第16話 澪歌が部屋から出られるように
「折角来てくれたんだし、俺達としても協力したい気持ちはあるんだが問題点がいくつか」
「…なにかな?」
機材もそのままだが、配信も終わった事でミオはさっきより多少落ち着いたようで、テーブルに用意されたコップ入ったお茶を口にする。
「私が怖いの苦手なのと、一人だと部屋から出られない事かな」
「…部屋から出られないのは、動画見たから知ってる。怖いの苦手なのは予想外だったけど」
「ごめんね。幽霊なのに」
「そんな事気にしない。それに大抵の相手なら僕がどうにでも出来るから」
「どうにでもって、ミオ。その口振りだと何か対抗手段とかあるのか?」
「ん、話すの遅れたけど僕、霊能力者なの。だから――」
霊能力者。
その言葉が聞こえた途端に、澪歌が俺を盾にするような形で後ろに隠れた。
「わ、私を祓ったりは」
「安心して。二人は僕の推しだから。推しに手を上げるなんて有り得ない」
「だとよ。良かったな澪歌」
「私は最初から信じてたよ? 一応、念のために聞いただけで」
速攻で人を盾にしたくせによく言うよ全く。
「実際に霊を祓ったりとかしたことあんの?」
「ん、子供の頃から見えてたから修行して、人に悪さをする霊は祓った事ある」
そういうのってほんとに実在するんだな。澪歌もそうだけど、ミオも大概他ではみない事してきたようだし。
「そういう力があるのにわざわざ助力を求めるって事は、相当ヤバいやつとか」
「どう、なんだろ。呼ばれているのとその場所は分かるけど、誰が何のためにかは分からない」
「んー、どっちにしろ澪歌が出れない事にはな」
「優君と一緒なら大丈夫だけど、長くなるなら難しいよねぇ」
「どうして?」
「ほら、長くなるとトイレに行きたくなるだろ。流石にそこまで一緒ってわけにいかんし、一分以内に戻ってこれるとは限らないからな」
「その、時間切れになったらどうなる?」
「強制的にこの部屋に戻されるの」
近場ならどうにかなったろうけど、遠出するとしたらそういうところが問題になってくる。
遠出してる間、ずっとトイレ行くなとか生理現象だし無理があるからな。
どうしようもない時はどうしようもないものだ。
え? オムツでもしてれば良いって?
それもありっちゃありな気がするが、どっちにしろ後処理で結局時間切れになる可能性があるからな。
それにも付き合わせれば解決しなくもないんだろうけど、流石にそれは無理! どんな羞恥プレイだよ!
外でずっと澪歌に触らなくても大丈夫な状況にならないと、遠出なんてとてもじゃないが無理だ。
「実際に見してもらってもいい?」
「良いよー、まず私一人で行くね」
玄関口で二人、澪歌が出ていくのを見送ると、いつも通り一歩外に出た瞬間にその姿は消え失せた。
「うーん、相変わらずだね~」
とっくに慣れたのか特に落胆した様子も無くリビングから澪歌がゆっくりと歩いてきた。
「だなー。じゃ、次はいつも通り俺と行くか。ミオも見るんならついてこいよ」
「ん」
「ん~~、あ~っ、やっぱり外はいいね。風も気持ちいいし」
夜遅く、暗がりの街を見ながら大きく伸びをし澪歌は嬉しそうに話す。
まだ暑い季節ではあるが、湿気や熱気は感じられず心地よい感触の風が三人に吹いていた。
「確かに今日らいい風だな。――さて、外に出たわけだけど、このまま俺と澪歌がお互い触れあわないでいると、そのうち澪歌が時間切れで部屋に強制的に戻されるんだ」
「何か仕組みとか分からない?」
「ハッキリとした理由は。俺達は波長が合ってるからじゃないかと考えてるけど」
「最初は優君から離れた瞬間に戻されたけど今はほら、こうして少しなら自由に動けr――」
まだ途中だったろうに、時間切れとなったらしく澪歌は俺達の目の前から消えていった。
「あー、まあこういう事だから。取りあえず戻ろうか」
「ん。……優が触ってる間は大丈夫なんだね?」
「ああ。触ってる間と時間切れになる前にまた触れば大丈夫だ」
「…………そっか」
「二人ともおかえり~」
一足先に部屋へ戻されていた澪歌がリビングのソファでだらしなく横になりながら声をかけてきた。
「まったりしてんな」
すっかりいつも通りの二人とは対照的に、ミオは一人何か考えをまとめているかのように俯いて押し黙っていた。
「ミオちゃんどうしたの?」
「…………僕に考えがあるんだけど、二人とも少し協力してくれる?」
「まあ、出来ることなら」
「何すればいいかな?」
「ハサミってある?」
「ハサミね、ちょっと待ってろ」
ハサミハサミ、えーっと、どこにやったっけ。普段あんま使わないからなぁ。あ、確か台所の棚に閉まってたような。
「あったあった。ほれミオ」
「ん、ありがと」
テーブルに置いたハサミの横にはいつ用意されたのか白い紙の小さな包みが二つ。
「確認だけど、澪歌は優と一緒なら外に出れるんだね?」
「うん」
「まあそうだな」
「…なら、外に出る時にあらかじめ優の一部を身に付けていたら、一人でも出れるんじゃない?」
「おぉ~なるほど」
「一部ってどこよ。何か物騒な響なんだけど」
指とかだったら勘弁だぞ。
――あ、でもあれか! 爪なら大丈夫か? 切ってもまた生えてくるしな。
「一部ってアレか? 爪とかか?」
「ん、あとは髪も少し欲しい」
