48.
――技術開発局通路
「陛下、カイルは手伝ってくれますかね?」
「問題ないだろう。あの男は自分以外の者が傷つくのを見捨てられるほど心は壊れておらんよ」
「……帝国を捨てたり、とか?」
「無い。エリザ達を見捨てることは絶対にな」
断言するガイラル皇帝に、片目を瞑って煙草を咥えながら続けるセボック。
「随分カイルを擁護しますねえ? 五年前、上層部を惨殺した男に寛容すぎかと思いますが――」
「……あれは私が――いや、何でもない。それより、銃を見ていた時のカイルを見たか?」
何か情報が得られるかと思ったが、話題をあっさり変えられ肩を竦めるセボック。だが、話を止める訳にはいかんかと、頭を掻きながら返す。
「ええ、副局長として一緒に活動していましたけど、初めてみました。文字通り目の色が変わってました。陛下はあいつのことを知っているんですか?」
セボックが探るように尋ねると、ぴたりと足を止め後ろを歩くセボックに振り返って言う。
「そりゃあ、知っているさ。なんせ可愛い娘の夫になるはずだった男だぞ? ……さ、隊長たちが待っている。行くぞ」
ガイラルはそれだけ言って再び歩き出す。セボックは後ろ姿を見ながら煙草を一回、ふかす。
「(はぐらかされた、か? ……まあいい、時間はまだあるしな……)」
◆ ◇ ◆
試験場に残されたカイルとイリス。
サイクロプスと設計図を前に腕を組んで目を瞑るカイルに、イリスが袖を引っ張り声をかける。
『お父さん、どうしますか?』
「……作るしかないだろうな。エリザやオートス達が前線に行くだろう。特にドグルとダムネは重火器と重装兵だから特にな。間に合うかは……俺次第か」
イリスの頭に手を乗せそう言うカイルに、イリスが見上げて返す。
『私も手伝います。……少し思い出したんですが、サイクロプスは私と同じ出どころのような気がします』
「どういうことだ?」
『言葉通り……私を造った人か、それに近い人が作った……そんな既視感があるのです。何故か”失敗作”という言葉が浮かびますが』
「失敗作、か」
何に対しての失敗なのかが不明だとカイルは考える。イリスを造る過程で試していたのなら大きさが違いすぎる、と。
「いや、まてよ?」
『?』
だが、ひとつ思い当たる節があり、イリスの服の袖をまくり確かめる。予想が当たったとカイルはひとり頷く。
「……お前の皮膚はこいつの素材と同じかもしれないな。ただ、サイクロプスほど分厚くないのに強度は変わらないような感じがするな。……少し斬っていいか?」
『はい。お父さんはマスターですから』
カイルは険しい顔をするが、胸ポケットに入れていたナイフをパチンと広げ、まずはサイクロプスの方へ切り込みを入れる。
「……切れないな。お前の武器か、俺の魔血晶で作った武器くらいないと通らない。じゃ、イリス」
『はい』
言葉は冷静だが、顔は注射を待つ子供と同じ顔になり、カイルは噴き出す。
「もしかして痛いのか? なら無理はしないでいいぞ?」
『いえ、お父さんの役に立ちたいですから』
んー! と口をへの字にして待つイリスに、苦笑しながらスッとナイフを手の甲へ滑らせる。読み通り、サイクロプスよりも薄い皮だが――
「傷ひとつないな。痛みは?」
『大丈夫です。そういえばお父さんが守ってくれますから、攻撃を受けたことがありませんでしたね。やっぱり同じ素材ですか?』
「だな。よく皮膚に見せかけているもんだ、お前を造った奴は正真正銘天才だ。しかし、お前という前例があるならそれは『できる』ということだ。それに防具ならはりきって作れるからな! そんじゃいっちょやりますかね」
『はい。あ、シューはどうしましょう?』
「あ、そうだな。多分詰めることになるだろうから、先に連れてくるか。ついでに飯も買ってくるか」
『行きましょう!』
急に色めき立ち、カイルの手を引っ張るイリスと一緒に研究棟から出た後、カイルは家の隅で小さくなっていたシュナイダーと魔血晶でできた武器を回収し、ハンバーガーを買って戻ってくると食べながら作業を開始。
夜中までかけてサイクロプスを解体。臓物のようなものは無く、頭部に村長の胸にあったものと同じ、魔力の核が存在しているだけだった。
核をテーブルに置き、まずは素材の加工からと腕を振るうが、これがなかなか上手くいかずに苦戦する。
そして二日が経った。
「……イリス、ダガーを貸してくれ」
『はい』
「きゅんきゅん♪」
『あ、シュー、サイクロプスの皮を噛んだらダメです』
「ひゅーん……」
「ははは、そいつのおかげでここまでこぎつけたんだ、遊ばせてやれよ」
サイクロプスの皮をベストに縫い込めるよう薄く加工する。最初の二時間は薄く延ばすどころか形にすることさえできず四苦八苦していたが、シュナイダーがべろりと丸まった皮を口にし、おもちゃにしたところで転機が来た。
シュナイダーが噛んだところからびよんと伸び始めたからだ。すぐにカイルが調べると、唾液がついた部分がそうなると判明。結果、水で濡らすと乾くまで加工しやすくなるという特性を見つけたのだった。
「俺の上着にコーティングしてっと……」
『どうするんですか?』
「あそこに的があるだろ? あそこに引っ掛けて来てくれ」
『はい』
「きゅん!」
イリスがバサッとターゲットにカイルの上着をかけて戻ってくる。それを見届けた後、深紅の銃を取りだし、弾丸をこめる。
「上手くいっててくれよ?」
そう呟いて発砲。
室内に響き渡る轟音が耳をつんざき、シュナイダーがひっくり返る。弾は見事、上着に命中し煙を上げた。カイルは的に近づき、上着を確かめる。
「……穴が開いている、薄すぎたか……」
『私の肌より薄かったみたいです』
「だな。だけどもう少しでコツが掴めそうだ」
近づいてきたイリスを抱っこし、上着を持って研究室へと戻っていく。すると、
「カイル」
「セボックか、どうした? 手伝ってくれるのか?」
「馬鹿を言うな、新型の調整と生産で手一杯だっての。……それよりも重要な話だな、いよいよ部隊がさっき出発した」
セボックの言葉にぴくりと耳が動く。
「相手の進軍が早いのか?」
「いや、国境より少し前で牽制できている。火器はいいものを持っちゃいねぇから、迂闊に近づくことはしてこないようだ」
膠着状態が続けば向こうも諦めるかもしれないとカイルは考える。山側が気になるが、と思っているとセボックが続ける。
「とりあえず防具はいいが、広範囲兵器の開発に――」
ウー……ウー……
「なんだ?」
「招集サイレンか? だけど陛下は出発したし……」
急に鳴り響くサイレンにセボックが呟くと、カイルは目を細めて上着を羽織り武器を手に取る。
「違う! これは緊急事態のサイレンだ!」
『あ、お父さん!』
「きゅんきゅんー!」
カイルが研究棟の外に出ると――
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