数で落とせるが、残り五体が全て敵で、同時に襲い掛かってきた場合国の一個師団は簡単に全滅するであろうと。
そしてカイル達はイーブリス共和国へ足を運ぶが――
◆ ◇ ◆
「……『遺跡』は荒らされていたか……奥までのトラップも全て破壊しつくされている」
「ウォールが居るせいもあるが、思ったより動きが速いな」
『誰も居ませんねー』
「わぉう」
イリスが入っていたようなガラスの棺が奥にあり、粉々に砕け散っていた。
気配もトラップも無く、すでに奪還された後だということを物語る。
「……もう用はない。外の遺体には申し訳ないが、すぐに発つぞ」
「ここはなにか重要な拠点、だったのですか?」
そこでイーブリス共和国の騎士が声をかけてくる。
彼らも異変に気付き、集まっていたのだ。
ガイラルが身分を明かし、事情を説明することで中へ同行することを許可してもらいここまで来たのだ。
「拠点と言うより、ここに残されていたものが重要だったのだがな。すまない、手間を取らせた」
「いえ。事情を聞くため拘束させていただきたいところですが……」
「もしそうなら実力で通る。犠牲は覚悟してもらうぞ」
「せ、戦争になりますぞ……!?」
ブロウエルの言葉に騎士が驚く。
だが、ガイラルも真面目な顔で騎士の肩に手を置いて言う。
「まあ、ここは見逃してくれ。後で詫びの書状を送る。事はかなりまずい方向に差し迫っているのだ」
「う、むう……承知、しました。私の任務はここの調査……見なかったことに、しておきます」
「賢明だな。では行くぞ」
『はーい!』
先を急ぐカイル達。
イーブリス共和国を後にし、すぐに飛行船へと戻ると、次の目的地へ向かう。
「チッ、もう回収された後とはな……次は?」
「ヤーブルー国だ。遺体の状態からまだ遠くには行っておるまい、運が良ければ追いつけるぞ」
「ああ……」
カイルはイリスを膝に乗せたまま一言呟く。
『遺跡』の罠は面倒なものが多かった。それをあっさり、しかも外で死んでいた騎士達の遺体の数を考えるとどれほどの規模で来ていたのかと冷や汗を流す。
「(この人数で本当に勝てるのか……?)」
そして一方、モルゲン博士とウォールは――
「ふうん、ここがヤーブルー国かい? チンケな国だねえ」
「地上人の土地ですからこんなものでしょう。それで『遺跡』は?」
「探知機だとこっちの方だけど……おっと、相変わらず無用なゴミが沢山いるねえ」
「私がやりましょうか」
「うーん、折角だしNo.8を使おうじゃないか! ここで殺人をインプットさせておけば後々役に立つからねえ。ほら、仕事だぞNo.8」
『……』
紫髪の青年が静かに、目を開ける――
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