57.
対峙している中、じりじりと間合いを詰めていくカイル達。ニックが苛立たしげに剣を構えようとした瞬間、ガイラル皇帝が一足で飛び出した。
「皇帝!」
「あの男は生かしておく必要はない。後々面倒なことになる。敵兵を見ただろう? おもちゃのように扱うこいつから何か聞けると思うか?」
『貴様が言えたことかガイラル!』
冷淡な口調でカイルに告げ、ニックへ大剣を振り下ろす。
「お前は今ここで消す。これでお前達は解放されるのだ」
『歳食ったお前の攻撃なぞ……! む?』
ガイラル皇帝の攻撃をニックが防ぎ、白い剣で押し返すとカイルが割って入る。赤い刃を押し付け諭すように口を開く。
「皇帝は本気だ、投降しろ。イリスを知っているようだがお前も『遺跡』から目覚めたクチか?」
『下等生物が俺に指図するな! そして俺達のことを知ったところで意味が無い。ここで死ぬのだからな』
「なら喋るように痛い目に合ってもらうだけだな……!」
カイルの赤い刃がニックの剣を弾くとニックはたたらを踏む。
『なに……!? 貴様一体!? だが……!』
驚きの表情を見せつつも、歯噛みしながら彼はカイルへと迫る。だが、そこへレーヴァテインを突き出すイリスの姿があった。
『させませんよ』
『No.4……! お前はこちら側だろうが、なぜ下等種に手を貸す!』
『あなたが仲間だということはメモリーから回復しましたが、お父さんを……マスターを傷つけることは許しません』
『クソが……お前、俺とは”違う”のか……? まあいい、お前は回収して――』
「――どうするつもりだ? ウチの子に!」
ニックがレーヴァテインの攻撃を回避した隙に、カイルの赤い刃が顔を掠め頬に血を垂らす。片目を細め激昂する。
『さっきからうっとおしいやつだな貴様から死ぬか! <フラガラッ――>!』
「私がいることを忘れるなよニック!」
『ガイラルぅぅぅ! だが、遅いもう発動した後よ!』
「くっ!」
ニックが肩を斬られながら剣を高く放り投げ、ガイラルを蹴り飛ばしカイルへと向かう。
「武器を捨ててどうしようってんだ!」
『あそこにあるだろうがぁ! くっく、死ぬがいい』
「なに!?」
『お父さん!』
「カイル!」
ニックはカイルの剣撃をすり抜けると、刃を持ったカイルの手を抑えこみ、首を掴んで吊り上げた。およそ人間とは思えない力で吊り上げられ、カイルは咳きこみもがく。
「う、ぐ……!?」
『さて、お楽しみだ! そこで見ている連中も逃げていた方が良かったと思える瞬間だ……!』
ニックがにやりと笑い、落ちてこないフラガラッハを見ながらそんなことを言う。エリザの胸中に嫌な予感が走り控えていたエリオット達に指示を出す。
「いかん、カイルを救出する、私に続け!」
「あ、ああ!」
キルライヒ中佐たちが動き出した瞬間にそれは起きた。
『じゃあな、下等種』
『あ……!』
イリスが小さく呻く。
空中にあったフラガラッハが光り出し、白刃を射出。そして掲げられたカイルの体に深々と突き刺さった――
「ぐっ……!?」
『馬鹿な!? ガイラル貴様っ!?』
しかし突き刺さったのは直前で体をに差し込んだガイラルだった。ガイラルは背中に白刃を受け、血を吐きながらニックに大剣を振るう。だが、ケガをした状態では満足に振るえずニックはカイルを投げ捨ててその場を離れる。
『ふ、ふふ、こんな下等種を庇うとは落ちたなガイラル……! 死ね!』
『No.1……! おじいちゃんを……!』
『ぐぬ……!? No.4か! 大人しくしていろ、すぐに調整してやる! 今日のところはこれくらいにしておいてやる。No.4の調整が終われば、他の”終末の子”を探し、人間どもを抹殺してやる……!』
レーヴァテインでニックの腕を貫くイリス。しかし、いつの間にか手にしていたフラガラッハの柄で後頭部を殴られ地面に伏す。ニックはイリスを肩に担ぐと、そのまま離脱を図ろうと後退する。
「きゅん! きゅんきゅん!」
「ダメ、シューちゃんが行っても殺されちゃうわ!」
「きゅぅぅぅん!!」
シュナイダーが吠えて走ろうとするのをフルーレが抑え、ドグルとオートスがニック追う。
「逃がすかよ!」
『いいのか? こいつに当たるぞ? 俺は一向に構わんが?』
「野郎……」
オートス達が狙いをつけるが、イリスを盾に不敵に笑う。その光景を横目に、カイルはガイラルを助け起こす。
「げほ……イリス! おい皇帝、生きてるだろうな! 死んだら俺が殺せないだろうが!」
「ごふ……サイクロプスの素材をやすやすと貫通するとは流石と言わねばならんな……」
「喋るな! フルーレ達のところへ行け。俺はイリスを助ける」
カイルは吐き捨てるように言うが、ガイラルからの返事が無く、ハッとしてガイラルへ顔を向ける。
「……」
「お、おい、何か言えよ! 皇帝! ……マジか?」
血の気が引いていくガイラルの顔。冷や汗が出るカイル。殺しても死なないような男がと思っていると、手のひらにぬるりとした血がつく。
「カイル、父上は――」
「……エリザ、後は頼む。クソ親父が、勝手に死にやがって……! それも俺を庇ってだと? ふざけるな!」
「カイル……?」
カイルは赤い刃を拾い、赤い銃を左手に持つと即座に駆け出した!
『まだ抵抗するか! しかしNo.4――』
タン、と乾いた音が響きニックの腹にに赤い点が出来る。イリスの肩と頭、その隙間を縫って弾丸がヒットしたのだ。ドグルがごくりと唾を飲んで横を通り過ぎるカイルを見て呟いた。
「嘘だろ……あんな隙間、下手したら嬢ちゃんの頭が吹き飛ぶんだぞ……!? それを撃つってのか……」
オートスは何も言わず、スナイパーライフルのスコープを覗きながら、あり得ないと胸中で呟く。カイルは叫びながらさらに追撃をかける。
「俺が貴様に捕まらなかったらこんなことにはならなかった……! 俺が生け捕りにしようとしなければ……俺が皇帝を殺したようなもんだ……!」
『ぐ、うお……!? き、貴様さっきからなんなんだ! 下等種がこんな真似を――』
「イリスを離せぇぇぇぇ!」
ガキンと赤い刃を振りニックは慌ててイリスをその場に落とし、フラガラッハで迎撃するため踏み込む。カイルはイリスが居なくなった途端、至近距離で赤い銃を乱射しながら片手でフラガラッハをいなしていた。
『その程度では死なんぞ!』
「なら……貴様が死ぬまで攻撃し続けるだけだ……死ね、肉片も残さずにな」
『ぬうううう!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます