第15話 頼み事
引っ越し? 旅行?
分からんけど、こんな時間に一人で訪ねてくるってあんまり良い話じゃない気がする。
「こんばんは。こんな時間にどうかしたの?」
「少し、お願いがあって」
やっぱり。こういうのは厄介事だって相場が決まっている。何とか帰ってもらいたいとこだが。
「あー、ごめんね。今ちょっと立て込んでて」
「知ってる。配信、だよね」
そういって少女が見せたスマホには、俺達の配信画面が映し出されていたが、そこに澪歌の姿は無くチャット欄だけが流れていた。
この子視聴者!? 確かに外出する時とか変装してなかったけど、気付かない内に住んでるとこまで特定されてたか。
困った、どうしたもんか。ってか澪歌はどこ行ったんだ。
ギィ、と軋む音に振り返るとリビングに繋がる扉が少し開いており、そこから澪歌が顔だけ出し様子をうかがっていたようだが、俺と目が合うとリビングの方へ戻っていき配信の画面にまた映っていた。
同時にチャット欄も流れが早くなって。
『どうだった!?』
『やっぱ変な業者に捕まってたか?』
『むしろ無事だったの?』
『宅配だったらもう戻ってきてるしな』
『ちゃんと生きてたか?』
こいつら。いやでも、これは心配してくれてるのか?
まぁ確かにそろそろ戻らんと駄目だよな。――って澪歌も何か打ってるし。
『知らない女の人と居た。結構可愛い感じだったけど、優君もたぶん知らないような感じだったよ』
『おいおい』
『別に女作ってたか!?』
『彼女とか?』
いや知らない人です。
これ以上あいつらほっとくとアレだし戻らないと。
「見てくれてるのは有り難いけど、知っての通り今忙しいから」
「邪魔はしないから、中で待たせて?」
配信中に来てる時点でアレなんだけど。
でもこんな時間に外に一人で待たせるってのもよろしくないのは分かってる。
「静かにしててな」
「ん、約束」
「じゃあここで待ってて」
音が出るキャリーケースは玄関に、少女は取りあえず俺の部屋に案内しそこで待っててもらう事にした。
「ただいま」
リビングに戻りマイクを再びオンにし帰還を告げる。
『キタ━(゚∀゚)━!』
『おか』
『おかえり』
『報告はよ』
『待ってた』
『遅いぞ』
「ちょっと優君、さっきの女性誰? 知り合いって感じじゃなかったよね?」
『そーだそーだ!誰なんだ!』
『彼女じゃないん?』
『妹とか?』
『訪ねたのは僕だよ\1000』
『昔一緒だった幼馴染みって線は?』
「いや俺も知らない。何でもなんか頼み事があるみたいなんだが、――ってまさかこのコメ」
いやいやまさか。配信見てるっていってもまさかこのタイミングでスパチャしたりしないだろ。
『↑マジ?』
『↑流石に嘘でしょ』
『いいえ私です\1000』
『実は俺が行ったんよ』
『いま優の部屋で待たされてる\2000』
「優君?」
なんだろう、澪歌から圧を感じるんだけど。
「頼み事があるみたいだし、話は聞いてみないと」
「……それはそうだけど」
『まさかマジ!?』
『マジもんか?』
『優のベッドってなんだか安心する匂いする。みんなおやすみ\3000』
『面白くなってきたなw\1000』
『配信中にリスナーの家凸とか笑えんわwww』
『期待』
「優君、私ちょーっと用事が出来ちゃって、――……優君優君、あそこ」
部屋に突撃でもするのかと思ったが、急に澪歌は小声でささやきながらドアの方を指差した。
「ん? ――っておいおい」
部屋で待ってるように言ってたはずだが、その少女はドアを少し開け、気付かれるとさらに身をのりだしこちらを凝視し続けていた。
『なんだなんだ』
『どうした?』
『そこにいんじゃね?』
『出会ってしまったのか…』
「ドアのとこにいるんだけども、どうする? 配信止めて話聞きに行くか?」
「う~ん。――……みんなはどうかな? 彼女が来てくれるなら見たいかな?」
