第14話 予期せぬ来訪者
幽霊なのに怖いのが苦手。
先日思いがけず発見したこの弱点だが、これはかえって使えそうじゃないか。
「――というわけで、今日はこの二つからやりたいの選んで」
両方の手にそれぞれ少しタイプの違うホラーゲームを手にし澪歌に迫る。
「どういうわけなのかさっぱり分からないよ! それにそれって両方とも怖いのだよね? 私は、前みたいにみんなでわいわい遊べるのが良いなあ」
「それはまた今度な。今日はこのどっちかだから」
「うぅ…、優君のいじわる」
逃げられないと観念したのか、諦めたように両方のゲームを見比べる。
一つ目が『パンデミックハザード』というゾンビゲーム。
銃やら近接武器を使ってゾンビを倒し、生き残っていくのが目的。
主人公も特殊部隊の隊員から、どこにでもいそうな主婦まで選べ、選んだ主人公によってゲームの難易度や初期装備も変わる。
また他の生存者もいるが、それを助けるか助けないか選択する事も可能で、何回やっても飽きが来ない作りとなっているゲームだ。
二つ目が『Unknown』というタイトルの探索型ゲーム。
心霊探偵の主人公はある大きな屋敷で起こっている心霊現象の調査を請け負った。
調査中に襲い掛かるあらゆる心霊現象から身を守りながら心霊現象の原因を突き止めるのが目的のゲームだ。
このゲームの最大の特徴は主人公が武器を持っていないという点だろう。
使用回数の制限はあるものの、自身の身を守る為の護符はあり、それで心霊現象に襲われても一時的に撃退する事は可能。
だが、倒せていないので暫くするとまた襲い掛かってくる。
どれだけ心霊現象を上手くかわしながら目的を達成するのかがクリアの鍵となっている。
「うーん。どっちも嫌だけど、こっちにしようかな。反撃出来ないのは辛いし、見えない心霊現象よりゾンビの方がまだマシなように思えるからね。――動画にするの? それとも配信?」
「……そうだな。配信で」
動画だったら編集作業で時間取られるのに比べ、配信だと垂れ流しで良いぶん楽だし、ちゃんとガチでやってるって分かるからな。
「じゃあ今晩早速やってみよか」
「いいよ。私の実力を見せてあげる」
「あっ、ちょっと、ちょっと待って。――いやぁあああ!」
繁華街にある薄暗い路地裏、悲鳴をあげ今にもゾンビに襲われそうになっていた女性を助けようと初期装備のハンドガンを構えたものの、背後から迫っていたゾンビに気付かず襲撃を受けやられてしまった。
『草』
『草』
『乙w』
『まーた死んでるよ\250』
『www』
『弱すぎるw』
「これで何度目だよ。ちょっとやられすぎだろ。――あ、またスパチャありがとな」
少額だが澪歌がやられる度に投げてくれる人いるな。
俺としてはありがたいけどやってる本人はどうなんだろうか。
「スパチャありがとー。それにしてもこのゲーム難易度おかしいよ。あっちもこっちもゾンビだらけだし、こんなのクリア出来ないよ」
「まぁ一人称視点ってのもあるだろけどな。…しゃーない。俺も参戦するか、協力プレイといこうじゃないか」
「おー、頼もしい。そうだよね。二人でならクリア出来るよね」
「ああ、任せておけ」
「…………あれっ?」
ゲームを初めて僅か数分、何でもないところでゾンビに襲われ俺は死んでしまった。
『うっそだろ!?』
『流石に草』
『草』
『即落ち2コマやめろw』
「…えっと、優君?」
「いや、今のはあれだよあれ! ――そう、練習だよ。ちょっと操作確認もしときたかったし? 次はやられないって」
操作は覚えた。三人称視点で見れればまだ楽だったんだけど、それは出来ないみたいだしその辺は慣れてくしかないな。
基本周囲を出来るだけ見ながら移動しとけば不意打ちも防げるだろうし。
うん。そこらあたりを意識してやってみよう。
あ、そういえば。
「やっぱり助けて仲間を増やしてった方が良いのかね? 皆はどうやってた?」
仲間を増やせるのもこのゲームの大きな魅力だし、皆どうしてるのかは一応参考までに聞いておきたいところ。
『最初の頃は集めてたなあ』
『正直近距離は元ボクサーのおばちゃんだけでいける』
『コンプしてからクリアしてた』
『単純に増やせば増やすほど楽にクリア出来る』
『増やしすぎると一気にヌルゲー化するけど、一部仲間にしない方がいいやつもいるから注意』
「なるほど。基本増やしてけば良さそうだな。てかおばちゃんやばいな」
「みんなアドバイスありがとう。これなら良いところまでいけそうだよ」
「優君! そっちから来てるよ!」
「分かってる!」
仲間も増やし道中も危なげなく進み、相対するのは体のいたるところが肥大化し、変色しているその様は到底と元が人は思えぬ異形の存在。
視界を遮る物もほとんどない大きな広場でプレイヤーに有利な状況といえる。
何度も何度もやられてようやくボスまで来れた。
残弾も心許ないが仲間が上手くヘイト稼いで多方面から攻撃出来る今こそ千載一遇のチャンス!
ここぞとばかりに銃撃音が幾重にも鳴り響く。
つんざくような悲鳴と鈍い音と共に怪物は崩れ落ち行動を停止させた。
と同時にステージクリアの表示が出現し、無事生き残る事に成功した。
『おー』
『おめ』
『クリアおめでとー\5000』
『まだ先は長いけどとりあえずおめ』
『俺も久し振りにやりたなってきたわ\2000』
『クリア記念\10000』
「ありがと、ありがと。いやー、結構辛かったわ。正直舐めてた、もっと楽にクリア出来ると思ってたけど」
「みんなのアドバイスのお陰でクリア出来たよ。ほんとーにありがとね」
『次いこ次』
『次もまたすぐに死ぬんだろうなぁ』
『最初と比べると腕上げたよ』
[ピンポーン]
『次期待』
感想をいいながらチャットを見ていると、来客を知らせる甲高い機械音が室内に響く。
「…ん? 何だこんな時間に。見てくるからマイクオフにしといて」
「はーい、ごめんねみんな。少し待っててね?」
『草』
『流石にチャイムは草』
『ワロタw』
『いてら』
『出前か?』
『優が戻って来るまでチャットしとこ』
「はいはい、今行きますよー」
しっかし何だろうな? 特に何か注文した記憶も無いんだけど。
二度三度と鳴るインターホンにそんな事を考えながら扉を開ける。
「……こんばんは」
視線を少し下げるとそこには、少し短めに揃えられた薄く輝く銀の髪、雪のような白い肌、澄み渡る大空のように蒼い空色の瞳が上目で俺を捉えていた。
夏らしい爽やかな色の薄着を纏い、服を押し上げこれでもかと主張する二つの物体。
後ろには少女の一人旅行には少し大きめなキャリーケースが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます