36. 



 「……行くぞ」


 「はい!」


 『シュー、はぐれたらダメですよ?』


 「きゅん!」

 

 カイルとフルーレ、イリスとシュナイダーは陽が昇る前から行動を開始。外に誰もいないことを確認してから、入ってきた方とは逆側の森へと抜け出る。

 ふたりの顔にはEA-192 ナイトゴーグルが装着されていた。これは魔力の動きを見ることができるため、おかしな質量がある場所があればすぐに気づけるためである。


 茂みを剣で切り裂きながら周囲を警戒しながら森を進んでいくが――


 「シャァァァァァ!」

 

 「蛇型魔獣……! ええい!」


 タタタタタタ!


 足元から襲ってきた魔獣はフルーレのアサルトライフルが火を噴き全身に風穴を開けて息絶える。


 「フルーレちゃん、伏せるんだ!」

 

 「え? きゃあ!?」


 直後、バサササ、と勢いよく羽音を立てながら大型の鳥型の魔獣が蛇の死体をさらって舞い上がっていく。そう思ったのも束の間、のそりと熊型魔獣が姿を現す。


 「村長の『遺物』は使われていないはずだが、魔獣が次から次に出てくるとは……! これは急いで探さないと、こっちがへばっちまうな!」


 ドン! ドン! ザシュ!


 「やああ! 仕方ありません、倒して進みましょう! でも闇雲に進んで大丈夫でしょうか?」


 「問題ない、魔獣が出てくる方向を目指してみれば恐らく――」


 ふたりは剣と銃を駆使して魔獣を倒していく。回復術がメインのフルーレには連戦が辛いだろうと休憩を挟みつつ進軍する。


 「す、すみません……」


 「気にしなくていいさ。回復術が使えなくなるのは俺も厳しいしな。戦闘する大隊じゃないのに頑張っている……よ!」


 「ギィィィ……!?」


 「きゅきゅん!」


 カイルがフルーレに笑いかけながら木の上に居た猿型魔獣の頭を撃ち抜き落ちてきて、シュナイダーがとどめとばかりに首をちぎって絶命させた。

 そろそろ出発しようかと水筒の水を口に含んだところで、森のをじっと見ているイリスが口を開いた。


 『お父さん』


 「どうしたイリス? 腹が減ったのか? ……いてっ!?」


 『その言い方だと、私はいつもお腹を空かせているみたいだから嫌です。それより、あの辺りが気になります』


 「蹴らなくてもいいだろうが……」


 イリスの頭をぐりぐりしながら指さした方角を見ると、キラキラと光の粒子が舞っているのを目にした。カイルは口笛を吹いてからイリスを抱っこする。


 「でかしたぞ! ……にしてもなんでわかったんだ?」


 『何故かはわかりませんが心が『何かある』とざわざわしています』


 「何か……?」


 「くぅーん?」


 フルーレとシュナイダーが顔を見合わせて呟くが、カイルはイリスを降ろすと歩き始める。


 「イリスが気になるなら『何かある』だろう、もうひと踏ん張りだ、行こう」


 しばらくしてその場所へ到着すると――


 「空気が違う、ような……これどこかで……」


 フルーレが目を見開いて周囲を確認する。ゴーグル越しに見える魔素の塊はともかく、雰囲気が先ほどまでの森と全然違うと思っていた。


 「……『遺跡』だな」

 

 『……そうですね。私が眠っていた場所に少しだけ似ています』


 「ここって外ですよね? 『遺跡』じゃないのに……イリスちゃんが眠っていたっていうのは……?」


 「ああ、こっちの話だ。多分『遺跡』とまではいかないけど、なにかそういう古代の代物があったんじゃないかな? ……魔素を中和するよ」


 カイルはカバンから取り出した瓶の蓋を開け、中に入っていた液体を振りまく。すると、空気中の魔力に触れたと思われる液体が紫色の霧に変化ししゅうしゅうと音を立てて霧散していく。


 「わあ……」


 フルーレが消えていく紫の霧をきれいだと思いながら見つめていると、やがてゴーグルを通しても魔素の塊は見えなくなった。


 「……こいつか?」


 『それです。胸がどきどきしていマス。オや、アー、あー……こほん……』


 イリスが何やら声を出している中、カイルは魔素ができていた場所にあったものを手に取る。それは黄色の珠だった。


 「黄色の珠……?」


 「だな、村長の持っている珠は赤と青……ここに放置している意味があるのか……?」


 オォォォォォォ……


 「なんだ!?」


 カイルが呟いた瞬間、とてつもない声が聞こえてきた。腹の底から恐怖を感じさせる咆哮がカイルとフルーレを委縮させた。


 「今のは……!?」


 『あー。うん。今のは村の方からですね。さっきより胸がざわざわします』


 「どうせロクでもないことのような気がするが……マーサが心配だ、戻るぞフルーレちゃん!」


 「ええ!」




 ◆ ◇ ◆



 バシッ!


 村長であるエスペヒスモがマーサの頬を叩き、マーサがこけたところにあった椅子にぶつかりガタンと倒れる。助け起こすことはせず、エスペヒスモは激昂して怒鳴り散らす。


 「奴らはどこへ行きおった! 家の中はもぬけの殻……お前がなにか吹き込んだのだろう!」


 「……彼ら、いえ彼は遅かれ早かれ気づいていたわ。……もう止めましょう、このままひっそりと森で暮らしていけばいいじゃない。復讐なんて何の意味もないわ。もう、死んでしまった私達に未来はないのよ?」


 「馬鹿なことを……! あの時の五十年前のあの日をお前は忘れてしまったのか!? 開発にずっと手を貸してきた私達に……あいつらは秘密保持のために死ねと言ってきたのだぞ! 許せるものか、許せるものか!」


 「今はもう五十年前とは違う。復讐を果たすべき人間はもうきっと居ない……」


 「うるさい! それでも私の娘を……お前をこんなふうにしてしまった帝国を許すわけにはいかぬのだ!!」


 パキィン……


 「ハッ!? い、今のは……魔素の塊が消えた感覚……? マーサ、お前!」


 「これで魔獣は操れないわ。後は私達が消えるだけ……」


 マーサは悲し気な笑みを浮かべてエスペヒスモ、父親へ言う。顔を真っ赤にしたエスペヒスモはすぐに肩を落とし、泣きそうな顔でマーサを見た後、踵を返す。


 「どこへ行くの?」


 「……こうなれば今ある魔獣と村人でこの島を蹂躙するしかあるまい」


 「死にに行くつもり!?」


 「諸共よ! ……さらばだ、我が娘よ!」



 「ま、待って!」


 マーサがよろよろと立ち上がろうとするが、操られた村人に抑えられ追いかけることはできなかった。


 そして――



 オォォォォォォン!



 屋根が崩れ、天井に大穴が開き、なにか巨大な影が咆哮を上げる。煙で良く見えなかったが、やがてその姿を見るマーサは一言、冷や汗をかきながらつぶやいた。


 「一つ目の……巨人……?」

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