第20話 真っ昼間からゲーム配信

 人一人は軽く丸のみ出来そうな巨大な身体、何者をも拒絶するかの如く身体を覆う鋼鉄のように固く鋭い無数の針。

 大空をかける事こそないが、大地においては他の追随を許さぬ程のスピードを誇り、あの巨体で突撃を受けようものなら、どんな強靭な肉体を持った者でもただではすまないだろう。


 地震と思い違えるの揺れと大きな土煙が舞い上がる。

 道中の樹木や動物などは一切お構い無しに吹き飛ばしながら突き進み、勢いそのまま獲物へ襲いかかり絶命させる。これがこの生物が行っていたいつもの狩りのやり方。


 だがこの時ばかりは相手が悪かった。

 地震にも動揺せず、土煙の中でもこちらの位置を正確に見定め、突進を避けながら機動力の要となる後ろ足を、自身の背丈ほどの長さがある太刀で切り落としてきた。


 唯一にして絶対といえる機動力という名の武器を奪われ、残った足で逃走を試みるもそれを許す相手でもなく、あとは一方的な殺戮でその生物の命は潰えた。


「――ふぅ」


 目的のモンスターの討伐に成功し、ミオは安堵からか浅く息を吐いた。



『はぇ~、鮮やか\1000』

『ソロでこれは早いわ』

『圧倒的ガチ勢\3000』

『あいつ今回だとかなり強いはずなんだけど…』

『てか敵の攻撃まともに食らったのある!?\3000』

『ちょっと上手すぎるって』


「…皆、ありがと」


 感嘆の声と共にパチパチと拍手の音もリビングに聞こえる。


「ミオちゃんすごーい!」


「何がどうなっておるのかさっぱり分からなんだのじゃ」


「すっげぇ上手いな」


 俺もこのシリーズはそれなりにやってきた。だからこそミオのやった事がいかに難しいか良く分かる。

 今回倒したモンスターはかなり上の部類だし、難易度も一番難しいやつだった。加えて防御出来ない武器を使って敵の攻撃が直撃した回数もゼロ。

 いやほんと、意味分からんことしてるわ。

 俺だったら防御出来る武器で行ってるし、それでもここまで早くクリアするなんてとてもじゃないが無理。

 ミオめ、あいつかなりのゲーマーだったみたいだな。


「…次、どうする? 4人で遊べるゲームする?」


「いいねー」


「お誘いは有り難いのじゃが、妾まだほとんど分からないのじゃ」


「初心者でも楽しめるのあったはず。――ちょっと待ってて」


 そう言って俺は棚に閉まっていたソフトを全てさらって来て、順に見ていった。


 対戦、アクション、ホラー、ここら辺は操作が単純じゃないし、まだ慣れてないゆかりには厳しいだろう。

 ――となると、パーティーゲームかボードゲーム辺りになるか。


「ゆかり、どっちのゲームがやりたい?」


 こういう時は本人に聞いてみるのが一番だと思い、両手にそれぞれのゲームを持って聞いてみた。


「どっちが簡単なゲームなのじゃ?」


「ん~、それはボードゲームじゃないかな?」


「…確かにそっちの方がルールは単純」


 確かにパーティーゲームだと毎ターン、ミニゲームがあるしそれぞれルールも違えば使うボタンも変わってくる。

 そう考えたらボードゲームの方が覚えやすいのは間違いないな。

 にしても澪歌とミオは知ってるって事はどっちも遊んだ経験があるみたいだ。


「このボードゲームはね、すっごく簡単に言うとサイコロを降って駒を進めて、ゲームが終わったときに一番お金を稼いだ人が勝利になるの」


「…目的地に一番乗りで多額のお金貰えるし、色々な効果のカードも駆け引きに使える」


「ふぅむ、覚える事は少なくて良さそうじゃのう。お主ら加減のほどは頼むぞい」


「よし、じゃあ準備するわ」



『おっ、これか!』

『今回のは当たりだったぞ』

『友情破壊期待w\3000』

『100年耐久プレイか!?』


「100年耐久は無理だって、絶対途中で寝るわ。――それと、友情破壊を期待してるとこ悪いが、最初は貧乏神は無しで行くから。まぁすぐに有りにするだろうけども」


 暗転していたテレビは軽快な音楽と共に明るくなり、タイトルコールと共にスタート画面が表示された。


「最初は何年にしよっか?」


「縁の練習も兼ねてるんだし、3年で良いと思う」


「まあ、それだけあればルールを把握するのには充分か」


