62. 



 「ここまでの計画は順調、というところでしょうか陛下」


 ブロウエル大佐が謁見の間で後ろで手を組み、玉座に座るガイラルへ口を開く。ガイラルは顎に手を当て、ため息を吐きながら胸中を吐露する。


 「少し早い、というのが正直な感想だよブロウエル。できれば全ての国を手中に治めておきたかったが、どうやらそうも言っていられないらしい。倒したとはいえ、No.1が現れたということは他の『遺跡』も封印が解ける日が近いということだ」

 「……私は陛下にお伺いした部分しか知りませんが、時期がずれていたと?」

 「まあ、5000年も前の話だ、100年単位のずれがあってもおかしくなかろう。……逆にいえば奴と同時にコールドスリープから目覚めたのが私で良かったというべきか?」

 

 ブロウエルは微動だにせ、口を開く。


 「そうですな。もし陛下でなければ地上はもう蹂躙されていたでしょう。五年前、”天上人”という監視が消えたおかげでこちらもほぼ条件は対等になった。国を支配して奴隷を作るという甘言で奴らの目を背ける必要がなくなりましたからな」

 「ああ。しかしコールドスリープから目覚めた私は歳を取る。だが、奴は今回失敗してもまた眠りについて年月を待てばいいだけ。だからこそ私が成し遂げねばならん」

 「……しかし、空には仲間もいるのでは?」

 


 ガイラルはブロウエルの言葉を受けると、目と瞑りしばらく沈黙する。やがて微かに笑い、誰にともなく言う。


 「もうかなり歳をくってしまったから『僕』を見てガイラルだと分かる人間は居ないさ。……5000年前地上を捨てたツェザール、奴を討つためなら仲間も命を惜しみはしないはずだ」

 「左様で……」


 ブロウエルが眼鏡を直す仕草をし、ガイラルは頷く。迷いはないといった表情を向けると、その時、謁見の間がノックされる。


 「何用か、入れ?」

 「すまないな、陛下」

 「……ゼルトナか、珍しいな?」

 「ちっと耳に入れておきたいことがあってな。カイルの奴が『遺跡』について調べてくれと依頼があった」

 「なに? 将軍、それは本当ですか?」

 「将軍は止めろ、ブロウエル。マスターと呼べや」


 くっくと笑うゼルトナをよそにガイラルは思案した後、ゼルトナへ言う。


 「見つけたら私に情報をくれ、カイルを止めるのは難しいだろうからこちらで操作させてもらいたい」

 「ま、そうなるよな。任せろ。イリスもいる、死なせるなよ?」

 「エリザと結婚すれば私の息子だ、当然だろう?」

 「ならなんで五年前……ああ、いい、聞きたくねえや。話はそれだけだ。じゃあな」


 ゼルトナが踵を返して戻り、ブロウエルが頭を下げて見送る。ガイラルはゼルトナが出ていったあと、ブロウエルへ尋ねる。


 「……私は”楽園”にはいけそうにないな」

 「……」

 「さて、情報が来るまでこちらも準備を整えようか」





 ◆ ◇ ◆



 水面下で計画が進む中、カイルは技術開発局へとやってきていた。ガイラルに言われたように、天上人に対しての兵器を作るために。


 「傷が治ったとたんにこれとは、やる気のねえことだよ。お姉ちゃんと遊んでた方がマシだ」

 『? フルーレお姉さんとエリザお姉さんと遊ぶのですか? ふたりとも優しいので好きですよ』

 「いや、まあ……」

 「くぉーん?」


 イリスが首を傾げて笑うのを見てカイルは肩を竦める。さすがに子供に見せられない行為を近くに居させてやるつもりは毛頭ない。


 「最近エリザの胸も触ってないな……この前尋ねてきたのはオートスだったし……」

 『触るとどうなるんです?』

 「元気になる」

 『そうですか……』


 イリスは自分の胸をぺたぺたと触り残念そうに呟く。カイルは苦笑し、イリスを抱っこしてあてがわれた研究棟へ向かう。


 「……まだ直ってはいないか」


 ゾンビ―騒ぎで壊れたあちこちの建物がまだ痛々しい爪痕を残していた。カイルはせわしなく働く兵士たちを眺めながら歩いていく。


 「わんわん!」

 「外だからって走るなよシュナイダー。さて、空にあるでかい島を落とすための兵器か……この前作った奴は地上に落とすやつだから、今度は上に飛ばせばいいのか?」

 『シュー、おいで』


 イリスがシュナイダーを抱っこしさらに進んでいく。するとカイル達に声をかけてくる人物がいた。



 「少尉、元気か?」

 「あれ? カーミル大佐じゃないですか、どうしたんですこんなところに」

 「うむ。散歩していたから見かけただけだ」

 「いやいや、研究棟の敷地内を散歩するやつは居ませんよ」


 カイルがそう言うと、どこ吹く風でカーミルは喋りだした。


 「なに、少し君に用事があってな? ……ウィルスの件と言えば分かるか」

 「……聞こう」

 『どこへ行くんですか?』

 「イリスの好きなものを食べさせてくれるそうだぞ」

 『本当ですかお姉さん!』

 「もちろんだ、私は太っ腹だからな」

 『お姉さんは太っていませんよ?』

 「はっはっは、こいつめ。フルーレみたいなことを言う。よし、では行こうか」


 カーミルはイリスと手を繋ぎ元来た道を戻り、着いた先は第六大隊の隊舎だった。そこにはもちろん――


 「あ、あれ? カイルさんに隊長? イリスちゃんまでどうしたんですか? あ、シューも」

 「わおん♪」


 第六大隊なのでフルーレが居た。

 急に現れたカイルに困惑しつつ声をかけると、カーミルがフルーレに頼みごとをする。


 「コーヒーを頼む。イリスに食べたいものを聞いて出前をとってくれ」

 『わーい! パフェがいいです』

 「ちゃっかりしてんな……」

 「わかりました!」

 

 フルーレが敬礼をしてその場を去ると、カーミルは目配せをし応接室へとカイル達を連れて行く。



 「まあ座ってくれ」

 「で、ウィルスの話とは……?」

 「うむ――」



 カーミルは調査した結果をカイルに話し出した。聞いたカイルは――

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