32. 



 タタタタ……!


 パン! ドン!


 「やったか!」

 

 「は、はい! カイルさん、後ろ!」


 「! おらよ!」


 バララララララ……


 「キシャァァ!?」


 フルーレの声で、背後の木から飛び掛かろうとしていた蛇型の魔獣を、ドグルが持っていたウッドペッカーより一世代前のアサルトライフルである”EW-023 スコーピオン”で、木に張り付かせたまま絶命させる。


 「助かった、ありがとうフルーレちゃん」


 「いえ。それにしてもこれは噂通り、ってところでしょうか……」


 「そうだな、これは骨が折れそうだぞ」

 

 カイルとフルーレは森に入ってから一時間ほどしたあたりで魔獣の群れに襲われた。踏んできた草の道があるため戻るのは問題ないが――


 「異常だな」


 「ええ、こんな数の魔獣は初めてですよ……」


 「そうじゃないんだフルーレちゃん。よく見てくれ」


 「え?」


 カイルが倒してきた魔獣の死体を指さし何かを示唆するが、フルーレは何を言いたいのかが理解できず、首を傾げたまま口を開く。


 「すみません、どういう……?」


 「まあ、がむしゃらに戦ってきたから無理もないか。魔獣の種類さ」


 「種類?」


 「ああ、例えばこの兎型魔獣、こいつはこっちのムカデ型の魔獣と一緒に出てくることは無いんだ。兎型はムカデの餌にってしまうからだけど、一緒に襲ってきただろ?」


 「そういえば……」


 「きゅんきゅん!」


 「……! この蛇型と――」


 タン!


 「ギャェェ……」


 「このカラス型魔獣が一緒ってのもあり得ないんだよな」


 「よ、よく気づきましたねシュー……」


 「きゅんー♪」


 「でも、どういうことですかね? 気が立って見境ないとか」


 カイルはフルーレの言葉を飲み込んで一瞬考えるが、首を振って答えた。


 「それだと食い合わない理由がわからない。あるとすれば……操られている、とか」


 「魔獣を操る、ですか……」


 「荒唐無稽な話だとは俺も思うけど、可能性の一つとして考えておこうってことさ。イリス、大丈夫か?」


 魔獣の気配が途切れたと感じたカイルは下げていたイリスを呼ぶ。シュナイダーが走り寄っていくと、イリスが木の陰から出てくる。


 『やりました』

 

 「どうした?」


 『オオクワガタです』


 イリスがスッと差し出した手にはオオクワガタが握られていた。ぎちぎちともがくクワガタを見てフルーレがカイルの後ろに隠れる。


 「どうした? 魔獣に比べたら昆虫なんて可愛いもんだろ?」


 「い、いえ、カブトムシとクワガタはアレに似ていて……」


 「ああ……」


 カイルがアレかと思い苦笑していると、中腰でシュナイダーにオオクワガタを見せつけながらイリスが喋る。


 『どうですかシュー。この大きさはきっと世界一です。そして大きい個体を売ると高いらしいのです』


 「きゅうん?」


 何のことかわからず、シュナイダーはふんふんとクワガタに鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。だけどそれがいけなかった。


 バチン!


 「きゅううん!?」


 『あ! シュー暴れては――』


 イリスが言った傍から、シュナイダーの鼻を挟んだオオクワガタはイリスの手を逃れ、あざ笑うかのように空へと舞い上がっていった。


 『ああ!? ……シューなんて嫌いです。もう口を聞いてあげません』


 「きゅん!? ……ひゅーんひゅーん……」


 「こらこら、シュナイダーをいじめるんじゃない。また捕まえればいいだろう」


 『おっきかったのに……』


 「ほら、シューもしょげないの」


 悔しそうな顔で網を握るイリスの手を引き、カイル達は再び進む。やはり、というか魔獣の攻撃は少し進むたびに激しくなる。


 「チッ、上級は流石に手ごわいな! 剣で止める、フルーレちゃんが撃て!」


 「はい!」


 パーン!


 「グルゥゥゥ……」


 虎型の魔物と遭遇し、何とか撃破したものの疲労と弾丸の数が心もとなくなってきたことに顔を顰めるカイル。戻るか、と決めたその時、イリスが何かに気づき声をあげる。


 『お父さん、あそこに人が』


 「なんだって? ……女?」


 「こんな森の中に……?」


 フルーレが呟くと、その女性に飛び掛かる影が見えカイルはすぐに駆け出す。近づくと、またしても虎型の魔獣かとうんざりしながら立ちはだかる。


 「危ねえ!」


 ガキン! 


 「グルウウウウ!!」


 「うっとおしいんだよ!」


 パン!


 「ガウ!」


 「避けただと!?」


 牙を剣で受けて頭に弾丸を撃ちこむはずだったが、虎型魔獣はスッと剣から口を離し後ろに下がった。


 「……俺達の戦いを見て学習したか? 確かに賢いのが魔獣だけど……」


 違和感を感じていると、虎型の魔獣はカイル達を一瞥した後、茂みの中へと逃げ去っていった。疑問は残るが今はこっちが先かと女性へ声をかけた。


 「お嬢さん、森の中は危険だと帝国がお触れを出していたと思うけど、どうしてこんなところにいるんだい?」


 「……その服、あなたも帝国兵?」


 「ん? ああ、まあそうだが質問に――」


 カイルが問いただそうとすると、女性はスタスタと歩き出し、フルーレが困惑しながら背中に声をかける。


 「ど、どこへ行くんですか! 町へ帰るなら一緒の方がいいですよ!」


 「……近くに私の村があるから大丈夫。あなた達も疲れているみたいだし、来る?」


 どこか遠くを見ているような目をカイルとフルーレに向けてくる女性。カイルは胸中で呟く。


 「(よくわからんが、なにかを知っていそうな気はする、か?)俺はカイル。帝国の第五大隊の少尉だ。確かにあんたの言う通り俺達は魔獣と連戦で疲れているからお願いしたい。君の名前は?」


 「こっちよ。私はマーサよ、よろしく」


 「……!?」


 帝国に手紙を出した主の名だと、カイルとフルーレは同時に目を見開いた。その様子を気にもせず、森を進んでいくマーサ。


 ふたりは顔を見合わせて頷き、後を追いかける――

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