「のう。貧乏神とは何なのじゃ?」


「ついた人に色々邪魔をする妨害キャラクターだよ。誰かが目的地に到着した時に、そこから一番離れた人に着いてくるの」


「もし着いても他の人がいるマスに行けば擦り付けられる」


「ほう。それも駆け引きのうち、というわけじゃな。――面白そうじゃ、最初から貧乏神は有りでやるのじゃ!」


「ゆかりがそれで良いなら。――後悔するなよ?」


 かくして第一戦目、期間3年の貧乏神有りでゲームは開始された。




「…嘘だろ、何でこの年数でこいつ引くんだよ」


「――これが純然たる実力の差、というものじゃな」


 一戦目はあっという間に終わりを迎え、一位のゆかりから三位まではあまり差は生まれなかったものの、ビリの俺は一人、多額の借金を背負ったままゲームが終了した。



『草』

『草』

『後悔するなよ(キリッwww』

『優の一人負けじゃねえか\1000』

『この年数で一番キツいの引くあたりある意味持ってるな\1000』



「俺もさ、一位独走してたから確かにちょっと余裕ぶっこいてたけどさ。最後の最後でヘルモード来るか普通。まじでやられたわ」


 順調に資産貯めてたのに、まさかヘルモード引くとは思わなかったし、一回で借金まで落ちるとも考えてなかった。

 少し調子に乗ってわざと貧乏神引き取ったらこれだよ。

 ――まあまあ、ゆかりももう慣れたみたいだし、それにある意味でレアな物見れたんだから、撮れ高的には美味しいオチだと思って納得するか。


「ゆかり、だいたい理解出来たか?」


「そう、じゃのう。また分からぬところが出てきたら教えて欲しいのじゃ」


「もちろんだよ。じゃあ次は何年にしよっか?」


「5年でも10年でも僕は構わない」


「じゃあ次は5年でやろうか。次はちゃんとやろうかな」



『頑張れー』

『優ファイト!』

『フラグにしか聞こえないのは気のせいか?』

『次もドベってことは流石にないだろうよw』

『みんな頑張って!』

『優のオチに期待してるわw』



「なんで……、……どうして。おかしいって、絶対確率おかしいわ」



 二戦目も俺が他の追随を許さない圧倒的なドベっぷりを見せつけた。

 三位のゆかりも借金で終わったが、それこそ桁違いの借金を俺はこさえてしまって終わりを迎えた。


 原因は簡単、また貧乏神のせいだ。

 他の人についたときは軽微な被害で済んでいたのに、俺についた途端、最悪のヘルモードや物件飛ばしていくトルネードモードばっかりだぞ!

 こんなの勝てるか! そもそもまともに勝負にすらならないよ。

 配信者として撮れ高的にはバッチリだったけど、あまりの惨状に心の中では号泣してたわ。

 というか、絶対おかしいわ。こんなの今までなかったのに。

 ただの遊びではあるけどさ、流石にこれはきっつい。



『いやー、流石!信じてた!\2000』

『貧乏神が明らかな殺意を持って殺しに行ってて草生えたわwww』

『さっきもそうだけど、優ほんと凄いな』

『泣かないで\5000』

『どんまいすぎる』

『こんなんある?』

『これ絶対アーカイブして』



「堪える結果になったけど、流石に泣きはしないよ。心配してくれてありがとな」


「それにしても凄かったね優君」


「ん、他の人では真似出来ない。優持ってるね」


「かような結果になるとはのう。ゆう、もしやお主、このげいむ苦手なのかのう」


「いやいやいや、そんな事ないぞ。ちょーっと一、二回、負けただけだから。――次はラスト10年でどうよ?」


 俺の提案に首を横に振る者はおらず、三戦目のゲームが決定した。


 良し! 流石に次は本気で勝ちにいってやる!


 などと意気込んでプレイしたものの、今回もボッコボコにやられて最下位のままゲームは終了した。


 結局全部俺の一人負け。もう悔しいというよりただただショック。今日はどうにもこのゲームからとことん嫌われていたらしい。

 とはいえ、三人の誰かがギスギスする事もなかったし、配信者としては撮れ高的にとても美味しい役回りだったのでそれで良しとしようか。

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