オーケーオーケー。髪と爪なら問題ないわ。良かったー、というか冷静に考えたらそうだよな。そこ以外に取っても大丈夫なとこってないよな! ちょっと警戒しすぎてたかもしれん。
「取ってもいい?」
「分かった。どれぐらい用意すればいい? 爪は細かく切った方がいいか?」
「え、えっと――」
「駄目だよ優君」
何かを察したのか澪歌はにんまりとしながら言葉を続ける。
「こういうのは自分でやるんじゃなく、プロにしてもらった方が確実だよ」
「ん、んん、そう、だね。大事な事だから、僕が直接やった方がいい、と思う」
なるほど、確かに一理ある。澪歌のあの顔が少し気になるが、アイツのためにやってるのに何か楽しんでない? まあ楽しそうならなによりだけど。
「確かにそうだな。それじゃミオ、よろしく頼む」
「ん、そこに座って?」
言われた通り床に座ると、ミオは膝立ちのまま両手で俺の髪をまさぐるように触ってきた。
ん? 何か調べてるのか? 髪の場所によってなんかの効果が違ってくるとか? んー、さっぱり分からんけど、こうしてるって事はやっぱり意味があるんだろうし任せて良かったな。俺だったら何も考えずに前髪切って終わってた気がする。
それにしてもミオのその体勢ヤバいって。ちょうど目の前に大きな物体が来てるし、ミオが少し動くだけでそれも連動するように揺れて。それに香水なのか良い香りもしてくるし。
「ん、ここがいい」
俺の事なんてお構い無しにミオは調べを進め、取るところを決めたのかハサミを持って、俺のつむじ辺りの髪をそれなりの数、極力根本の方から切っていた。
「結構いったな」
ミオの手に握られた髪を見て素直に思う。そこそこ伸ばしていたのもあって少し寂しい思いもあるが、事が事だけに仕方ない。
それに髪はまたほっといても伸びてくるしな。
ミオは取った髪を綺麗にまとめ、包み紙の一つに入れる。
「次は爪。手を出して」
テーブルの上に手を出すと、ミオの女性らしい小さな手が触れ、ゆっくりと俺の爪を切っていく。
出来るだけ大きな塊で取れるように切るが、その仕事も丁寧で深爪にならないような気遣いも見受けられた。
爪切りが終わると小さい物を取り除いて、髪とは別の包み紙に。
「ん、ありがと。あとは――」
しっかりと閉じた包み紙にミオが指を置いた瞬間、青く発光したかと思うと包み紙に綺麗な紋様が浮かび上がった。
「――ッ!? なんだ今の!?」
「びっくりしちゃった」
「中の保全と包み紙に封をした。これで中の鮮度は変わらないし、開けようと思っても開けられない」
「そんなの出来たのか。――でも燃やしたりしたら開けれるんじゃない?」
「大丈夫。熱や水にも強くなったからそんな事じゃ開かない」
早速試しにと台所でやってみたが、ミオの言っていた通り包み紙は破れなかった。どころか、焦げ目や濡れたあとも一切見受けられない。
「はぁー、すっごいなこれ」
こんなの出来るとか最早魔法の領域では? 霊能力者ってこんな事も出来るのか。
にしてもこの中に髪の毛や爪が入ってるって全く関係無い人が知ったら、ヤバめの呪われている道具かなんかにしか思わないだろうな。
「澪歌、これ持って外に出てみて」
「うん。どうなるんだろう、ドキドキするね」
髪が入った方の包み紙を渡され、胸の前で大事に持ったまま緊張した面持ちでドアを開け――。
「ふ、二人とも見てる?」
「あ、ああ…」
「ん」
一人で出る度に何度も何度も戻されて、俺と二人でないと外に出られないと思っていたが、今見える澪歌は確かにドアから一歩外に出ているにも関わらず、消えることなくそこに存在し続けていた。
「澪歌、こっちの方も試して」
「うん!」
爪の方の包み紙でも効果は変わらず、澪歌が消えることはなかった。
「…凄い」
こればかりはてっきり無理なものと諦めてたけど、まさか解決してしまうとは。
これで澪歌も好きに外へ行き来出来ると思うと少し寂しい感じもするが、それ以上にめでたいことだ。
「これで問題解k――「ミオちゃんありがとー!!」
無理だと思っていた事が解決した事で感極まったのか澪歌はミオに勢い良く抱き付き、その体を自身で埋め尽くすように抱き締めていた。
「ん、――ッ! ――!!」
ミオの顔は澪歌の胸にうずめられ、息がしずらいのか声にならない声を上げている。
「澪歌、嬉しいのは分かるがミオ苦しそうだしそろそろ解放してやり」
「えっ――! あっ、ごめんね私浮かれちゃって。ミオちゃん大丈夫?」
我にかえった澪歌にようやく解放されたものの、ミオの顔は赤く染まり、呼吸も荒く肩で息をしていた。
「だ、大丈夫。びっくりしたけど。とにかくこれで問題は解決したね」
「そうだな」
「ミオちゃんのお陰だから私何でも協力するよ!」
「…ありがと」
「ねぇ二人とも! 折角だから必要な物とかの打ち合わせ外でしない?」
「僕は別にどこでも」
「テンションが高すぎるが、まぁ今日はしゃーないな」
「やった! それじゃ早速行こう! あんまり遅いと置いていっちゃうよー!」
もうすぐ深夜と呼べる時間帯。
テンションの高い女性をはじめとした三人は夜遅くまでブラつきながら話を弾ませていた。
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