64.
カイルの呟きに息を飲む第五大隊のメンバーたち。シンとした会議室にエリザが咳ばらいをひとつして話を続ける。
「そういうわけで、まずは協力を得ねばならない。カイル、頼んだぞ」
「それはいいが、なぜ俺なんだ? 『遺跡』の調査ならともかく、協力を仰ぐなら同じ隊長のカーミルか最近仲がいいエリザの方がいいんじゃないか?」
「……お父様からの指示だ、私達はバックアップとして『遺跡』調査時にジャイル国へ向かうことになっている」
「また皇帝か……」
カイルは目を細めて憮然とした表情で呟き腕を組む。これも何か意図があるのだろうと思ってはいるものの、手のひらで踊らされているようで腑に落ちないものを感じていた。
だが、第五大隊のメンバーも別の意味で疑問に感じていることを、パシーが口にする。
「あの、この前から思ってたんですけどいいですか?」
「なんだ?」
エリザが首を傾げて聞き返すと、パシーがとんでもないことを言いだした。
「えっと、カイル少尉って少尉ですよね? なんで隊長にタメ口なんでしょう! 隊長も気にしていないし、それに陛下も皇帝って呼び捨てにしてません? 極刑モンじゃないですか?」
「そ、それは……」
エリザが焦って何か言おうとするが、ウルラッハがそれを遮った。
「そういやそうだよな、カイルは確かにそれなりに歳食ってるけど階級は少尉。『遺跡』から帰って来た時も上がらなかったよな? タメ口って変な感じだ」
「歳食ってるは余計だ!」
『そうです、お父さんは歳を取っていてもかっこいいです!』
「わんわん!」
カイルが誤魔化そうと叫び、イリスとシュナイダーが予期せず便乗してくれたが、エリオットが顎に手を当てて言う。
「……そういえば噂でカイルと隊長が恋仲だったというのがあったな……もしかして本当に? でも五年前に配属されたし時期が合わないんだよなあ……」
「うむ。一体どういう関係で……?」
キルライヒも目を光らせてエリザに詰め寄ると、顔を赤くしたエリザが机を叩いて立ち上がり激昂する。
「ええーい! そんなどうでもいいことを聞いてどうする! カイルは部下! 以上! 話しは終わりだ、解散!」
「は、はい! 了解しました!」
物凄い剣幕で捲し立てて会議を終了させ、第五大隊は会議室を追い出され、全員が外に出るとエリオットが口を開く。
「あー、びっくりした。にしても結局のところはどうなんだカイル?」
「さあな、ご想像にお任せするよ。行くぞイリス」
『はーい。シューおいで』
「くぅーん」
イリスがシュナイダーを抱っこし、カイルと手を繋ぐ。その様子を見ながらパシーがにやりと笑う。
「……またもフルーレ中尉と一緒、そして今回は二人旅……これはイリスちゃんにお母さんを作ってやれという皇帝陛下の意思を感じま……痛っ!?」
「うるさいぞパシー中尉。フルーレ中尉はお前より若いんだ、俺みたいなやつを相手にするわけないだろ?」
「分かりませんよ! もしかしたら向こうだってわくわく……あ、いた!? いたた!?」
カイルはパシーの頭をチョップしつつその場を去っていく。その後ろ姿にキルライヒが声をかけた。
「フルーレ中尉はともかく、任務よろしくたのむ」
「ああ、期待しないで待っててくれ」
「カイル、出発は二日後だ。知った顔だかあ問題ないと思うが、一度フルーレ中尉と話しておいてくれ」
エリザが出ていこうとするカイルに声をかけると、カイルは振り向かず、片手を上げてイリスを連れて廊下を歩いていった。
「……でも隊長はカイルのこと意識しているよな?」
「そーですね! くくく、これは面白くなってきました! フルーレ中尉と隊長、どっちがカイルさんとくっつくか賭けません?」
「面白そうじゃねぇか俺は――」
「おい、やめておいた方が――」
「貴様らなにをごちゃごちゃと立ち止まって食っちゃべっている! 駆け足!」
「「「は、はいいい!?」」」
四人は会議室から顔を覗かせたエリザに怒鳴られ散っていくパシー達。エリザはその姿を見ながら腰に手を当てて嘆息する。
「まったく……しかし、お父様も一体何を考えているのか? ……結婚間近まで行ったんだし、カ、カイルは私の夫なのだから他の女性をあてがうことなどないはず……無い、よね……?」
もやもやした気持ちのまま、エリザは執務室に向かって歩き始めるのだった。
◆ ◇ ◆
会議室を後にしたカイルは隊舎から出ると、迷いなく城へと足を向ける。フルーレのいる隊舎と違う方向だと気づいたイリスがカイルを見上げて言う。
『あれ? お父さんどこへ行くんですか? フルーレお姉さんはこっちですよ?』
「皇帝のところだ。どういうつもりか聞きにな。お前は先に行っていてもいいぞ。この中ならお前も結構顔が知れ渡っているしな」
『むう、私も行きます! ……シュー、起きなさい!』
「……くぅーん」
イリスに抱っこされたシュナイダーがうっすらと目を開けてあくびをすると、イリスが背中を撫でながらシュナイダーに声をかけた。
『最近たるんでいますよ? 抱っこしてもいいですけど、ちゃんと歩いてください』
「わん」
しぱしぱした目をしながらシュナイダーが一声鳴き、ぴょんと飛び降りてからぶるぶると体を震わせてくてくと歩き出す。
『偉いですよシュナイダー』
「わんわん♪」
「……」
『どうしましたかお父さん。難しい顔をしていますよ?』
「どんな顔だっての、それじゃ皇帝に文句を言いに行くとするか」
『喧嘩したらダメですよ?』
「どうかなあ」
カイル達はじゃれ合いながら城へと歩き始める。やがて門を抜けようかという時――
「……!?」
カイルは視線を感じ慌てて振り返る。しかし、町へ向かう道には誰もおらず、周囲を見渡しても人影は無かった。
『なにかありましたか?』
「……なんでもない。行くぞ」
「きゅうん?」
「(なんだ今の悪寒は……? 間違いなく誰かが俺を見ていたと思ったが……)」
うすら寒いものを感じつつも、カイルはガイラルと謁見を行うのだった。
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