33.
――カイルとフルーレはマーサと名乗った手紙の主だと思われる人物の後を追い森を進む。三十分ほど歩いたところで、カイルはふと周囲を見渡し奇妙だと口を開く。
「……おかしいな」
『どうしたんですか、お父さん?』
「きゅふん」
もう仲直りしたイリスとシュナイダーが揃って見上げてくる。カイルはイリスを肩車してからシュナイダーをフルーレに投げて渡し、考えていたことを口にした。
「魔獣だよ。さっきはあれだけ襲い掛かってきたのに、今は影も形もない。俺達を避けているような感じがしないか?」
「確かにそうですね。というより、なんだか空気が変わった気がします」
フルーレが空を見上げてそんなことを言うと、頭を掴んでいるイリスがぽつりと呟く。出発前に気にしていた
『村が見えてきました。……あそこから懐かしい感じがします』
「懐かしい……?」
「ビンゴってことか。弾丸はあるか?」
「あ、はい。ハンドガンは24発入りが6ダース、アサルトライフルは560発分持っています」
「俺のと合わせれば1000発以上はあるな。重いだろうけど、もう少し我慢してくれ」
「これくらいなら平気ですよ!」
カイルはそう言って村へと入って行く。
装備の大半は弾丸で、残りは食事が少し入っているだけといういたってシンプルなカバンだが、重量はそれなりにある。フルーレは汗をかいているものの、疲れを見せていないことを頼もしく思いつつマーサに声をかけた。
「ここがあんたの村か?」
「そう。フォゲット村よ、今日はここに泊っていくといいわ。村長に一言、言っておきましょう」
「あ、おい」
取り付く島もないマーサに、カイルは頭を掻く。イリスを降ろし、ひときわ大きい屋敷へと足を踏み入れていく。勝手に入っていいのかとカイルは思いつつも、どんどん進んでいくので三人と一匹は奥へと向かう。
「ふわあ……」
『すごいですね、魔獣の剥製のようです』
鹿や熊といった魔獣の上半身がまるで生きているかのように壁に並んでいた。フルーレは感嘆の声を漏らし、イリスはじっと目を細めてそれを見つめていた。
「きゅうん……」
「ははは、お前は剥製にしても迫力がないし、しないと思うぞ?」
「きゅん!? きゅんきゅん!」
シュナイダーの抗議はスルーされ、目的の部屋に到着したマーサが少しカイル達を一瞥し扉を開ける。すると中から不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。
「なんだ? ……マーサか。勝手に扉を開けるんじゃないといつも言っているだろうが! ……ん? そちらは?」
「帝国兵よ。森で魔獣に襲われていたから連れてきたの。協力してもらえるんじゃないかって」
「ほっほう! それはでかしたぞマーサ。村の者が失礼をしましたな、わしは村長のエスペヒスモという。見ての通り何もない村だが、ゆっくりして行って欲しい」
「俺はカイル。階級は少尉だ」
「わたしはフルーレと言います。階級は中尉です」
それぞれ襟にある階級章を見せながら名乗る。そしてすぐにカイルが質問を投げかけた。胸ポケットから例の手紙を取り出して。
「帝国にこの手紙が届き、俺達はこの島の調査のため本国から来たんだが――」
「ほう、手紙ですかな? 立ち話もなんですしどうぞこちらへ……」
エスペヒスモに案内され、リビングへと通される一行。村長自らがお茶を出し、席に着く。
「……手紙の内容とは?」
「端的に言うと魔獣が増えすぎて困っている、ということらしい。そして差出人の名前は……そこにいるマーサと書いていた。これはあんたが出した手紙で間違いないな?」
カイルがマーサに顔を向けて問うと、意外な返答が返ってきた。
「知らないわ」
「え!? で、でも、さっきマーサって名乗りましたよね……?」
「ええ、私の名前はマーサよ。でも、その手紙のことは知らない。……人違いか、町の人の誰かじゃないかしら?」
「……そうですか。まあ、俺達の任務は”増えすぎた魔獣の調査”なので、差出人が居ようがいまいが、関係ないんですがね。で、ここに来るまでの間確かに魔獣は多かった。この村と、帝国の駐屯地を起点に調査を進めさせてもらってもいいだろうか?」
「ええ、ええ。わしらも魔獣には手を焼いておりましてな。そうしてくれると助かります。何もない村ですがよしなに……」
「はい! 美味しそうなお茶ですねいただき――」
「おっと、手が滑った!」
カチャン!
「ああ!? カイルさん……」
フルーレがカイルを睨むと、カイルは悪びれた様子もなく椅子から立ち、口を開く。
「それじゃあ少し村を見させてください。飯は、自前で用意しているものがあるからお気遣いは結構です」
「そうですか? では、マーサよ案内をしてあげなさい。西側の家が空いていただろう、そこを使ってもらうといい」
「わかったわ。こっちよ」
「……よろしく頼むよ」
「カイルさん?」
『行きましょう、フルーレお姉さん』
「あ、うん」
カイルのマーサを見る表情が気になったフルーレだが、イリスに背中を押され屋敷から出ていくのだった。
一方そのころ――
「ガバットさん、目標……ロスト!?」
「なんだと? 今、目の前を歩いていたじゃないか!」
「それが……いないんです。影も形も……」
ガバットと呼ばれた部隊の隊長が訝し気にゴーグルを上にあげて膝をつく。気づかれたか、と思ったがそれなら声をかけてくるはずだと思いなおし地面を探る。
「ここからきれいに草を踏んだ形跡がない……」
「どういうことでありましょうか……」
「わからん。が、このまま二人を放置するわけにもいくまい。クレイター殿に報告だ、戻るぞ」
「「「ハッ!」」」
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