『見たい!』
『当然』
『みたいみたい』
『マジでいたのか!?』
『ガチとは思わなんだ』
『お?』
『…まさか』
「みんなそう言ってるけどどうするの? 取りあえず部屋に入っておいで」
澪歌の促しが嬉しかったのか、一瞬大きく目を輝かせ少女はリビングに入ってきた。
「――――ッ!! か、可愛い!! ちょっと優君、本当に知り合いとかじゃないんだよね?」
さっきまでの圧はどこへやら。その姿を見た澪歌は驚いた様子をみせながらも警戒心は無くなっていた。
「知らないって。今日が初対面だ」
『二人だけで盛り上がるなー!』
『めっちゃ気になる!!』
『カメラもうちょい移動させて』
『彼女ってちゃんと人間だよな? 猫や犬って落ちはないよな?』
『全裸待機してるの! 風邪ひくからはよ見せて!!!』
皆の期待が凄い。まぁ実際それだけ可愛い子だとは思うけど、流石に無理強いは出来んだろ。
「すこーし出てみる? だいじょーぶ、何かあっても私達が守るから」
澪歌の優しい声色に少し考え込んでいたようだが、ゆっくりと少女は首を縦に降った。
「ん、じゃあ俺は一旦退いとくな。三人だと少し狭いし。――ほれ、ここ座り。あー、予備のマイクは――あった」
「…ありがと」
頬を染めつつも小さくお礼を返した少女は、そのままおずおずと澪歌の隣へ腰かけた。
「お、お邪魔します」
「いらっしゃい。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
『おおっ!!!』
『可愛い!』
『でっっっか!!\8181』
『でかい(確信)』
『間に挟まりたい\8888』
『めっちゃ若ない?』
『リアルで会いたい!\5000』
『期待を軽く越えてきた!!( ; ロ)゚ ゚\1000』
『まさかほんとに人間だったとは』
『お嬢さんを僕にください!!!』
いやチャット欄凄いな、流れがめっちゃ速い。気持ちは良く分かるけど。
にしてもスパチャ投げすぎでは? 有り難いけども。
「私は澪歌、そっちにいるのは優君ね。貴女はなんて呼べば良いかな?」
「えっと、……ミ、ミオと…」
『ミオちゃん!!!』
『ミオちゃんかわわ\2500』
『ミオちゃんprprprpr』
「よろしくねミオちゃん。――それでミオちゃんは何か頼み事があるって聞いたけど、聞いてもいい?」
「…うん。僕あっ、私は――」
「固くならなくて良いよー。いつも通りでだいじょーぶだから、ね?」
『ボクっ娘キタ━(゚∀゚)━!』
『はあぁ~かわえぇ\3000』
『無理死ぬ\5000』
『尊死待った無し』
『これは推せる\8181』
『もうすっかりゲームは忘れられてるw』
「あり、がと。――えっと、最近僕は毎晩同じ夢を見るんだ。その夢で何かに呼ばれている気がして」
「うんうん」
「目が覚めても内容も場所もしっかり頭に入ったままなの。でも遠いし確認しに行くにも一人だと少し不安で」
「一緒に来てほしいんだ?」
「うん。…二人は人と幽霊なのに仲が良いから」
「えーっと、協力したのは山々なんだけど…」
助け船をとでもいいたげな瞳で澪歌はこっちを見つめてくる。
…そうだな。澪歌が怖がりなのを除いても、話を聞く限り遠出になりそうだし、一応詳しく話を聞いてからにしよう。
「そうだな。色々と問題もあるし、取りあえず詳しい話はこれからしようか。――って事で配信はここまでな。また後日報告するから」
「みんなバイバイ、またねー」
『そりゃないよ』
『マジかよ!』
『バイバイ!』
『気になって夜しか眠れなくなるだろ!』
『報告待ってる』
『乙』
『ほなまた』
『おつー』
別れを告げ配信は終了し、早速話の続きをすることにした。
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