46. 



 <技術開発棟>


 入口が見えてきたころ、手を繋いで歩いていたイリスが思い出したように口を開ける。


 『あ、お父さん。シューを忘れています』

 「ありゃ、そうだった。家は逆方向だしシュナイダーは諦めるか」

 『何かするのでは無かったのですか?」

 「ああ、魔獣の調整をちょっとな。あいつは副作用で小さくなっているし、俺が無理やり大きくしたりしているから……多分寿命が長くないんだ。ちょっとでも長生きして欲しいし」

 『……死んじゃうんですか?』


 珍しく表情を見せるイリスに、カイルは抱っこして目線を合わせて笑う。


 「ま、あいつも魔獣だ。お前が大きくなるまで生きているさ」

 『大きく……』


 そう呟いてカイルの首にぎゅっと抱き着くイリス。カイルがポンポンと背中を軽く叩いてやり、そのまま技術開発棟へと入って行く。


 「(変わってないな)」


 白い壁と廊下。

 無駄なものは一切無いホールに、受付がポツンとあるだけのシンプルな場所に、カイルはほんの少しホッとする。すると、受付にいた神経質そうな男がカイル達を見てじろりと目を向けてきた。


 「……なんだ? 兵でもここは許可が無いと入れないんだ。しかも子連れとはな。許可証はあるのか? なければ――」


 と、男が言ったところで、男の肩に手が置かれカイルは肩を竦める。踊らされているようで嫌になると思っていると肩に手を置いた男が面倒くさそうに声を出した。


 「あー、俺が許可した。よく来てくれたな、カイル」

 「皇帝に言われたんだがな?」

 「はは、そう言うなよ相棒。陛下には俺が先に頼んでおいたんだ」


 という会話をしていると、受付の男がカイルと、やってきた男、セボックの顔を交互に見て焦る。


 「きょ、局長……!? こ、こんなとこにいらっしゃるとは」

 「おう。こいつは俺の客だ、通してOK。……というか、前任の局長様だぞー。さ、行こうぜカイル」

 「ああ、よろしく頼むよ」

 『よきにはからえ』


 イリスが何故かドヤ顔で手をびしっと突き出し、カイルが苦笑する。受付の男はカイルを見ながら目を大きく見開いた。


 「は? え? 前任? ……カイル……!? 局長がいつも言っていた!?」

 

 受付の言葉には返さず、片手を上げてセボックの後についていき、魔科学で開発されたエレベーターに乗ったところでカイルが口を開く。


 「お前、俺のこと言いふらしてるんじゃないだろうな?」

 「別に構わないだろ? どうせ技術開発局の連中は陰気でコミュニケーションが取れないようなやつばかりさ。ここじゃ、俺よりもお前の方が立場は上なくらいだって」


 ひっひっひと、火のついていない煙草を口に咥えて笑うセボック。いつもと同じなら最上階かとカイルは思っていると、エレベーターは地下へ向かっていることに気づく。


 「……? 地下か?」

 「ああ。俺しか入れない部屋を一つ作ってな。さっきホールで説明したが、新武器のテストをお願いしたいんだ。戦争だろ? ここを落されちゃ研究もできないからな」


 チーン、と小気味よい音を立てて目的の場所へ到着する。

 エレベーターから降りてさらに廊下を進み、扉を開けて部屋の中へ。そこは射撃練習や斬撃テストができる実験場だった。


 そして――


 「早かったな」

 「……あんたもな」


 休憩テーブルに座って声をかけてくる人物はガイラル皇帝で、カイルは目を細めて返事をする。セボックがおかしいと笑いをかみ殺しながら、壁にかかっている重火器を指さして言う。


 「……ここにあるやつが新型だ。設計は俺もそうだが、他の技術者も携わっている。お前の目から見てどうだろうか」

 「ふうん、アサルトライフルにスナイパーライフル、サブマシンガンと……こいつはロケットか?」

 「「……!?」」


 カイルの何気ない言葉にセボックとガイラルが驚いた表情を見せる。それもそのはずで、この携行型ロケットは試作品第一号で、カイルが知っているはずがないからだ。


 「お前、こいつを作ったことがあるのか?」

 「え? いや、でも昔、俺の頭に浮かんだのがこういうやつで、ロケット砲って名前を付けるつもりだったんだよ。ただ、こいつは理論的に威力がありすぎるから俺は開発をしなかった。……銃でも当たり所が悪かったら死ぬ。こんなので撃ち抜いたら確実にな」

 

 魔獣と戦うため、侵略から守るためにはいいが、戦争は人間同士の争いだから強力すぎる兵器は止めたとカイルは言った。するとセボックは煙草に火をつけてから頭を掻く。


 「……ま、いい。アサルトライフルから見てくれるか?」

 「ああ」


 カイルは渡されたアサルトライフルを手に持つと、銃口を覗き、銃身を確かめる。セボックは煙草をふかしながら壁に背を預けて口を開く。


 「そいつは”EW-214 ウォッチドッグ”ブレ軽減を目指した最新型だ。弾倉も500発から750発に上げてある」


 自信作だぜと鼻を鳴らすが、カイルは目を細めてから、数発的に向けて発砲して言う。


 「ライフリングが甘い。これだと連射は出来るが命中精度に問題が出る。あと、少し重いかな? 部品数を減らせないか考えた方がいい」

 『お父さん、私が触ってもいいですか?』

 「ん? どうするんだ?」

 『全部バラバラにしたら分かりやすいかもしれません』

 

 イリスがぺたっと地面に座ってウォッチドッグの解体を始め、流石のセボックも煙草を口から取り落とし、ガイラルは腕を組んでじっとイリスを見ていた。


 「……嘘だろ……」


 ものの数分で解体し終え、綺麗な部品が並ぶ。カイルは中腰でやるなあとイリスの頭を撫でながら笑う。


 『こことここ、これは要らなくないですか?』

 「そうだな……ライフリングは俺が調整してみよう。それじゃ次はスナイパーライフルを――」


 セボックは冷や汗をかきながらもにやりと笑いスナイパーライフル”EW-084 アルバトロス”を手渡す。カイルはこれも銃身の長さなどの指摘をし、セボックが設計をし直す。


 「……これで一度作ろう。一丁だけならすぐできる。待っていてくれ……!」

 「わかった。で、皇帝」


 セボックが出ていったあと、カイルはガイラルに顔を向けて声をかける。


 「なんだ? いやあ、助かったよ。恐らくすぐにやつらは部隊を送り込んでくる。間に合うかは分からんが、やらないよりはよかろう」

 「そうだな。後は……俺に何をさせたくてここまで連れてきた?」

 「ふっふ、まあそう言うだろうな。こいつを使ってあるものを作って欲しい」


 ガイラルが奥の照明をつけるとそこには――


 「!? サイクロプス! 持ち帰っていたのか!」

 

 カイルが叫ぶとガイラルはにやりと笑い、カイルへ話し始めた。

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